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忠隣(ただちか)はみつおの度を越した低姿勢ぶりについて家康と秀忠に相談を持ちかけるも、家康はみつおの好きにさせてやることに。
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みつおの低姿勢ぶりに忠為(ただため)は元より、家中(かちゅう)の皆が困惑した。もっと尊大に振舞う…、いや、振舞ってくれるものだと信じて疑わなかったからだ。
それが案に相違して、みつおが低姿勢ぶりをアピールしたので家中(かちゅう)は皆、困惑したわけだが、それでも家臣や女中たちはみつおの低姿勢ぶりに次第に…、それも早くもその日のうちに慣れると同時に、大いに歓迎した。
それとは正反対に忠為(ただため)はみつおの低姿勢ぶりに、家康と秀忠までが侮(あなど)られるのではないかと、未だにその危惧(きぐ)を拭(ぬぐ)えず、頭領とも言うべき忠隣(ただちか)に相談した。
「まぁ、叔父上(おじうえ)の気持ちも分からぬではないが…」
忠隣(ただちか)と忠為(ただため)は同い年…、57歳であったが、忠為(ただため)は忠隣(ただちか)の父、忠世(ただよ)の弟であるために、同い年とは言え、忠隣(ただちか)は忠為(ただため)のことを、「叔父上(おじうえ)」と呼んで立てていた。
ともあれ忠隣(ただちか)はまずは叔父(おじ)・忠為(ただため)の懸念に理解を示しつつも、
「なれど、尊大に振舞いすぎて周囲の者に仇(あだ)なすようであれば懸念(けねん)するのも尤(もっと)もではあるものの、なれどみつお様、いや、秀頼(ひでより)君(ぎみ)はそれとは正反対にあくまで低姿勢に過ぎると申すものにて別段、仇(あだ)なすわけでもあるまいて…」
みつおの低姿勢を擁護(ようご)した。
「いえ、畏(おそ)れ多くも大御所様や上様の権威に仇(あだ)なす恐れこれあり…」
「それは…、杞憂(きゆう)ではござるまいか?」
「いや…」
忠為(ただため)は黙り込んだ。頭領たる忠隣(ただちか)がみつおの低姿勢に理解を示している以上、これに異を唱えるのは例え、己が頭領の叔父(おじ)だとしても、
「控えねば…」
との自制心が働いたからだ。そんな忠為(ただため)の姿勢を見せつけられては忠隣(ただちか)も完全には杞憂(きゆう)だと…、みつおが周囲に対して低姿勢だからと言って、それで家康や秀忠の権威に傷がつくものかと懐疑的であったが、しかし、杞憂(きゆう)だと切り捨てることができなかった。いや、実際、忠隣(ただちか)は叔父(おじ)・忠為(ただため)の杞憂(きゆう)…、それも取り越し苦労に過ぎないとの思いであったが、それでも忠為(ただため)が己のことを頭領として立ててくれる以上、
「己の叔父(おじ)の顔を立ててやらねば…」
忠隣(ただちか)はそう思うと、
「まぁ、一応、これより登城して大御所様と上様に事の次第を告げ、それとなく秀頼(ひでより)君(ぎみ)に訓戒(くんか)の一つでも与えてくれるよう、掛け合ってみましょうぞ…」
忠為(ただため)にそう応えてみせ、忠為(ただため)は少しだけ安堵(あんど)した様子を見せた。
実際、忠隣(ただちか)はそれから再び、江戸城に登城し、大御所・家康と将軍・秀忠に拝謁(はいえつ)し、事の次第を告げたのであった。
「左様か…、みつおがのう…」
真っ先に反応したのは秀忠であった。とりわけ、みつおが大事な愛娘である千姫と夫婦関係を続けるつもりがないと知り、安堵(あんど)している様子であった。いや、みつおからは既にその言質(げんち)を得ていたものの、しかしこうして改めて忠隣(ただちか)を通じて、みつおの本心が聞かれたことで秀忠は漸(ようや)くに、みつおの言葉に嘘偽りはなかったのだと、思い知らされた。
一方、家康はと言うと、特に面白くもなさそうな顔であった。いや、これは…、如何(いか)にも関心がないような顔をしている時の家康は実際には頭をフル回転させている時であった。つまりは擬態(ぎたい)であり、忠隣(ただちか)にはそれが手に取るように分かった。
「して、忠隣(ただちか)は如何(いか)に思うておるのだ?」
家康が尋ねた。
「まぁ…、それがしと致しましては忠為(ただため)が杞憂(きゆう)に過ぎぬと思うておりまするが、なれどこうして忠為(ただため)より懸念(けねん)を耳に致しましたる上はこれを捨て置くわけにもゆかず…」
「うむ…、それで一応、我らに相談を持ちかけたというわけだな?」
家康にそう問われた忠隣(ただちか)は、「御意(ぎょい)」と答えた。
