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一兵は異世界の案内役のシオリが気になる
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「これは驚いたな…、いや、イッペイさんなら警察で働けますな…」
タテは一兵の指紋による個人識別の技術を目(ま)の当たりにして、思わずそう呟(つぶや)いた。そしてそれは一兵にしても歓迎すべきところであった。
「できれば鑑識、指紋を担当したいんですがね…」
一兵は鑑識畑、それも指紋畑だが、しかし、指紋以外のことを知らないわけではなかった。一応、例えば足跡(そくせき)なども担当したことがあるが、それでもやはり指紋を最も得意とするところであった。
「そうでしょうねぇ…、分かりました。警察大臣とも調整の上、あらたにシモン…、ゲンジョウシモンの部署を設けさせましょう。いや、初めてですよ。異世界転生者で異世界の役に立ってくれそうな方は…」
タテはしみじみとそう言った。成程(なるほど)、ニートなどのごくつぶしでは転生してきたところで、異世界の役には立たないだろう。いや、百歩譲って、異世界に転生して本気を出したニートが例えば、兵士になったところで、その分、異世界の現地住民が兵士になれる機会を奪ってしまうことになるわけで、その意味でも異世界の役には立たない、どころか迷惑極まりない存在であろう。
その点、一兵はと言うと、一兵が持つ「指紋捜査」という技術はこの異世界にはまだ存在しておらず、それゆえ、一兵がさしずめ「指紋捜査官」として異世界で働くようになったとしても、異世界の現地住民の就職の機会を奪うことにはならないだろう。
「それでは私どもはこれで…」
タテは一兵にそう告げるとジュンとそれに「言語変換の魔術師」とも言うべき男をも引き連れて部屋をあとにし、残されたのは一兵とシオリだけであった。
「あの…」
これから俺はどうすれば良いのか…、一兵は心の中でそう尋ねた。本当なら声に出したいところであったが、しかし、生憎(あいにく)声にはならなかった。それと言うのも一兵は女が大の苦手であったのだ。勿論、女が嫌いなわけではなかった。ただ、女と二人きりというシチュエーションにまったくと言って良い程に慣れておらず、ゆえに女と二人きりだと緊張のあまり声すら上げることができなかった。
それもこれも環境のせいかも知れない。それと言うのも一兵は中高一貫校の男くさい男子校で青春を送り、爾来(じらい)、女がすっかり苦手となってしまった。
だがシオリはそんな一兵に安心感を与えるかのように、「まずは町を案内いたします…」と極力、事務的な口調でそう告げた。一兵の内心の質問と同時に、女が苦手であることまで読み取った上でのその答えであろうが、一兵はその事務的な口調に一抹(いちまつ)の寂(さび)しさを覚え、一兵はそんな自分に心底驚いたものである。
「あなたが案内を?」
「ええ。イッペイ様の案内役ですので…」
「そのイッペイ様と言うのは…」
「イッペイと呼び捨てにして欲しいとのご要望ですか?」
シオリの言葉には揶揄(やゆ)の響きが感じられたが、その通りであったので「ええ…」と一兵は正直に答え、すぐに後悔した。それと言うのも女に対して自分の名前を呼び捨てにして欲しいと頼んだことを、である。これではまるで、女と仲良くなりたいと言っているのと同じである。
するとシオリはそんな一兵の胸のうちを知ってか知らずか、
「一兵様がそう望まれるのであれば、これよりはイッペイと呼びますが、宜(よろ)しいですか?」
やはり事務的な口調でそう確かめてきたので、「ああ…」と一兵は答え、一兵も言葉を崩すことにした。
「それにしても良く分かったな…」
「何がでございましょう…」
「その口調…、敬語もやめてくれ…、俺もこうして言葉を崩しているんだから…」
「承知…、いえ、分かったわ。で、何が分かったって?」
「だからどうして俺が自身を呼び捨てにして欲しいってそのことが分かったのかってことさ…」
一兵が改めてそう尋ねるとシオリは「ああ…」と口にした。
「そんなこと、わけないわよ」
「どうして?」
「異世界に転生してきた人間…、とりわけ男は皆、そう望むから…」
「そう望むって…、シオリはこれまでにも異世界転生者の世話をしたことがあるのか…」
一兵はそう尋ねてからすぐに後悔した。何て馬鹿なことを尋ねたのかと。
それに対してシオリはさらに魅惑的な微笑をよこした。
「気になる?」
「いや、別に…」
本当は気になる。が、そんな自分を認めたくなかったので嘘をついた。
「そう…、でもまぁ、気にならないでしょうけど教えてあげるね…」
シオリのその前置きは一兵には何だか見透かされたような気がした。
「異世界転生者の世話係は私以外にもいて、で、私自身も多くの、とは言わないけれど、それなりに異世界転生者のお世話を…、殿方(とのがた)のお世話をしてきたわ…」
どう、これで気になることが、疑問が氷解(ひょうかい)したかしら…、シオリはそう言いたげな顔で一兵を覗(のぞ)き込み、一兵は思わず顔を背けた。これ以上、シオリに胸のうちを悟(さと)られたくなかったからだ。
「町を案内してくれないか…」
一兵はわざと大きな声を出してそう告げた。まるでこの話題はここまでと言わんばかりの調子であり、そしてそれに対してもやはりシオリは一兵の胸のうちを読み取ったかのように意味ありげな微笑を浮かべると、
