お墓参りの後には一服どうぞ

ご隠居

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再生 ~最期の墓参り~ 2

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 墓参はかまいりをえたおとこはしかし、家路いえじにつくわけでもなく、なくまち彷徨さまよった。

 いや、正確せいかくにはてはあった。ただ、そこが終焉しゅうえん相応ふさわしいかどうかが問題もんだいであった。

「やはり…、ここはホテルか…」

 ホテルでひっそりと人生じんせいわらせる…、セオリーどおりであり、わるくはないが、しかし問題もんだいもあった。

「おふくろに賠償ばいしょう請求せいきゅうがいくか…」

 ホテルを終焉しゅうえんとしてえらんだ場合ばあいおとこにとって唯一ゆいいつ相続人そうぞくにんとも言うべき母親ははおやにホテルから賠償ばいしょう請求せいきゅうがなされるおそれがありた。

 無論むろん、それを回避かいひするがないわけでもないではない。相続そうぞく放棄ほうきというである。

 だがその場合ばあい当然とうぜんながらおとこのこしたプラスの財産ざいさん引継ひきつぐことは出来できない。

 不肖ふしょうせがれではあったが、いや、そうであるがゆえに、これまで迷惑めいわくのかけどおしであった母親ははおやにはぬまで生活せいかつ不自由ふじゆうしないだけのかねのこしてやりたかった。そしておとこにはその程度ていどかねはあったので、それをそのままそっくり母親ははおや相続そうぞくさせてやりたかった。

 だとするならばホテルは駄目だめおな理由りゆうから鉄道てつどう勿論もちろん論外ろんがいである。

「やはり…、我家わがやでひっそりと、か…」

 おとこ持家もちいえ母親ははおや二人ふたりらしていたので、そこを終焉しゅうえんえらんだ場合ばあいには賠償ばいしょう請求せいきゅうされるおそれはない。無論みろん、その場合ばあいには持家もちいえ所謂いわゆる事故じこ物件ぶっけんとなり、評価額ひょうかがく当然とうぜんがるだろうが、母親ははおやはこのさきぬまで持家もちいえ手放てばなすことはないだろうから、たと評価額ひょうかがくがったところで問題もんだいはなかった。

 いや、母親ははおやづかれるおそれはありたが、母親ははおや四六時中しろくじちゅういえにいるわけではないのでそのすきわらせればはなしであった。それもことげるまでに、この場合ばあいには事切こときれるまで、と言うべきか、ともあれ30分もかからないだろ。そして母親ははおや外出がいしゅつ時間じかんはそれ以上いじょう通例つうれいであった。

 ならかえるか…、おとこがそう決意けついすると、きびすかえしてあるはじめてからぐのことであった。おとこ視界しかいみょう看板かんばんんできた。

「お墓参はかまいりのあとには一服いっぷくどうぞ…、か?」

 みょう看板かんばんがあるものだ。たところ喫茶店きっさてんのようである。

 最期さいご一杯いっぱい洒落込しゃれこむのもわるくはないな…、おとこはそうおもうとその喫茶店きっさてんまれるように入店にゅうてんした。
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