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タケヤスのブレーンである講師のハチボクは意知を嵌める計画をタケヤスにレクチャーする
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タケヤスが正に、
「這々の体で…」
屋敷へと逃げ帰るや、そこにはハチボクが待ち受けていた。
異世界王立行政学院の憲法学の講師、それがハチボクの肩書きであり、タケヤスのブレーンであった。
「ああ、お帰りなさいませ」
タケヤス邸の応接室のソファで座って待っていたハチボクはタケヤスの姿に気付くや立ち上がり、深々と腰を折ってみせた。
「ああ…」
タケヤスはそれまでハチボクが座っていたソファとは真向かいのソファに腰掛けると、相変わらず頭を下げたままのハチボクに対してソファに掛けるようすすめた。
それでハチボクも漸くに頭を上げると、ソファに体を沈めた。
「それで…、早速ですが、いかがでございましたか?午餐は…」
ハチボクは昼食会の様子を聞きたがった。それと言うのもハチボクを招いたのは他ならぬタケヤス自身だからだ。今日の午餐、もとい昼食会の様子を聞かせるためであった。もっと言うなら己の武勇伝…、意知とマコとの結婚について反対論をぶってみせ、皆を屈服させるのだと、その武勇伝を聞かせるつもりでタケヤスはハチボクをこうして自邸に招いては己の帰りを待たせたわけだが、生憎、武勇伝を聞かせるどころではなかった。
タケヤスは不本意ではあったが、それでも大事なブレーンであるハチボクに対しては嘘はつかない方が良いだろうと、昼食会の模様を忠実に再現してみせた。
「何と…、国王陛下は本当にマコ様をオキトモなる下賎な男と娶わせるご所存で…」
ハチボクはタケヤスの話を聞き終えるなり、そう聞き返した。
「ああ…」
「しかも血筋は関係ないとは…」
ハチボクは呆れた様子であった。
「まったく何を考えているのやら…、いや、そもそもオキトモのようなどこぞの馬の骨とも分からぬ転生者を公職に就けたのがそもそもの間違いなのだ…」
タケヤスがそう言うと、「まったくその通りでございます」とハチボクは我が意を得たりとばかりそう応じた。
公職者は現地人をもって充てるべきであり、転生者は登用すべきでない…、それがハチボクの主張であった。
ハチボクは異世界の中でも保守派でその名を知られており、
「あくまで現地人が優先、転生者は社会の片隅で大人しく息をしていれば良し」
それがハチボクのモットーであり、実際、大学において自身が受け持つ講座である憲法学の授業においてもその己のモットーを学生相手にぶち上げるものだから、これには学生も戸惑いを隠せず、同僚の講師は勿論、教授からも異端視される始末であった。
いや、実際には異端視などとそのような格好いいものではなく、白眼視されていたと言った方が正確だろう。あるいは馬鹿にされていたとも言える。
だがハチボク当人は己が白眼視され、あるいは馬鹿にされているなどとは夢にも思わず昨日も今日も明日も、そして永遠に己の主張を喚き散らすだけであった。
いや、そんなハチボクにも支持者がいないわけではなかった。とりわけ職にあぶれた現地人から絶大な支持を得ていた。それがまたハチボクが馬鹿にされる遠因ともなっていた。
転生者を公職に就けるべきではない…、それがハチボクのモットーであり、ゆえに意知が財務省に登用されることにハチボクは勿論、反対であった。
だがここ異世界においては公務員には試験が必要であり、その受験資格は現地人のみならず転生者にも開放されており、意知はトップの成績で、いや、一番の成績で通過し、もっとも人気のある財務省に入省することができたのであった。これではハチボクも意知の入省に反対するわけにはいかなかった。
