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わたしは裏方で結構です 5
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午後7時、東武東上線は東武練馬駅に程近いスーパーへと花形は足を伸ばした。そのスーパーは午後7時になると売れ残った惣菜に半額シールが貼られるのだ。と言っても花形はそれが目当てでそのスーパーに足を伸ばしたわけではない。ある人物に会うためであった。
「やはりいらっしゃいましたね…」
半額シールが貼られた580円のピザを手に取り、それも二つも手に取り、カゴに入れようとしている男の背中に向かって花形はそう声をかけた。その男こそ花形のお目当ての人物であった。
林伸明、それが男の名であった。公安総務課課長にして、花形のかつての上司であった。
花形の前職は公安総務課の第一公安捜査、それも第一係という今の裏方とは正反対の公安の花形部署に所属していた。
だがその時の花形は自分の仕事に嫌気がさしていた。やらされていることと言えば共産党員の監視と脅しであったからだ。これではヤクザと変わらない。いや、おかみの威光を笠に着ているという点ではヤクザ以下、いや、ヤクザ未満、ヤクザよりも劣る。
そんな鬱積した思いがある時、遂に爆発してしまった。飲み会の席上、花形は公安部長に絡んだのだ。
「共産党だけじゃなく、自民党や公明党、今の政府与党も監視と脅しの対象にしたらどうです?まぁ、無理でしょうけどねぇっ!今のおかみに尻尾を振るしかねぇ、警察、それも公安部長にはぁ!それだけじゃねぇ、マージャン狂いの公安部長殿にはぁっ!」
花形は公安部長の肩に手を回してそうクダを巻いたのであった。いや、もしかしたらそれは爆発を装い、公安部からの追放を望んだからだったのかも知れない。
ともあれ花形の望みは達せられ今の裏方へと飛ばされたのであった。そんな花形をある者は哀れな男と同情と憐憫の眼差しで眺め、またある者は馬鹿な男と嘲笑した。そのどちらも正解と言えた。
さて、花形から声をかけられた林はと言うと、振り返りもせずに「花形か…」と応えただけで、今度は399円の4個入りのおはぎに、それもやはり2パックもカゴに入れた。
「たまには自炊なさったらどうです?それかお家に帰られては…」
林には妻子がいる。だが林は妻子にはまったく愛情を持てなかった。単なる同居人、いや、それどころか単なる個体、物体にしか思えないそうな。元より望んだ結婚ではなく、妻も夫の態度からそうと察していたものの、それでも子供ができれば考えも変わるかも知れないと仄かな期待をしたものだったようだが甘かった。林は妻との間にもうけた一子、それも娘にも何の愛情も持てなかったそうだ。妻もそうと察すると、もはや夫との結婚生活にピリオドを打つつもりだったらしいが、夫婦の実家が両家ともそれを許さず、そこで夫である林だけが一人、家を出てここ、東武東上線は東武練馬に程近いアパートで暮らす事にしたそうな。つまりは別居であった。
花形もそれは分かっていたが、それでも一応、家に帰ることをすすめたのだが、林は鼻を鳴らしただけだった。
そこで花形は林と世間話をすることは諦め、本題を口にした。
「ヒアンのことでお話が…」
ヒアン…、警察では丸秘案件のことをそう略す。特にこのような場所においては。
「それならうちで話すか…」
うち、とは勿論、林の妻子のいる実家ではなく、アパートのことである。
それから花形は林から半額シールの貼られた惣菜で満杯になったマイバックを持たされてアパートへと足を運んだ。
そこで花形は林からそのうちの一つ、半額シールの貼られたピザとそれに助六寿司を振舞われた。
「それでヒアンだったな…、もしかして総理秘書官殿のドラ息子の件か?」
