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乗務11 運転手:カーク・キーン⑤

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 俺の名は『カーク・キーン』。
 今はしがない『職業:運転手』のはずなのだが、何故か古巣である王都騎士団宿舎裏の訓練場で"現"副団長ザークォとの戦闘をすることになった男だ。
 
 とりあえず戦闘後に騎士団長であるエムリスを殴るのは確定として、問題は…。

「さあっ、開始の合図をっ!!」

 …と、とてもやる気になっている"現"副団長ザークォをどうするか…なんだが…。

 チラリと視線を外し周りを見る。
 心配そうにこちらを見ている第三王子ドライ殿下を他所に、口角を上げ、親指を下に向けて喉を切る仕草を俺に見せる騎士団長エムリス。
 お前、あとで絶対殴るからなっ!

 まぁ、ザークォの上司である騎士団長からのお許しが出ているし………ヤってしまってもいいか…。
 そして俺は『とびっきり』の敗北をプレゼントしてやろうと決め、視線をザークォに戻す。

「では模擬試合を始める!両者構え!………始めっ!!」

 お互いに刃を潰した剣を構える。
 ザークォは変わらず厭らしい笑みを浮かべているが…。コイツが「コレを使うといい…」なんてニヤニヤしながら渡してきた訓練用の剣だ…どうせ何か細工でもしているのだろう。
 ソレはソレで準備が良すぎる気もしないでもないが…。と言うか絶対細工済みだろう…。

「どうしました?かかってこないのですか?」

 変わらずニヤニヤとしながら俺に話し掛けてくるザークォ。
 そう言えば…も何も、前から面倒くさいし、ムカつく奴だったな…と思い出し、エムリスからのお許しも出ていることだし、プライド"は"高いコイツをおちょくるのは簡単だ。
 どうやって潰そうか悩ましかったが、まずは舌戦にでも付き合ってやろうと俺も口角を上げる。

「三席…いや、今は副団長だったか…。お前相手に俺から行く必要なんかねぇだろ…」
「(……口調が?)……辞めてから剣なんて振っていないのでしょう?"元"副団長殿…ウォーミングアップさせてあげよう、そう言っているのですよ」
「……ウォーミングアップ?んなもんいらねぇから、さっさと来いよ…現副団長がどれくらいやれるか確かめてやる」
 
 俺はそう言い、右手の剣を肩に乗せ、左手の指を「クイクイ」と挑発する。
 コレにはイラッとしたのか、ザークォは…

「チッ…平民が…」

 と小さく呟く。いや、聞こえてるだけど…

「もういい、カーク・キーン!私は貴様が気に入らなかった。平民の分際で団長にすり寄り、副団長という地位にいた貴様がな!」

 ……ん?……何か長くなりそうな…

「成り上がり…いや、団長の恩情だけで副団長になり、平民の貴様が伯爵家次期当主である私に平気な顔で命令を下す………どれほど屈辱だったか…」

 ザークォのその言葉に見物している騎士団員の『貴族派』が騒ぐ。
 ……なるほど、エムリスめ…。が狙いだったか…。
 ザークォは拳を握りしめ、言葉を続ける。……いや、長いんですけど…?とは思ったが、騒ぐ貴族派の騎士団員の周りを『サササ…』と王族派…と言うより平民から騎士になった団員たちが囲み、取り押さえる準備をしていた。
 
「屈辱も何も上司なら下の者に命令を出すのは当たり前のことだろう…貴族とか平民とか何言ってんの?」
「分を弁えろ…そう言っているのだ!」
「いやいや…分を弁えるのなら、それこそ当時は上司だったんだから当たり前のことだろう…。本当お前何言ってんの?大丈夫?」

 チョンチョン…と自分の頭に指を当て、そう言い返す。
 そんなことをすれば当然…

「貴様っ!!」

 激昂するザークォに…

「平民がっ!!」
「ふざけているのかっ!!」

 同調する貴族派の騎士団員たち… 

 おうおうおう…完全に悪者だなぁ、コレ。
 でもまあ、ちょっと楽しくなってきたし、もう少しからか…挑発してやろうかと思っていたのだが…

「調子に乗るなよ平民…私にこれほどの無礼を働いたのだ。この模擬戦の後、貴様は不敬罪でその首を跳ねてくれる」
「………(出たなぁ、不敬罪)」

「そして貴様の家族も後を追わせてやろう」

『ニヤリ』
 口角を大きく上げ、宣ったザークォ…。

「「「あ…」」」

 周りから、エムリスを含めた主に俺と関わりの深かった奴らから声が漏れる…。
 そして俺は…

「……ぁあっ?ザークォ……テメェ…今、何言なんつった…?」



 俺の名は『カーク・キーン』。
 絶賛、ぶっちギレ中の『職業:運転手』の男だ。



〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


今回もネタなし&タクシー関係なし…。
挑発しようと思っていたのに先にキレちゃうカークさん…。
次回もよろしくお願いします。

 
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