それでも堪らないのは現地人であり、試験に落ちた現地人、あるいは意知と出世競争で敗れたりした者たちにとってはハチボクのその「保守的主張」は心のオアシスであり、結果、ハチボクは彼らから絶大な支持を得ており、ハチボク自身、満更でもなさげな様子であり、それがまた馬鹿にされる遠因というわけだ。
いや、実を言えばハチボクの倅もまた公務員試験に落ちた口であり、それが益々、転生者嫌い、いや、意知嫌いに拍車をかけていたという側面もまた見逃せない事実であった。
一方、王位を狙うタケヤスにとってもハチボクの存在はまことに都合が良く、両者は相思相愛の関係であった。
「こうなればもはや、オキトモを破滅させる以外に道はありますまい…」
ハチボクは物騒なことを口にした。まともな判断力がある者ならば眉を顰めて相手にしないところであるが、生憎、王位の座に取り憑かれた今のタケヤスはまともな判断力を持ち合わせておらず、
「具体的にはどうする?」
タケヤスは興味津々といった様子で身を乗り出して詳細を尋ねる始末であった。
「オキトモが発案いたしました紙幣、これを利用するのです」
「紙幣を?」
「ええ。偽札を作った…、そうでっち上げて濡れ衣を着せるのです」
「そんなことが果たして本当にできるのか?」
タケヤスはさすがに懐疑的な様子を覗かせた。ようやくまともな反応を浮かべた。
「造幣局の職員の協力があれば可能です」
「造幣局の職員に偽札を造らせる、と?」
タケヤスが先回りしてそう尋ねると、ハチボクは頷いた。
「その上で、大量の偽札をオキトモが住まう屋敷に忍び入れ、いかにもオキトモが偽札造りを命じた…、そう見せかけることが可能というものです」
「いや、それには造幣局の職員のみならず、オキトモが住まう屋敷を警備している人間をも仲間に引き入れる必要があるぞ?」
「そこは心配ありません」
「と言うと?」
「オキトモが住まう屋敷は財務省の高官宿舎ですから…」
「警備している人間も財務省の役人だったな…」
タケヤスは思い出したようにそう言った。
「その通りです。詳しくは財務省大臣官房の警備課が事務次官を始めとする高官の屋敷の警備に当たり…」
「オキトモの住む屋敷…、官舎もその警備課の人間が警備していると…」
「ええ。ですからやはり警備課の人間を仲間に引き入れれば…」
「オキトモの住む屋敷に偽札を運び入れることも可能だと?」
「そういうことです」
「だが…、理屈ではそうだが、それを実現するとなると大事だぞ…」
「ええ。ですから財務大臣を説き伏せることができればそれも可能かと…」
「アソーの?」
「ええ」
「アソーは果たしてこの話に乗ってくれるかどうか…」
「アソーも決してオキトモには良い感情を持ち合わせてはおりませんでしょうから…」
アソーもまた血筋を重んじる貴族主義の男であった。
「だがそれだけで果たしてそんなリスキーな計画に乗ってくれるものだろうか…」
「それだけではありませんよ」
ハチボクは意味あり気な様子でそう言い、「と言うと?」とタケヤスはその先を促した。
「アソー財務大臣の妹御は…」
ハチボクがそう示唆するとタケヤスははたと気付いた。
「そうか…、すっかり失念していた…、ノブ殿であったわ…」
アソー財務大臣の妹のノブは王族のトモヒトの元へと嫁したために、
「ロイヤルファミリー入り」
それを果たしたわけで、ゆえに今日の昼食会にもトモヒトの配偶者として招かれていた。
そのノブも意知のことは快く思ってはおらず、その意知とマコとの結婚には大反対で、ゆえにノブの兄でもあるアソー財務大臣も妹のノブと同意見であるに違いなく、そうであれば意知を罠に嵌める計画に乗ってくれるに違いないというのがハチボクの読みであった。
タケヤスもハチボクのその読みに乗ることにした。
「それでは早速、アソー大臣の元へと参ろうではないか」