林はピザを頬張りながら花形にそう尋ねた。やはりと言うべきか、林も既に把握していたらしい。
花形はええ、と応ずるや日中、大川から聞かされた驚くべき事実、真実を打ち明けたのであった。
すなわち、総理秘書官のドラ息子、こと相田俊夫とそれに3人のクラスメイトが大川冠の義弟、斎藤洋一によってボコボコにされた一件は実は、報復であったのだ。
「報復…」
「ええ…、相田らはヒカリ…、大川冠の妹にして斎藤洋一の妻ですが、そのヒカリをレイプしたらしいんですよ…」
「レイプ…」
「ええ。パラダイス…、大川の経営する…、と言っても未だ健在の親父から経営を任されているゲームセンターですがね、そのゲームセンターのパラダイスの地下駐車場で…、ヒカリは久しぶりに実の兄の大川の顔を見るべくパラダイスへと…、それが地下駐車場で一人になったヒカリを相田らが見かけて、それで…」
「待て待て…、ヒカリが地下駐車場にいるのは分かるが、相田らはまだ高校生だろ?」
相田たちが地下駐車場にいた理由が林には理解できなかったらしい。確かに車の免許を取得できる年齢ではない。
「まさか無免許運転ではあるまいな?」
「いえ、そういう訳ではなく、親父…、総理秘書官の親父のそのまたおつきがいつも車で迎えに…、相田がそのおつきに車で迎えに来させるそうで…」
「ドラ息子の典型だな…、車通学とは…」
「いえ、相田たちが通う高校は車通学は禁じられているらしく、そこで下校時、盛り場までは徒歩で、で、遊び終えた頃に…」
「おつきに車で迎えに来させると…」
「ええ、ですが事件発生時…、相田らがヒカリをレイプした事件のことですが、その事件発生時にはおつきの車が渋滞に巻き込まれて…」
「なるほど、相田たちを迎えに来るのが遅くなり、一方、相田たちはそうとは知らずに地下駐車場でおつきの車を待っていると中々、迎えに来ないことに腹を立て、そこへ折悪しく、ヒカリが相田たちの待つ地下駐車場へと車を滑らせ、それで相田たちは鬱憤晴らしとばかりに…、さしずめそんなスジか?」
「ええ、正しく…」
「それなら警察に届ければ済む話じゃないか…、相田たちが斎藤から報復を受けた現場ともなった地下駐車場には監視カメラがあるんだろ?それならヒカリをレイプする場面も…」
「ええ、ばっちりおさめられていたそうで…」
「それならなおの事…」
「ですが大川はもみ消されることを恐れたそうです。いや、大川だけじゃない、斎藤も…」
「警察が総理秘書官のドラ息子のレイプ事件をもみ消すと?」
「ええ…、迂闊に大事な虎の子とも言うべき証拠と共に警察に訴えたが最後、事件をもみ消されてしまうのではないかと…」
「なるほど…、それで大川や斎藤は警察に届け出ることを躊躇した訳か?」
「ええ…、誰よりも被害者であるヒカリ自身が…」
「それで私的制裁を加えたという訳か?」
「ええ…、相田たちはパラダイスの常連客のようでして、大川も相田たちの入店時を把握していたのだ、それで斎藤に…」
「相田たちが来たと斎藤に連絡、義兄の大川から連絡を受けた斎藤はパラダイスへとかけつけ、そして遊び終えた相田たちが地下駐車場へと…、おつきの車が来るのを待つべく地下駐車場へと向かい、斎藤がその後をつけ、地下駐車場で相田たちを襲った…、となれば大川も共犯という事になるな…」
「ええ…、大川にしても自分も逮捕、起訴されることは覚悟しているようです。いや、それを期待していると言うべきか…」
「どういう意味だ?」
「起訴されれば当たり前ですが裁判が開かれますが、刑事裁判においては被告人の独占場です。要は好き放題発言出来るという訳です。それも傍聴人というギャラリーが真後ろに控えている場において…」
「まさか…、公開法廷で…、己が裁かれる場において暴露するつもりか?相田たちのレイプを…」
「ええ。それも監視カメラにしっかりと録画されている現場を映し出すつもりらしい…」
「ってことは弁護士にでも預けてある訳か?そのヒカリがレイプされている映像は…」
