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田村元長善之に対して、遅効性にして致死性のある毒の存在を尋ねた町医者で小児科医の小野西育章以への「疑惑」2
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さて、小野章以はそんな見栄だけは一人前の、金のない母親を相手に、無料で子供を診察し、のみならず薬まで処方していたのだ。薬とて小野章以が薬種問屋より金を払って仕入いれた薬であり、それを今日のような躋寿館にて実習である診察が行われる日に新米の研修医に己の診察を見学させるべく、それら己が金を払って仕入れた薬を携えてこの躋寿館へと足を運んでは、子供を診察し、必要とあればそれら薬をただで処方、それはもうばら撒くという感覚に近かった。
ともあれ小野章以はそれだけこの躋寿館に貢献しているというわけで、成程、それではさしもの善之も小野章以に対しては遠慮せざるを得ないだろうと、意知は合点がいった。
「それで…、その小野先生が善之先生に相談を持ちかけられたとか…」
意知がそう話を元に戻すと、善之も「左様」と答え、それから詳しい事情を打ち明けたのであった。
「されば小児の誤飲事故を防ぐべく、本草学の視点から是非とも危険な食べ物があればそれをご教授願いたい、と…」
「小野先生がそのようなことを善之先生に頼んだと?」
「左様」
「さればその時に小野先生は善之先生に対して、遅効性にして、致死性のある毒物をも教授して欲しいと頼んだわけですか?」
意知は勢い込んで尋ねた。
それに対して善之は頭を振った。
「いや、左様に…、そこまで露骨に尋ねは申されなんだが…」
確かにその通りだろうと、意知は思い直した。そのような露骨な聞き方をすれば流石に怪しまれるというものである。
「されば小野先生は如何なる口実をもうけて?」
「されば誤飲事故の中には最初はそうとは気付かずに、つまりは毒がすぐには効果が現れずに徐々に毒の効果が現れるものもあり、その時にはもう手遅れにて、されば最初よりこれは口にしてはならぬと、小児を持つ母親に対して周知徹底を図りたいので、もし宜しければやはり本草学の視点からその手の毒の含む、それでいてすぐには毒の効果が現れずに、徐々に毒の効果が現れるものを、とりわけ食用になるものをご教授願いたい、と…」
これまた随分と尤もらしい言い分だと、意知は心底、呆れたものだった。
「それで…、善之先生は小野先生に教えられたわけですか?シロタマゴテングタケ、それにドクツルタケなる毒キノコを…」
意知が尋ねると、善之は頷いた。
「いや、斯様なる目的があったと知っておれば教えなかったものを…」
善之はそう言い訳したが、しかし、その言葉にはあまり強い力は感じられなかった。
例え善之がそのような目的を知っていたとしても、常日頃より躋寿館の運営で世話になっている小野章以からの「ご下問」ともあらば、善之とて断れきれなかったに相違あるまい。
「いえいえ、まだ小野某なる医師が大納言様の毒殺に関与していると決まったわけではなく、仮にそうだとしても、断じて善之先生の所為ではござらぬよ…」
意知はそう言って、善之を励ました。
ともあれ小野章以はそれだけこの躋寿館に貢献しているというわけで、成程、それではさしもの善之も小野章以に対しては遠慮せざるを得ないだろうと、意知は合点がいった。
「それで…、その小野先生が善之先生に相談を持ちかけられたとか…」
意知がそう話を元に戻すと、善之も「左様」と答え、それから詳しい事情を打ち明けたのであった。
「されば小児の誤飲事故を防ぐべく、本草学の視点から是非とも危険な食べ物があればそれをご教授願いたい、と…」
「小野先生がそのようなことを善之先生に頼んだと?」
「左様」
「さればその時に小野先生は善之先生に対して、遅効性にして、致死性のある毒物をも教授して欲しいと頼んだわけですか?」
意知は勢い込んで尋ねた。
それに対して善之は頭を振った。
「いや、左様に…、そこまで露骨に尋ねは申されなんだが…」
確かにその通りだろうと、意知は思い直した。そのような露骨な聞き方をすれば流石に怪しまれるというものである。
「されば小野先生は如何なる口実をもうけて?」
「されば誤飲事故の中には最初はそうとは気付かずに、つまりは毒がすぐには効果が現れずに徐々に毒の効果が現れるものもあり、その時にはもう手遅れにて、されば最初よりこれは口にしてはならぬと、小児を持つ母親に対して周知徹底を図りたいので、もし宜しければやはり本草学の視点からその手の毒の含む、それでいてすぐには毒の効果が現れずに、徐々に毒の効果が現れるものを、とりわけ食用になるものをご教授願いたい、と…」
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「いえいえ、まだ小野某なる医師が大納言様の毒殺に関与していると決まったわけではなく、仮にそうだとしても、断じて善之先生の所為ではござらぬよ…」
意知はそう言って、善之を励ました。
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