主役になれない刑事 ~ウラヅケ捜査官・花形~

ご隠居

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わたしは裏方で結構です 終

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 それから一週間後、斎藤洋一は処分保留で釈放された。被害者である相田俊夫の父が、つまりは総理秘書官殿が被害届を取り下げたためだった。

 のみならず、逆に斎藤洋一サイドにゼロ七桁にも及ぶ慰謝料が支払われたのであった。無論、不肖の倅のしでかしたレイプに対する慰謝料、もとい口止め料である。

 その交換条件として相田サイドは不肖の倅たちのレイプ、斎藤洋一の妻をレイプしている場面がリアルタイムで記録されている防犯カメラ映像の提出を求めたのであった。

 そこで件の防犯カメラ映像を保管している斎藤洋一の義兄・大川冠は相田サイドへとその映像が録画されているDVDを引き渡したのだが、それが全てではない。

「DVDを渡したが最後、また別件でしょっぴかれるかも知れませんからねぇ…、何しろいまをときめく総理秘書官殿だ。警察をけしかけて別件、いや、ありもしない罪をでっち上げて逮捕させる、なんてことは朝飯前でしょうからねぇ。ですからこのDVD一枚だけじゃありませんよ。お宅の馬鹿息子が妹をレイプしている映像は…」

 大川冠は花形から教えられた通りのセリフを相田サイドにそのままぶつけた。無論、ハッタリなどではない。事実、DVDはまだ他にもあり、様々な場所で保管されており、相田サイドが警察をけしかけてでっち上げ逮捕の挙に及ぼうものなら直ちにそれらのDVDが拡散されることになっており、それを相田サイドに匂わせたのであった。言うなれば保険であった。相田サイドが歯軋りしたことは言うまでもない。

「そのDVD、もしかして君が保管しているんじゃないかね?」

 後日、公安総務課長の林からそう問われた花形は「そうかも知れませんねぇ」と否定も肯定もしなかった。つまりは肯定してみせた。

 林もそれ以上は追及せず、代わりに刑事部長が大層、おかんむりであることを打ち明けた。

「上村さんも今回の件でお前のことを随分と敵視するかも知れんなぁ…」

 上村さん、というのが警視庁本部の刑事部長にして官邸の番犬であった。

「林さんに俺のことを打ち明けたんですか?」

「じゃなきゃ話にならんだろ?」

 確かに林の言う通りであった。花形の名前を出さないことには話のつじつまが合わないだろう。

「上村さんの面子を見事に潰したんだからな…」

 これもまた林の言う通りであった。花形は刑事部長案件を潰したのだから。

「まぁ、せいぜい自己防衛しておくことだな」

 林は花形にそう忠告した。
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