「ええ。いや、弁護士だけじゃない。種々の方面にも複製された映像が預けてあるらしく、ですから例えば、公安お得意の手法で弁護士を脅して監視カメラ映像を取り上げても無駄…、それどころかそんな暴挙に及べば直ちにネットに流れるかも知れないと…」
「もしかしてお前がアドバイスをしたのか?大川に…」
林はどうやら花形と大川がクラスメイトである事を既に把握しているらしい。流石に公安の人間である。
それゆえ花形も開き直った。
「ええ。何しろ大事な元クラスメイトですからね。翻って総理秘書官のドラ息子、いや、馬鹿息子の相田とそれに3人の取り巻きには何の義理もない。それどころか何の罪もない女性をレイプするようなクズだ。そんなクズを守ってやる義理はどこにもない。それどころかそんな事をすれば正義に反するというものですよ」
花形はそう開き直るとそんな花形の態度に林は苦笑した。
「それで…、お前はどうしたい?」
林は笑みを消すとそう尋ねた。
「別に、どうもしたくはありませんよ。このまま相田たちのレイプが暴露されれば良いとは思っていますがね」
「それはまずいな…」
「総理官邸とはべったりの今の警察組織にとっては、ですか?」
林は花形のその嫌味まじりの問いかけは無視して「どうしたら良い?」と続けた。
「相田たちのレイプをもみ消すにはどうした良い、という意味ですかな?」
花形がそう問い返すと林は否定も肯定もしなかったので、そこで花形は肯定と受け止めた。
「それならまずは斎藤洋一に対する告訴を取り下げることですね」
「まずは…、という事は次は慰謝料だな?」
「ええ。ヒカリに対するね。こちらは…、いや、俺がここで迂闊に金額を口走ろうものなら恐喝容疑で現行犯逮捕…、そんなシナリオになりかねませんからねぇ…、まぁ、そこは誠意にお任せしますよ。誠意にね」
花形は誠意、という単語を二度、それもねっとりとした口調で繰り返した。
「相変わらず喰えん男だな…」
「それはお互い様でしょう」
「まぁ、ともかく部長に話してみよう」
「よろしくお願いしますよ」
「それにしても…、公安総務課長の俺を使うとは…、ウラヅケぶりは相変わらずだな…、裏で話をつけるウラヅケぶりは…」
「やはりいらっしゃいましたね…」
半額シールが貼られた580円のピザを手に取り、それも二つも手に取り、カゴに入れようとしている男の背中に向かって花形はそう声をかけた。その男こそ花形のお目当ての人物であった。
林伸明、それが男の名であった。公安総務課課長にして、花形のかつての上司であった。
花形の前職は公安総務課の第一公安捜査、それも第一係という今の裏方とは正反対の公安の花形部署に所属していた。
だがその時の花形は自分の仕事に嫌気がさしていた。やらされていることと言えば共産党員の監視と脅しであったからだ。これではヤクザと変わらない。いや、おかみの威光を笠に着ているという点ではヤクザ以下、いや、ヤクザ未満、ヤクザよりも劣る。
そんな鬱積した思いがある時、遂に爆発してしまった。飲み会の席上、花形は公安部長に絡んだのだ。
「共産党だけじゃなく、自民党や公明党、今の政府与党も監視と脅しの対象にしたらどうです?まぁ、無理でしょうけどねぇっ!今のおかみに尻尾を振るしかねぇ、警察、それも公安部長にはぁ!それだけじゃねぇ、マージャン狂いの公安部長殿にはぁっ!」
花形は公安部長の肩に手を回してそうクダを巻いたのであった。いや、もしかしたらそれは爆発を装い、公安部からの追放を望んだからだったのかも知れない。
ともあれ花形の望みは達せられ今の裏方へと飛ばされたのであった。そんな花形をある者は哀れな男と同情と憐憫の眼差しで眺め、またある者は馬鹿な男と嘲笑した。そのどちらも正解と言えた。
さて、花形から声をかけられた林はと言うと、振り返りもせずに「花形か…」と応えただけで、今度は399円の4個入りのおはぎに、それもやはり2パックもカゴに入れた。