「まぁ、良いわ…」
とこれまた意味ありげな言葉を吐いて、立ち上がった。
タテは一兵の指紋による個人識別の技術を目(ま)の当たりにして、思わずそう呟(つぶや)いた。そしてそれは一兵にしても歓迎すべきところであった。
「できれば鑑識、指紋を担当したいんですがね…」
一兵は鑑識畑、それも指紋畑だが、しかし、指紋以外のことを知らないわけではなかった。一応、例えば足跡(そくせき)なども担当したことがあるが、それでもやはり指紋を最も得意とするところであった。
「そうでしょうねぇ…、分かりました。警察大臣とも調整の上、あらたにシモン…、ゲンジョウシモンの部署を設けさせましょう。いや、初めてですよ。異世界転生者で異世界の役に立ってくれそうな方は…」
タテはしみじみとそう言った。成程(なるほど)、ニートなどのごくつぶしでは転生してきたところで、異世界の役には立たないだろう。いや、百歩譲って、異世界に転生して本気を出したニートが例えば、兵士になったところで、その分、異世界の現地住民が兵士になれる機会を奪ってしまうことになるわけで、その意味でも異世界の役には立たない、どころか迷惑極まりない存在であろう。
その点、一兵はと言うと、一兵が持つ「指紋捜査」という技術はこの異世界にはまだ存在しておらず、それゆえ、一兵がさしずめ「指紋捜査官」として異世界で働くようになったとしても、異世界の現地住民の就職の機会を奪うことにはならないだろう。
「それでは私どもはこれで…」
タテは一兵にそう告げるとジュンとそれに「言語変換の魔術師」とも言うべき男をも引き連れて部屋をあとにし、残されたのは一兵とシオリだけであった。
「あの…」
これから俺はどうすれば良いのか…、一兵は心の中でそう尋ねた。本当なら声に出したいところであったが、しかし、生憎(あいにく)声にはならなかった。それと言うのも一兵は女が大の苦手であったのだ。勿論、女が嫌いなわけではなかった。ただ、女と二人きりというシチュエーションにまったくと言って良い程に慣れておらず、ゆえに女と二人きりだと緊張のあまり声すら上げることができなかった。
それもこれも環境のせいかも知れない。それと言うのも一兵は中高一貫校の男くさい男子校で青春を送り、爾来(じらい)、女がすっかり苦手となってしまった。
だがシオリはそんな一兵に安心感を与えるかのように、「まずは町を案内いたします…」と極力、事務的な口調でそう告げた。一兵の内心の質問と同時に、女が苦手であることまで読み取った上でのその答えであろうが、一兵はその事務的な口調に一抹(いちまつ)の寂(さび)しさを覚え、一兵はそんな自分に心底驚いたものである。
「あなたが案内を?」
「ええ。イッペイ様の案内役ですので…」
「そのイッペイ様と言うのは…」
「イッペイと呼び捨てにして欲しいとのご要望ですか?」
シオリの言葉には揶揄(やゆ)の響きが感じられたが、その通りであったので「ええ…」と一兵は正直に答え、すぐに後悔した。それと言うのも女に対して自分の名前を呼び捨てにして欲しいと頼んだことを、である。これではまるで、女と仲良くなりたいと言っているのと同じである。
するとシオリはそんな一兵の胸のうちを知ってか知らずか、
「一兵様がそう望まれるのであれば、これよりはイッペイと呼びますが、宜(よろ)しいですか?」
やはり事務的な口調でそう確かめてきたので、「ああ…」と一兵は答え、一兵も言葉を崩すことにした。
「それにしても良く分かったな…」
「何がでございましょう…」
「その口調…、敬語もやめてくれ…、俺もこうして言葉を崩しているんだから…」
「承知…、いえ、分かったわ。で、何が分かったって?」
「だからどうして俺が自身を呼び捨てにして欲しいってそのことが分かったのかってことさ…」
一兵が改めてそう尋ねるとシオリは「ああ…」と口にした。
「そんなこと、わけないわよ」
「どうして?」
「異世界に転生してきた人間…、とりわけ男は皆、そう望むから…」
「そう望むって…、シオリはこれまでにも異世界転生者の世話をしたことがあるのか…」
一兵はそう尋ねてからすぐに後悔した。何て馬鹿なことを尋ねたのかと。
それに対してシオリはさらに魅惑的な微笑をよこした。
「気になる?」
「いや、別に…」
本当は気になる。が、そんな自分を認めたくなかったので嘘をついた。
「そう…、でもまぁ、気にならないでしょうけど教えてあげるね…」
シオリのその前置きは一兵には何だか見透かされたような気がした。
「異世界転生者の世話係は私以外にもいて、で、私自身も多くの、とは言わないけれど、それなりに異世界転生者のお世話を…、殿方(とのがた)のお世話をしてきたわ…」
どう、これで気になることが、疑問が氷解(ひょうかい)したかしら…、シオリはそう言いたげな顔で一兵を覗(のぞ)き込み、一兵は思わず顔を背けた。これ以上、シオリに胸のうちを悟(さと)られたくなかったからだ。
「町を案内してくれないか…」
一兵はわざと大きな声を出してそう告げた。まるでこの話題はここまでと言わんばかりの調子であり、そしてそれに対してもやはりシオリは一兵の胸のうちを読み取ったかのように意味ありげな微笑を浮かべると、
「まぁ、良いわ…」
とこれまた意味ありげな言葉を吐いて、立ち上がった。
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