「まぁ、みつおが好きにさせれば良いではないか…」
秀忠はそう答えた。愛娘の千姫と夫婦関係を続ける意思がないと、改めてみつおの本心を知ると、秀忠にはもう、それだけで充分であり、そうである以上、みつおがどう振舞おうとも…、まして周囲に低姿勢で振舞いたいのであれば、みつおの勝手にさせてやれとの思いから、秀忠は些(いささ)か投げやりとも思える口調で答えたのであった。
「うむ…、秀忠が申す通りぞ…、みつおが好きにさせてやれば良かろう…」
意外にも家康も秀忠の意見に賛同したので、忠隣(ただちか)としてはこれ以上、みつおの低姿勢ぶりについて異議申し立てをするわけにもゆかず、「ははっ」と平伏(へいふく)するとその場より退(さ)がった。
忠隣(ただちか)が退(さ)がった後、家康は謀臣(ぼうしん)・正信を呼び寄せ、正信に対してみつおの低姿勢ぶりを語って聞かせた。
「みつおがそのように…」
さしもの正信もみつおの低姿勢ぶりには驚いた様子であった。
「左様…、いや、みつおは案外、使えるやも知れぬな…」
家康はそう呟(つぶや)いた。
「徳川家の安泰(あんたい)に資する、と?」
正信は即座に家康の意図を汲み取り、そう尋ねた。それに対して家康は頷いてみせた。
「あの、それは一体…」
唯一、秀忠には分からなかったらしく、家康と正信、双方に対して意図を尋ねた。
「分からぬか…、みつお、いや、秀頼がそこまで…、徳川家の直参(じきさん)、果てはその陪臣(ばいしん)、いや、女中などの下郎に至るまで低姿勢とあらば、他の諸大名にしてもいよいよもって我が徳川家に忠誠を誓わねばと…、秀頼(ひでより)君(ぎみ)さえそこまで徳川家に服従している上は当家もそれ以上に徳川家に服従せねばと、そう思わせるに充分であろうが…」
家康が嚙んで含めるように説明したことで、秀忠もそれで漸(ようや)くに意図を飲み込めた。
「なるほど…、いや、それでは…、みつおをこれからも秀頼として遇するおつもりで?」
秀忠は恐る恐る尋ねた。それも無理もない。何しろそれは、
「みつおに、これからも愛娘の千姫と夫婦関係を続けさせるおつもりで?」
そう尋ねていたからだ。家康もそうと察して、「その通りぞ」と答えた上で、
「そうである以上、千姫とは夫婦(めおと)を続けさせる」
ご丁寧にもそう付け加え、秀忠を呆然(ぼうぜん)とさせた。
家康はそんな愚息(ぐそく)・秀忠を尻目(しりめ)にさらに続けた。
「しかも、みつおめ、いや、秀頼は大名にはなりたくない、遊んで暮らしたいとも申しておったわ…、その通りにさせてやればこれまた好都合というものよ…、いや、無論、十万石程度の捨扶持(すてぶち)は与えてやるつもりだがのう…」
家康が謎かけするようにそう言うと、正信も流石(さすが)の眼力でもってこれに応じた
「いかさま…、秀頼(ひでより)君(ぎみ)さえ十万石の捨扶持(すてぶち)に甘んじられた…、となれば他の諸大名にしても減封(げんぽう)されても文句は言えまい、いや、御家を存続できるだけでもありがたいと思わねばと、そう思わせるに充分というわけでござりまするな?」
「その通りぞ…」
家康は口元を緩(ゆる)め、正信もそれに応じる中、唯一(ゆいいつ)、秀忠は未だに茫然(ぼうぜん)自失(じしつ)の体(てい)であった。
それが案に相違して、みつおが低姿勢ぶりをアピールしたので家中(かちゅう)は皆、困惑したわけだが、それでも家臣や女中たちはみつおの低姿勢ぶりに次第に…、それも早くもその日のうちに慣れると同時に、大いに歓迎した。
それとは正反対に忠為(ただため)はみつおの低姿勢ぶりに、家康と秀忠までが侮(あなど)られるのではないかと、未だにその危惧(きぐ)を拭(ぬぐ)えず、頭領とも言うべき忠隣(ただちか)に相談した。
「まぁ、叔父上(おじうえ)の気持ちも分からぬではないが…」
忠隣(ただちか)と忠為(ただため)は同い年…、57歳であったが、忠為(ただため)は忠隣(ただちか)の父、忠世(ただよ)の弟であるために、同い年とは言え、忠隣(ただちか)は忠為(ただため)のことを、「叔父上(おじうえ)」と呼んで立てていた。
ともあれ忠隣(ただちか)はまずは叔父(おじ)・忠為(ただため)の懸念に理解を示しつつも、
「なれど、尊大に振舞いすぎて周囲の者に仇(あだ)なすようであれば懸念(けねん)するのも尤(もっと)もではあるものの、なれどみつお様、いや、秀頼(ひでより)君(ぎみ)はそれとは正反対にあくまで低姿勢に過ぎると申すものにて別段、仇(あだ)なすわけでもあるまいて…」
みつおの低姿勢を擁護(ようご)した。
「いえ、畏(おそ)れ多くも大御所様や上様の権威に仇(あだ)なす恐れこれあり…」