「たまには自炊なさったらどうです?それかお家に帰られては…」
林には妻子がいる。だが林は妻子にはまったく愛情を持てなかった。単なる同居人、いや、それどころか単なる個体、物体にしか思えないそうな。元より望んだ結婚ではなく、妻も夫の態度からそうと察していたものの、それでも子供ができれば考えも変わるかも知れないと仄かな期待をしたものだったようだが甘かった。林は妻との間にもうけた一子、それも娘にも何の愛情も持てなかったそうだ。妻もそうと察すると、もはや夫との結婚生活にピリオドを打つつもりだったらしいが、夫婦の実家が両家ともそれを許さず、そこで夫である林だけが一人、家を出てここ、東武東上線は東武練馬に程近いアパートで暮らす事にしたそうな。つまりは別居であった。
花形もそれは分かっていたが、それでも一応、家に帰ることをすすめたのだが、林は鼻を鳴らしただけだった。
そこで花形は林と世間話をすることは諦め、本題を口にした。
「ヒアンのことでお話が…」
ヒアン…、警察では丸秘案件のことをそう略す。特にこのような場所においては。
「それならうちで話すか…」
うち、とは勿論、林の妻子のいる実家ではなく、アパートのことである。
それから花形は林から半額シールの貼られた惣菜で満杯になったマイバックを持たされてアパートへと足を運んだ。
そこで花形は林からそのうちの一つ、半額シールの貼られたピザとそれに助六寿司を振舞われた。
「それでヒアンだったな…、もしかして総理秘書官殿のドラ息子の件か?」
林はピザを頬張りながら花形にそう尋ねた。やはりと言うべきか、林も既に把握していたらしい。
花形はええ、と応ずるや日中、大川から聞かされた驚くべき事実、真実を打ち明けたのであった。
すなわち、総理秘書官のドラ息子、こと相田俊夫とそれに3人のクラスメイトが大川冠の義弟、斎藤洋一によってボコボコにされた一件は実は、報復であったのだ。
「報復…」
「ええ…、相田らはヒカリ…、大川冠の妹にして斎藤洋一の妻ですが、そのヒカリをレイプしたらしいんですよ…」
「レイプ…」
「ええ。パラダイス…、大川の経営する…、と言っても未だ健在の親父から経営を任されているゲームセンターですがね、そのゲームセンターのパラダイスの地下駐車場で…、ヒカリは久しぶりに実の兄の大川の顔を見るべくパラダイスへと…、それが地下駐車場で一人になったヒカリを相田らが見かけて、それで…」
「待て待て…、ヒカリが地下駐車場にいるのは分かるが、相田らはまだ高校生だろ?」
相田たちが地下駐車場にいた理由が林には理解できなかったらしい。確かに車の免許を取得できる年齢ではない。
「まさか無免許運転ではあるまいな?」
「いえ、そういう訳ではなく、親父…、総理秘書官の親父のそのまたおつきがいつも車で迎えに…、相田がそのおつきに車で迎えに来させるそうで…」
「ドラ息子の典型だな…、車通学とは…」
「いえ、相田たちが通う高校は車通学は禁じられているらしく、そこで下校時、盛り場までは徒歩で、で、遊び終えた頃に…」
「おつきに車で迎えに来させると…」
「ええ、ですが事件発生時…、相田らがヒカリをレイプした事件のことですが、その事件発生時にはおつきの車が渋滞に巻き込まれて…」
「なるほど、相田たちを迎えに来るのが遅くなり、一方、相田たちはそうとは知らずに地下駐車場でおつきの車を待っていると中々、迎えに来ないことに腹を立て、そこへ折悪しく、ヒカリが相田たちの待つ地下駐車場へと車を滑らせ、それで相田たちは鬱憤晴らしとばかりに…、さしずめそんなスジか?」
「ええ、正しく…」
「それなら警察に届ければ済む話じゃないか…、相田たちが斎藤から報復を受けた現場ともなった地下駐車場には監視カメラがあるんだろ?それならヒカリをレイプする場面も…」
