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異世界カジノ贈収賄事件 ~ガーニー官房長官の犯罪を暴け~ 4

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「この俺、いえ、私に何が出来ると?」

 一兵は首をかしげた。一兵はあくまで指紋捜査の「人間国宝」であり、汚職サンズイ捜査のそれではなかったからだ。

是非ぜひともイッペイさん、いえ、イッペイ捜査官のそのシモンの技術を御借おかりしたく…」

 ワセダ長官はそう懇願こんがんしたのであった。

 だが、贈収賄の捜査に果たして指紋の技術が活用できるのか、それが一兵には分からなかった。

 するとそうと察したワセダ長官は、

「シモンの技術でもって、我々、検察がガーニー官房長官の地元事務所から押収おうしゅうしたその200枚もの金貨、それがガーニー官房長官が主張するような、正規せいきの政治献金などではなく、ガセミックからのうら献金けんきんだと立証りっしょうすることはできませんか?」

 一兵にそう提案したのであった。

「うーん…、そいつは難しいでしょうね…、新造しんぞう金貨ならともかく…」

 一兵がそう言いかけると、ワセダ長官は意外にも「それなら新造しんぞう金貨です」と意外にもそう言い切ったので、一兵を驚かせた。

「えっ?新造しんぞう金貨なんですか?」

「はい。それと申しますのも、我々、検察が押収した200枚もの金貨ですが、パッケージにめられておりましたので」

「パッケージ…、ってことはそれは造幣ぞうへいきょく…、いや、造幣ぞうへいきょくって組織があるかな…」

「はい。まさしく、財務省の外局がいきょく造幣ぞうへいきょく硬貨こうか紙幣しへいを…」

「で、そのパッケージはまさしく、造幣ぞうへいきょくの?つまり出来立てホヤホヤの金貨を表の献金けんきんとして受け取ったと、そう主張しているわけですか?ガーニー官房長官は…」

「そうです」

「でも、どうやって新造しんぞう金貨を…」

「ああ。それでしたら政治献金用として、企業が財務省に対して金貨相当額の紙幣、あるいは硬貨こうか…、勿論もちろん金貨きんか以外の硬貨こうかですが、それらとひきかえに金貨を鋳造ちゅうぞうしてもらえるのですよ」

「じゃあ、ガーニー官房長官に渡ったその新造しんぞう金貨も、ガセミックが財務省に対して金貨相当額の紙幣しへいか、あるいは硬貨こうかを持ち込んで、そいつらとひきかえに新造しんぞう金貨をつくらせて…、それも3000枚もの金貨をつくらせて、ガーニー官房長官に渡したと?」

「我々、検察はそういう見立てです」

「でもそれなら、財務省サイドに記録が残っているでしょうに…」

 一兵がそう主張すると、ワセダ長官は表情をくもらせ、「それが…」と言いよどんだのであった。

 それで一兵にも察しがついた。

「まさか…、記録が改竄かいざんされていたとか?ガーニー官房長官の主張…、表の献金けんきんだとの、嘘の主張を裏書うらがきするように…」

「その通りです。我々、検察としては半年前にガセミックからガーニー官房長官サイドに3000枚もの金貨が渡ったと見ております」

「ガセミックの元担当役員…、ガーニー官房長官に3000枚もの金貨を贈ったと、そう主張しているそうな元担当役員がそう供述しているから、ですね?」

「その通りです」

「それなら…、金貨の鋳造ちゅうぞう大体だいたい…、2~3ヶ月見積みつもって…、8~9ヶ月前に財務省サイドに金貨の鋳造ちゅうぞう発注はっちゅうしたことになりますかな…」

まさしく…、ですが、8~9ヶ月前の記録…、財務省に保管されているはずの金貨発注はっちゅうの記録を調べたのですが…」

「そんな記録は…、ガセミックから3000枚もの金貨の鋳造ちゅうぞうを頼まれたとの記録はなかったと?」

「その通りです。そこでもう少しさかのぼって調べましたところ、ハマ海洋土木という企業が1年前に3000枚もの金貨鋳造ちゅうぞう発注はっちゅうの記録が発見されまして…」

「海洋土木というからには、さしずめマリコンですか?いや、マリコンなんて言葉、あるかな…」

まさしく、マリコンです」

 異世界にもマリコンという単語が存在したことに一兵は驚かされた。

「ともあれ、そのハマ海洋土木が1年前に3000枚もの金貨の鋳造ちゅうぞう発注はっちゅうしたとの記録…、その財務省の記録は改竄かいざんされたものだと見ているわけですね?検察は…」

 一兵がそう勘を働かせると、ワセダ長官はうなずいた。

「ガーニー官房長官は8ヶ月前にその、ハマ海洋土木から3000枚もの金貨を受け取り、しかしそれは表の献金けんきんとして適正てきせいに処理していると…」

「ガーニー官房長官のその嘘の主張を裏書うらがきするように、財務省の記録が改竄かいざんされたと…、1年前にハマ海洋土木から3000枚もの金貨鋳造ちゅうぞう発注はっちゅうを受けたと…」

