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一兵はシオリたちに指紋採取を実演してみせる

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 一兵は起き上がると、ベッドの上に置かれていた、やはりこれもまた特に本部鑑識課のプライドとも言うべき、

『MPD INVESTIGATION』

 のキャップを取り上げた。やはり無事で、一兵はそれを頭に被(かぶ)るともう「戦闘モード」であった。

 さらに一兵は「戦闘モード」を高める白手袋をはめると、いよいよ指紋採取の実演をしてみせることとした。

 一兵は周囲を見回し、窓枠にガラス窓がはめられているのを目にした。

「ガラス…」

 一兵がそう呟(つぶや)くと、やはりシオリが一兵の胸のうちを推し量ったようで、

「ガラスぐらい異世界にもありますわ…」

 微笑を浮かべてそう答えてくれた。幾分(いくぶん)か自分に親しみを覚え始めたのではないかと、一兵にそう思わせた。

「それじゃあ…、この窓の真ん中の部分…」

 一兵はその部分を白手袋をはめた右手の人差し指で指し示すと、

「この部分を誰か手で…、指で触ってもらえませんかね。勿論、その間、私はこの部屋から出て行きますから…」

 そう提案した。

「誰が触ったのか…、誰の指なのか、そのシモンとやらで当てようと?」

 タテがそう尋ねた。いかにもその通りではあるが、当てるという言い草には一兵は気に入らなかった。何だかまるでクイズにでも当ててみせるかのような、そんな言われようだったからだ。

 尤(もっと)も、そんなことに腹を立てていても仕方ないと、一兵は気を取り直して、「ええ」と答えると、

「右手でも左手でもどちらの指でも構いません。勿論、親指でも人差し指でも…」

 そう告げると、一兵は指紋採取の機材が入ったアルミケースを抱えていったんその部屋を後にした。アルミケースまでわざわざ抱える必要はないのかも知れないが、それでも捜査関係者以外だけしかいない場所に指紋採取の機材を置きっぱなしにすることは一兵にはできなかった。それはさしずめ本能のようなものであり、それは何も一兵に限らないだろう。すべての鑑識課員に共通する「本能」と言うべきであろう。

 さて、そうして外で待機していた一兵の元を間もなくしてシオリが現れ、「終わりました」と告げた。

 一兵はシオリと共に再び部屋に戻り、そして問題の窓の前へと近付くと、いよいよ本番である。

 一兵はアルミケースから指紋採取の機材を取り出した。指紋の印章後、1時間どころか3分も経っていない、つまりは「出来立てほやほや…」の指紋であるので、ここはLA粉末を使うべきと、その検出液を取り出すと、それをタンポに染みこませ、そしてそのLA粉末が染みこんだタンポでもって窓のちょうど真ん中あたりを指紋を壊さぬようにと慎重な手付きでさらにLA粉末を染みこませ、小筆でもって刷いた。

 するとあら不思議、一個の指紋が検出された。一兵はそれをゼラチン紙に転写した後で、今度はここにいる者たち全員の指紋を取ることにした。

 即(すなわ)ち、ここにいる4人分に相当する4枚の協力者指紋原紙を取り出すと、1人ずつ、左手の人差し指、所謂(いわゆる)、示指の指紋から原紙に転写されていく。

 まずはレディファースト、シオリの指紋から取ることにした。シオリは興味深げな様子で、一兵から言われた通り左手の人差し指に朱肉を含ませ、そして原紙の「示指」という部分に人差し指を擦り付けた。

 この要領でもって4人全員の指紋採取を終えた。果たして魔術師らしき男は協力してくれるかと、一兵は内心、不安であったが、どうやらそれは杞憂(きゆう)であった。シオリに続いてタケ、ジュンが指紋を採らせてくれると、最後に魔術師らしき男も指紋を採らせてくれた。

 さて、こうして4人全員の指紋採取を終えたところで、例の窓から検出された指紋とをルーペで覗き込み、比較するという対照作業に入る。

「へぇ…、変体紋だ…」

 一兵はシオリの指紋をルーペで覗き込みながらそう呟(つぶや)いた。

「ヘンタイモン?」

 シオリたちが声を揃(そろ)えて聞き返した。

「ええ…、指紋には大まかに渦状(かじょう)紋、蹄状(ていじょう)紋、弓状(きゅうじょう)紋、そしてこれらのいずれにも属さない変体(へんたい)紋に分かれておりまして、このうち日本人に多いのは…」

 一兵はルーペを覗(のぞ)き込みながら講釈(こうしゃく)し始め、しかし、すぐにどうでも良いことだと思い直して口を噤(つぐ)み、対照作業に集中した。

 そうしてそれから暫(しばら)くしてから漸(ようや)くにお目当ての指紋に行き着いた。

「タテさん…、左手の中指でもって触りましたね?」

 一兵はルーペから顔を上げると、タテの方を向いてそう告げた。これにはタテは勿論、シオリたちも…、例の魔術師らしき男ですら驚いた様子をのぞかせた。
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