タケヤスはソファから立ち上がるなりそう宣すると、ハチボクも立ち上がり叩頭してみせ、タケヤスはハチボクを従えて応接室をあとにした。
「這々の体で…」
屋敷へと逃げ帰るや、そこにはハチボクが待ち受けていた。
異世界王立行政学院の憲法学の講師、それがハチボクの肩書きであり、タケヤスのブレーンであった。
「ああ、お帰りなさいませ」
タケヤス邸の応接室のソファで座って待っていたハチボクはタケヤスの姿に気付くや立ち上がり、深々と腰を折ってみせた。
「ああ…」
タケヤスはそれまでハチボクが座っていたソファとは真向かいのソファに腰掛けると、相変わらず頭を下げたままのハチボクに対してソファに掛けるようすすめた。
それでハチボクも漸くに頭を上げると、ソファに体を沈めた。
「それで…、早速ですが、いかがでございましたか?午餐は…」
ハチボクは昼食会の様子を聞きたがった。それと言うのもハチボクを招いたのは他ならぬタケヤス自身だからだ。今日の午餐、もとい昼食会の様子を聞かせるためであった。もっと言うなら己の武勇伝…、意知とマコとの結婚について反対論をぶってみせ、皆を屈服させるのだと、その武勇伝を聞かせるつもりでタケヤスはハチボクをこうして自邸に招いては己の帰りを待たせたわけだが、生憎、武勇伝を聞かせるどころではなかった。
タケヤスは不本意ではあったが、それでも大事なブレーンであるハチボクに対しては嘘はつかない方が良いだろうと、昼食会の模様を忠実に再現してみせた。
「何と…、国王陛下は本当にマコ様をオキトモなる下賎な男と娶わせるご所存で…」
ハチボクはタケヤスの話を聞き終えるなり、そう聞き返した。
「ああ…」
「しかも血筋は関係ないとは…」
ハチボクは呆れた様子であった。
「まったく何を考えているのやら…、いや、そもそもオキトモのようなどこぞの馬の骨とも分からぬ転生者を公職に就けたのがそもそもの間違いなのだ…」
タケヤスがそう言うと、「まったくその通りでございます」とハチボクは我が意を得たりとばかりそう応じた。
公職者は現地人をもって充てるべきであり、転生者は登用すべきでない…、それがハチボクの主張であった。
ハチボクは異世界の中でも保守派でその名を知られており、
「あくまで現地人が優先、転生者は社会の片隅で大人しく息をしていれば良し」
それがハチボクのモットーであり、実際、大学において自身が受け持つ講座である憲法学の授業においてもその己のモットーを学生相手にぶち上げるものだから、これには学生も戸惑いを隠せず、同僚の講師は勿論、教授からも異端視される始末であった。
いや、実際には異端視などとそのような格好いいものではなく、白眼視されていたと言った方が正確だろう。あるいは馬鹿にされていたとも言える。
だがハチボク当人は己が白眼視され、あるいは馬鹿にされているなどとは夢にも思わず昨日も今日も明日も、そして永遠に己の主張を喚き散らすだけであった。
いや、そんなハチボクにも支持者がいないわけではなかった。とりわけ職にあぶれた現地人から絶大な支持を得ていた。それがまたハチボクが馬鹿にされる遠因ともなっていた。
転生者を公職に就けるべきではない…、それがハチボクのモットーであり、ゆえに意知が財務省に登用されることにハチボクは勿論、反対であった。
だがここ異世界においては公務員には試験が必要であり、その受験資格は現地人のみならず転生者にも開放されており、意知はトップの成績で、いや、一番の成績で通過し、もっとも人気のある財務省に入省することができたのであった。これではハチボクも意知の入省に反対するわけにはいかなかった。
それでも堪らないのは現地人であり、試験に落ちた現地人、あるいは意知と出世競争で敗れたりした者たちにとってはハチボクのその「保守的主張」は心のオアシスであり、結果、ハチボクは彼らから絶大な支持を得ており、ハチボク自身、満更でもなさげな様子であり、それがまた馬鹿にされる遠因というわけだ。
