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僕の誕生日
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「はっぴばーすで~とぅみ~」
と、木造アパート「木我荘」の2階の一室、201号室の6畳間で男の歌声が聞こえる。
埼玉県さいたま市大宮区の住宅地にある築50年のオンボロアパート「木我荘」は、隣に住む大家の木我さんの苗字をとって名付けられたという風呂無しのアパートだ。
風の強い日はどこからともなく隙間風が入り込み、冬になると凍えそうに寒く、西の端に位置する部屋の中は、夏になると外より暑い。
そんな噂が広まってか、家賃2万4千円のコスパがいいはずのそんな住居を近隣住民は「木我荘」ではなくて「こわれ荘」などと呼んでいるそうだ。
そんなアパートの201号室の玄関には「帆地槍」という表札が掛かっている。
そう、僕の名前は帆地槍 静雄。昭和48年生まれの48歳。
いや、今日で49歳になった。
2022年4月1日、金曜日。
都内にある小さな雑貨販売の会社で営業の仕事をしている僕は、会社を出て、池袋から埼京線に乗って大宮駅で降り、そこから30分くらい歩いてアパートまで帰る。
途中で立ち寄ったコンビニで、シュークリームを一つ買って、これを僕のバースデーケーキの代わりにしようと思ってるところだ。
せっかくの誕生日なのにシュークリームに何も飾りが無いのは寂しいから、お彼岸の時に買ったロウソクをシュークリームに刺して火を灯してみた。
部屋の電気を消すと、揺らめく炎が室内を照らし、それなりに雰囲気も出てなかなかいい感じだ。
「はっぴばーすでー ディア 静雄~」
と僕が歌ってるうちに熱で溶けた蝋がポタポタとシュークリームに落ちてきた。
あ、このままじゃシュークリームが食べられなくなりそうだな。
と僕は、ちょっとスピードを上げて歌を終わらせる。
「ハッピバスデトゥミッ」
と言って、ふうッ! と強く息を吹いてロウソクの火を消した。
その風圧で、溶けたロウソクがボタボタっとシュークリームに落ちた。
シュークリームはロウソクを刺したせいで平らに潰れてるし、その上にこぼれたロウが冷めて白くなって固まってきている。
「あ~あ・・・」
僕は丁寧に固まったロウを指ではがした。
だけど、シュークリームの上の方が、ロウと一緒にはがれて、中のクリームが剥き出しになっていく。
ロウが固まった部分をやっとの思いで全部剥ぎ取ったら、シュークリームのモコモコした姿はもうそこには無く、皿にはカスタードクリームが剥き出しになっていた。
「クリームが無事ならいいよね・・・」
と僕は、コンビニで貰ったフォークでクリームを掬って食べようとした。
だけど、ロウソクの熱で溶けてしまったのか、カスタードクリームがフォークの歯の隙間からこぼれてワイシャツの胸元にボタリとこぼれた。
「あ~あ・・・」
と言いながら僕はテーブルの上に置いている残り少なくなったティッシュ箱からティッシュを1枚引き抜いた。
だけど、引き抜いたティッシュに軽くなった箱が付いて来て、僕がティッシュを抜き取った時には、ティッシュの箱がカスタードクリームの上にベタっと落下してしまった。
「・・・・・・」
僕は仕方が無いなと思いながら、シャツにこぼしたクリームをティッシュで拭いて立ち上がり、ティッシュの箱を持ち上げてゴミ箱に入れた。
そしてテーブルの上を見たら、シュークリームが跡形も無く消えていた。
どうやら投げ捨てたティッシュの箱にくっついてしまった様で、僕はシュークリームごと捨ててしまったみたいだ。
「はっぴばーすで~とぅーみ~・・・・・・」
と僕は、コンビニで貰ったフォークもゴミ箱に捨てた。
僕は今日、49歳になりました。
明日は土曜日だけど、出勤日なので、もう寝ます。
と、木造アパート「木我荘」の2階の一室、201号室の6畳間で男の歌声が聞こえる。
埼玉県さいたま市大宮区の住宅地にある築50年のオンボロアパート「木我荘」は、隣に住む大家の木我さんの苗字をとって名付けられたという風呂無しのアパートだ。
風の強い日はどこからともなく隙間風が入り込み、冬になると凍えそうに寒く、西の端に位置する部屋の中は、夏になると外より暑い。
そんな噂が広まってか、家賃2万4千円のコスパがいいはずのそんな住居を近隣住民は「木我荘」ではなくて「こわれ荘」などと呼んでいるそうだ。
そんなアパートの201号室の玄関には「帆地槍」という表札が掛かっている。
そう、僕の名前は帆地槍 静雄。昭和48年生まれの48歳。
いや、今日で49歳になった。
2022年4月1日、金曜日。
都内にある小さな雑貨販売の会社で営業の仕事をしている僕は、会社を出て、池袋から埼京線に乗って大宮駅で降り、そこから30分くらい歩いてアパートまで帰る。
途中で立ち寄ったコンビニで、シュークリームを一つ買って、これを僕のバースデーケーキの代わりにしようと思ってるところだ。
せっかくの誕生日なのにシュークリームに何も飾りが無いのは寂しいから、お彼岸の時に買ったロウソクをシュークリームに刺して火を灯してみた。
部屋の電気を消すと、揺らめく炎が室内を照らし、それなりに雰囲気も出てなかなかいい感じだ。
「はっぴばーすでー ディア 静雄~」
と僕が歌ってるうちに熱で溶けた蝋がポタポタとシュークリームに落ちてきた。
あ、このままじゃシュークリームが食べられなくなりそうだな。
と僕は、ちょっとスピードを上げて歌を終わらせる。
「ハッピバスデトゥミッ」
と言って、ふうッ! と強く息を吹いてロウソクの火を消した。
その風圧で、溶けたロウソクがボタボタっとシュークリームに落ちた。
シュークリームはロウソクを刺したせいで平らに潰れてるし、その上にこぼれたロウが冷めて白くなって固まってきている。
「あ~あ・・・」
僕は丁寧に固まったロウを指ではがした。
だけど、シュークリームの上の方が、ロウと一緒にはがれて、中のクリームが剥き出しになっていく。
ロウが固まった部分をやっとの思いで全部剥ぎ取ったら、シュークリームのモコモコした姿はもうそこには無く、皿にはカスタードクリームが剥き出しになっていた。
「クリームが無事ならいいよね・・・」
と僕は、コンビニで貰ったフォークでクリームを掬って食べようとした。
だけど、ロウソクの熱で溶けてしまったのか、カスタードクリームがフォークの歯の隙間からこぼれてワイシャツの胸元にボタリとこぼれた。
「あ~あ・・・」
と言いながら僕はテーブルの上に置いている残り少なくなったティッシュ箱からティッシュを1枚引き抜いた。
だけど、引き抜いたティッシュに軽くなった箱が付いて来て、僕がティッシュを抜き取った時には、ティッシュの箱がカスタードクリームの上にベタっと落下してしまった。
「・・・・・・」
僕は仕方が無いなと思いながら、シャツにこぼしたクリームをティッシュで拭いて立ち上がり、ティッシュの箱を持ち上げてゴミ箱に入れた。
そしてテーブルの上を見たら、シュークリームが跡形も無く消えていた。
どうやら投げ捨てたティッシュの箱にくっついてしまった様で、僕はシュークリームごと捨ててしまったみたいだ。
「はっぴばーすで~とぅーみ~・・・・・・」
と僕は、コンビニで貰ったフォークもゴミ箱に捨てた。
僕は今日、49歳になりました。
明日は土曜日だけど、出勤日なので、もう寝ます。
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