「ええ、ばっちりおさめられていたそうで…」
「それならなおの事…」
「ですが大川はもみ消されることを恐れたそうです。いや、大川だけじゃない、斎藤も…」
「警察が総理秘書官のドラ息子のレイプ事件をもみ消すと?」
「ええ…、迂闊に大事な虎の子とも言うべき証拠と共に警察に訴えたが最後、事件をもみ消されてしまうのではないかと…」
「なるほど…、それで大川や斎藤は警察に届け出ることを躊躇した訳か?」
「ええ…、誰よりも被害者であるヒカリ自身が…」
「それで私的制裁を加えたという訳か?」
「ええ…、相田たちはパラダイスの常連客のようでして、大川も相田たちの入店時を把握していたのだ、それで斎藤に…」
「相田たちが来たと斎藤に連絡、義兄の大川から連絡を受けた斎藤はパラダイスへとかけつけ、そして遊び終えた相田たちが地下駐車場へと…、おつきの車が来るのを待つべく地下駐車場へと向かい、斎藤がその後をつけ、地下駐車場で相田たちを襲った…、となれば大川も共犯という事になるな…」
「ええ…、大川にしても自分も逮捕、起訴されることは覚悟しているようです。いや、それを期待していると言うべきか…」
「どういう意味だ?」
「起訴されれば当たり前ですが裁判が開かれますが、刑事裁判においては被告人の独占場です。要は好き放題発言出来るという訳です。それも傍聴人というギャラリーが真後ろに控えている場において…」
「まさか…、公開法廷で…、己が裁かれる場において暴露するつもりか?相田たちのレイプを…」
「ええ。それも監視カメラにしっかりと録画されている現場を映し出すつもりらしい…」
「ってことは弁護士にでも預けてある訳か?そのヒカリがレイプされている映像は…」
「ええ。いや、弁護士だけじゃない。種々の方面にも複製された映像が預けてあるらしく、ですから例えば、公安お得意の手法で弁護士を脅して監視カメラ映像を取り上げても無駄…、それどころかそんな暴挙に及べば直ちにネットに流れるかも知れないと…」
「もしかしてお前がアドバイスをしたのか?大川に…」
林はどうやら花形と大川がクラスメイトである事を既に把握しているらしい。流石に公安の人間である。
それゆえ花形も開き直った。
「ええ。何しろ大事な元クラスメイトですからね。翻って総理秘書官のドラ息子、いや、馬鹿息子の相田とそれに3人の取り巻きには何の義理もない。それどころか何の罪もない女性をレイプするようなクズだ。そんなクズを守ってやる義理はどこにもない。それどころかそんな事をすれば正義に反するというものですよ」
花形はそう開き直るとそんな花形の態度に林は苦笑した。
「それで…、お前はどうしたい?」
林は笑みを消すとそう尋ねた。
「別に、どうもしたくはありませんよ。このまま相田たちのレイプが暴露されれば良いとは思っていますがね」
「それはまずいな…」
「総理官邸とはべったりの今の警察組織にとっては、ですか?」
林は花形のその嫌味まじりの問いかけは無視して「どうしたら良い?」と続けた。
「相田たちのレイプをもみ消すにはどうした良い、という意味ですかな?」
花形がそう問い返すと林は否定も肯定もしなかったので、そこで花形は肯定と受け止めた。
「それならまずは斎藤洋一に対する告訴を取り下げることですね」
「まずは…、という事は次は慰謝料だな?」
「ええ。ヒカリに対するね。こちらは…、いや、俺がここで迂闊に金額を口走ろうものなら恐喝容疑で現行犯逮捕…、そんなシナリオになりかねませんからねぇ…、まぁ、そこは誠意にお任せしますよ。誠意にね」
花形は誠意、という単語を二度、それもねっとりとした口調で繰り返した。
「相変わらず喰えん男だな…」
「それはお互い様でしょう」
「まぁ、ともかく部長に話してみよう」
「よろしくお願いしますよ」
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