いや、実を言えばハチボクの倅もまた公務員試験に落ちた口であり、それが益々、転生者嫌い、いや、意知嫌いに拍車をかけていたという側面もまた見逃せない事実であった。
一方、王位を狙うタケヤスにとってもハチボクの存在はまことに都合が良く、両者は相思相愛の関係であった。
「こうなればもはや、オキトモを破滅させる以外に道はありますまい…」
ハチボクは物騒なことを口にした。まともな判断力がある者ならば眉を顰めて相手にしないところであるが、生憎、王位の座に取り憑かれた今のタケヤスはまともな判断力を持ち合わせておらず、
「具体的にはどうする?」
タケヤスは興味津々といった様子で身を乗り出して詳細を尋ねる始末であった。
「オキトモが発案いたしました紙幣、これを利用するのです」
「紙幣を?」
「ええ。偽札を作った…、そうでっち上げて濡れ衣を着せるのです」
「そんなことが果たして本当にできるのか?」
タケヤスはさすがに懐疑的な様子を覗かせた。ようやくまともな反応を浮かべた。
「造幣局の職員の協力があれば可能です」
「造幣局の職員に偽札を造らせる、と?」
タケヤスが先回りしてそう尋ねると、ハチボクは頷いた。
「その上で、大量の偽札をオキトモが住まう屋敷に忍び入れ、いかにもオキトモが偽札造りを命じた…、そう見せかけることが可能というものです」
「いや、それには造幣局の職員のみならず、オキトモが住まう屋敷を警備している人間をも仲間に引き入れる必要があるぞ?」
「そこは心配ありません」
「と言うと?」
「オキトモが住まう屋敷は財務省の高官宿舎ですから…」
「警備している人間も財務省の役人だったな…」
タケヤスは思い出したようにそう言った。
「その通りです。詳しくは財務省大臣官房の警備課が事務次官を始めとする高官の屋敷の警備に当たり…」
「オキトモの住む屋敷…、官舎もその警備課の人間が警備していると…」
「ええ。ですからやはり警備課の人間を仲間に引き入れれば…」
「オキトモの住む屋敷に偽札を運び入れることも可能だと?」
「そういうことです」
「だが…、理屈ではそうだが、それを実現するとなると大事だぞ…」
「ええ。ですから財務大臣を説き伏せることができればそれも可能かと…」
「アソーの?」
「ええ」
「アソーは果たしてこの話に乗ってくれるかどうか…」
「アソーも決してオキトモには良い感情を持ち合わせてはおりませんでしょうから…」
アソーもまた血筋を重んじる貴族主義の男であった。
「だがそれだけで果たしてそんなリスキーな計画に乗ってくれるものだろうか…」
「それだけではありませんよ」
ハチボクは意味あり気な様子でそう言い、「と言うと?」とタケヤスはその先を促した。
「アソー財務大臣の妹御は…」
ハチボクがそう示唆するとタケヤスははたと気付いた。
「そうか…、すっかり失念していた…、ノブ殿であったわ…」
アソー財務大臣の妹のノブは王族のトモヒトの元へと嫁したために、
「ロイヤルファミリー入り」
それを果たしたわけで、ゆえに今日の昼食会にもトモヒトの配偶者として招かれていた。
そのノブも意知のことは快く思ってはおらず、その意知とマコとの結婚には大反対で、ゆえにノブの兄でもあるアソー財務大臣も妹のノブと同意見であるに違いなく、そうであれば意知を罠に嵌める計画に乗ってくれるに違いないというのがハチボクの読みであった。
タケヤスもハチボクのその読みに乗ることにした。
「それでは早速、アソー大臣の元へと参ろうではないか」
タケヤスはソファから立ち上がるなりそう宣すると、ハチボクも立ち上がり叩頭してみせ、タケヤスはハチボクを従えて応接室をあとにした。
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