「我々、検察はそう見ております」

「だが…、マリコンからの献金けんきん…、ガセミックからのうら献金けんきんかくすための方便ほうべんだとしても、かなり問題があるのでは?」

「倫理的にはともかく、法的には問題ありません。ガーニー官房長官がマリコンから献金けんきんを受け取ることについては…」

「どうしてです?」

「ガーニー官房長官は国土交通分野はそれほど強くはなく、派内の人間にしても国土交通分野のポストにいている者はおらず…」

職務しょくむ権限けんげんがないから、贈収賄は成立しない、と?マリコンから献金けんきんを受け取ったとしても…、だからガーニー官房長官はそれを見越みこして、ガセミックからのうら献金けんきんかくすための方便ほうべんとして、マリコンから…、ハマ海洋土木から献金けんきんを受けたと、そう主張しているわけですね?」

「その通りです」

「ってことは、ガーニー官房長官は遊戯関連に強いわけですか…」

「そういうことです」

「だが…、それはともかく、ガーニー官房長官の地元事務所から押収した、パッケージに入れられていたという200枚もの金貨ですけど、当然、もうふうを解いてしまったわけですよね…」

 多くの捜査員がベタベタと素手すでで触れた図を一兵は想像した。

「それでしたらふうはまだ解いてはおりません」

「本当ですかっ!?」

「ええ。大事な証拠品ですのでふうは解かずに…、パッケージは透明ですから外からでも…、ああ、金貨が密封みっぷうされておりますパッケージですが100枚入りでして…」

「それが200枚ということは2つのパッケージを押収おうしゅうしたわけですね?」

「その通りです。で、透明ですから外からでも100枚入りの金貨だと目視もくし出来るわけでして…」

「そうですか…、いや、それなら何とかなりそうです」

 一兵がそう答えると、今度はワセダ長官が「本当ですかっ!?」と言う番だった。

「ええ…、まずその、2つのパッケージに付着ふちゃくしているであろうすべての指紋をらせてもらいますよ」

「承知しました」

「それと、ガーニー官房長官に金を渡したと供述している、ガセミックの元担当役員の指紋もりたいのですが…」

「それでしたら我々、検察がガセミックの元担当役員…、ミライズの身柄みがらを保護しておりますので、いつでも可能です」

「そうですか…、それと造幣ぞうへい局の職員…、特に金貨鋳造ちゅうぞうに当たるすべての職員の指紋もらせてもらいます」

造幣ぞうへい局職員の?」

 ワセダ長官は首をかしげた。

「ええ…、ガーニー官房長官は金貨3000枚…、今、手元に残っているのは200枚だけのようだが、ともあれ、そいつを受け取ったのは8ヶ月前…、ハマ海洋土木から受け取った正規おもて献金けんきんだと主張しており、しかもそれを裏付けるように、さらにそれより2ヶ月前…、つまり今から1年前にハマ海洋土木から財務省サイドに対して3000枚もの金貨鋳造ちゅうぞう発注はっちゅうを受けたとの記録があった…、だがその財務省の記録は改竄かいざんされたものと見ているわけですよね?」

 一兵は確かめるようにワセダ長官に尋ねた。

「その通りです」

「実際には、8~9ヶ月前にガセミックが財務省サイドに3000枚もの金貨鋳造ちゅうぞう発注はっちゅう、そうして造幣ぞうへい局に3000枚もの金貨を鋳造ちゅうぞうさせ、半年前にガセミックのその元担当役員だったとかいう男…、ミライズからガーニー官房長官サイドへと3000枚もの、出来立てホヤホヤの金貨が渡ったと…」

「その通りです」

「ならば、ですよ?3000枚もの金貨は実際には8~9ヶ月前に造幣ぞうへい局で鋳造ちゅうぞう…、つくられたことになるわけで、その時、例えば職員の中に1年前には存在しなかった…、要は1年前にはまだ、採用されていなかった職員、いや、正確には金貨づくりの職人の指紋が金貨に付着していたらどうでしょう…」

 一兵がそう謎かけしてみせると、ワセダ長官はすぐに一兵の意図いとに気付いた様子で、「あっ」と声を上げたかと思うと、

「3000枚もの金貨は…、今は200枚しか手元にないその金貨が8ヶ月前にハマ海洋土木から受け取ったものだとするガーニー官房長官のその主張は嘘…、くつがえせるというわけですね?」

 ワセダ長官が確かめるようにそう尋ねたので、今度は一兵が「その通りです」と答える番であった。

「それで…、職員の指紋も必要と…」

 ワセダ長官はうなずきつつ、そう言った。
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