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異世界カジノ贈収賄事件 ~ガーニー官房長官の犯罪を暴け~ 2

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 異世界にも「官房長官」が存在したとは、一兵は驚かされた。

「異世界ってのは王様がいて…、って絶対王政の国では?」

 一兵がワセダ長官にそう尋ねると、ワセダ長官の苦笑を誘った。

「もう随分ずいぶんと前に立憲君主制の国に移行しております」

「ってことは日本と同じってことですか?」

「ええ。一応、国王はおりますが…」

「君臨すれども統治せず、ってやつですか?」

「その通りです」

 それから一兵は最高検察庁に到着するまでの間、この異世界の政体についてワセダ長官から簡単に説明を受けた。

 その政体たるや、日本のそれとほとんど変わらずであった。

 無論むろんすべて同じなわけではなく、例えば日本が衆参の二院制なのに対して、この異世界は国民議会の一院制、任期4年で解散があるところは日本の衆議院と同じだが、中選挙区制であり、そこが小選挙区制の日本との違いであった。

「小選挙区制は弊害へいがいが多すぎますから…」

 ワセダ長官の説明に一兵もうなずいた。

「確かに…、小選挙区制は少数政党を排除しますからねぇ…」

 排除という言葉を口にした一兵は某知事を思い出した。

まさしく…」

「それで…、首相がいるわけですよね?」

「ええ。アヴェガーがそうです」

「アヴェガー、ねぇ…、ちなみに選挙区は…」

「チョウシュウ県全県区です」

「全県区とはまた、懐かしい響きだな…」

「まぁ、すべての選挙区が全県区なわけではありませんが…」

 ここ首都であるチヨダ都は二つに選挙区が分かれているとの話であった。

「で…、ガーニー官房長官は…」

「ハマ県全県区です」

「ちなみに定数は…」

「5人です。で、毎回トップ当選がガーニー官房長官です」

成程なるほど…、でその総理のアヴェガーの女房役とも言うべき官房長官のガーニーを狙っていると…」

「そういうことです」

 それから馬車は最高検察庁に到着した。一兵はワセダ長官直々の案内により地下へと案内された。どうやらそこが特捜本部の「帳場ちょうば」としているらしい。

 案の定、そこには十数人の男たち、いや、そこに若干じゃっかんめいの女も混じっていたが、傍目はためにも証拠品ぶつの読み込み、所謂いわゆる、「ブツ読み」をしていると察せられた。してみると彼らはどうやら「特捜検事」らしい。

 そこへワセダ長官が姿を見せたことから、彼ら「特捜検事」は皆、「ブツ読み」の手を止めると、起立しようとしたので、ワセダ長官はそれを制した。

 そしてワセダ長官の隣には見知らぬ男、もとい一兵が立っていたので、当たり前だが彼ら「特捜検事」に警戒された。当然であった。

 するとそうと察したワセダ長官が、「心配しなくて良いわ」と言うと、一兵のことを彼ら「特捜検事」に紹介した。すなわち、指紋の技術を簡単に説明した上で、その指紋捜査のスペシャリスト、いや、「人間国宝」とも言うべき一兵が、

「特別捜査官」

 として捜査に加わると、彼ら「特捜検事」に説明したのであった。それで彼ら「特捜検事」もようやくに少しだけだが警戒心を解いた様子であったが、それでも完全に警戒心を解いたわけではなかった。それでこそ「特捜検事」であった。

 それからワセダ長官は一人の「特捜検事」を指名して、一兵に事件の概要がいようを説明させた。

 それによると、ガーニー官房長官が選挙区としているハマ県においてカジノが解禁されることになり、カジノを運営することが決まった遊技機大手のガセミックからガーニー官房長官サイドに金貨3000枚が流れたそうな。ちなみに金貨1枚につき日本円にして10万円の価値があるそうな。さしずめ「10万円金貨」といったところか。

 それが3000枚もの金貨が流れたということは日本円にして3億円になる。

「この異世界では…、それまでカジノはご法度はっとだったと?」

「ええ」

「でも、カジノが解禁されることになり…、それでカジノを運営…、要は鉄火てっか…、賭場とばを任されることになったそのガセミックとやらが、お礼のために3000枚もの金貨を贈ったと?ガーニー官房長官に…」

 一兵が確かめるようにそう言うと、「その通りです」とワセダ長官は首肯しゅこうした。

「だが、問題は職務権限だよな…」

 一兵は独り言のようにそうつぶやいた。一兵は指紋捜査の「人間国宝」であって、汚職サンズイ捜査のそれではなかったものの、それでも汚職サンズイ捜査においては常に職務権限がネックになることぐらいは知っていた。

「それなら心配はいりません」

「と言うと?」

「カジノを解禁するためには様々な法改正が必要でした…」

「そうでしょうね。例えば刑法とか…」

「そうです。で、司法委員会においてその審議が行われ、あわせて商務委員会ではどこの業者にカジノを仕切らせるか、その審議が行われ…」

「さしずめ、両委員会の委員長がガーニーの手下だったとか?」

「その通りです。司法委員会の委員長がカッツ、商務委員会の委員長がアンリ。この二人はガーニー派の議員です」

「と言うことは、斡旋あっせん収賄しゅわいの構成要件を満たしているな…、ってこの異世界に斡旋あっせん収賄しゅうわいって罪状はあるんですか?」

 一兵が尋ねると、「あります」とのワセダ長官からの即答があった。

「ちなみに、カッツとアンリは夫婦です」

 これには一兵も驚かされた。いや、夫婦で議員を務めていることに驚いたわけではなく、委員会の委員長ポストを夫婦で独占していることに、であった。しかも夫婦共にガーニー派ともなれば驚くなと言う方が無理である。

「そしてその、カジノを仕切しきることになったガセミックから官房長官のガーニーへと流れたとおぼしき3000枚の金貨の一部が、カッツとアンリにもご褒美ほうびとして行き渡ったと?あるいはその前か…」

「時期的には商務委員会においてガセミックに決まる前と思われます」

「その前に、アンリに?」

「それにカッツにも…」

夫婦ふうふそろって親分のガーニーからその…、ガセミックがガーニーに贈ったまいないの一部が流れたと?」

「ええ。それも半額の1500枚もの金貨が…」

 さしずめ1億5千万円もの大金がカッツとアンリの夫婦に流れたということらしかった。
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