「それは…、杞憂(きゆう)ではござるまいか?」
「いや…」
忠為(ただため)は黙り込んだ。頭領たる忠隣(ただちか)がみつおの低姿勢に理解を示している以上、これに異を唱えるのは例え、己が頭領の叔父(おじ)だとしても、
「控えねば…」
との自制心が働いたからだ。そんな忠為(ただため)の姿勢を見せつけられては忠隣(ただちか)も完全には杞憂(きゆう)だと…、みつおが周囲に対して低姿勢だからと言って、それで家康や秀忠の権威に傷がつくものかと懐疑的であったが、しかし、杞憂(きゆう)だと切り捨てることができなかった。いや、実際、忠隣(ただちか)は叔父(おじ)・忠為(ただため)の杞憂(きゆう)…、それも取り越し苦労に過ぎないとの思いであったが、それでも忠為(ただため)が己のことを頭領として立ててくれる以上、
「己の叔父(おじ)の顔を立ててやらねば…」
忠隣(ただちか)はそう思うと、
「まぁ、一応、これより登城して大御所様と上様に事の次第を告げ、それとなく秀頼(ひでより)君(ぎみ)に訓戒(くんか)の一つでも与えてくれるよう、掛け合ってみましょうぞ…」
忠為(ただため)にそう応えてみせ、忠為(ただため)は少しだけ安堵(あんど)した様子を見せた。
実際、忠隣(ただちか)はそれから再び、江戸城に登城し、大御所・家康と将軍・秀忠に拝謁(はいえつ)し、事の次第を告げたのであった。
「左様か…、みつおがのう…」
真っ先に反応したのは秀忠であった。とりわけ、みつおが大事な愛娘である千姫と夫婦関係を続けるつもりがないと知り、安堵(あんど)している様子であった。いや、みつおからは既にその言質(げんち)を得ていたものの、しかしこうして改めて忠隣(ただちか)を通じて、みつおの本心が聞かれたことで秀忠は漸(ようや)くに、みつおの言葉に嘘偽りはなかったのだと、思い知らされた。
一方、家康はと言うと、特に面白くもなさそうな顔であった。いや、これは…、如何(いか)にも関心がないような顔をしている時の家康は実際には頭をフル回転させている時であった。つまりは擬態(ぎたい)であり、忠隣(ただちか)にはそれが手に取るように分かった。
「して、忠隣(ただちか)は如何(いか)に思うておるのだ?」
家康が尋ねた。
「まぁ…、それがしと致しましては忠為(ただため)が杞憂(きゆう)に過ぎぬと思うておりまするが、なれどこうして忠為(ただため)より懸念(けねん)を耳に致しましたる上はこれを捨て置くわけにもゆかず…」
「うむ…、それで一応、我らに相談を持ちかけたというわけだな?」
家康にそう問われた忠隣(ただちか)は、「御意(ぎょい)」と答えた。
「まぁ、みつおが好きにさせれば良いではないか…」
秀忠はそう答えた。愛娘の千姫と夫婦関係を続ける意思がないと、改めてみつおの本心を知ると、秀忠にはもう、それだけで充分であり、そうである以上、みつおがどう振舞おうとも…、まして周囲に低姿勢で振舞いたいのであれば、みつおの勝手にさせてやれとの思いから、秀忠は些(いささ)か投げやりとも思える口調で答えたのであった。
「うむ…、秀忠が申す通りぞ…、みつおが好きにさせてやれば良かろう…」
意外にも家康も秀忠の意見に賛同したので、忠隣(ただちか)としてはこれ以上、みつおの低姿勢ぶりについて異議申し立てをするわけにもゆかず、「ははっ」と平伏(へいふく)するとその場より退(さ)がった。
忠隣(ただちか)が退(さ)がった後、家康は謀臣(ぼうしん)・正信を呼び寄せ、正信に対してみつおの低姿勢ぶりを語って聞かせた。
「みつおがそのように…」
さしもの正信もみつおの低姿勢ぶりには驚いた様子であった。
「左様…、いや、みつおは案外、使えるやも知れぬな…」
家康はそう呟(つぶや)いた。
「徳川家の安泰(あんたい)に資する、と?」
正信は即座に家康の意図を汲み取り、そう尋ねた。それに対して家康は頷いてみせた。
「あの、それは一体…」
唯一、秀忠には分からなかったらしく、家康と正信、双方に対して意図を尋ねた。
「分からぬか…、みつお、いや、秀頼がそこまで…、徳川家の直参(じきさん)、果てはその陪臣(ばいしん)、いや、女中などの下郎に至るまで低姿勢とあらば、他の諸大名にしてもいよいよもって我が徳川家に忠誠を誓わねばと…、秀頼(ひでより)君(ぎみ)さえそこまで徳川家に服従している上は当家もそれ以上に徳川家に服従せねばと、そう思わせるに充分であろうが…」
家康が嚙んで含めるように説明したことで、秀忠もそれで漸(ようや)くに意図を飲み込めた。
「なるほど…、いや、それでは…、みつおをこれからも秀頼として遇するおつもりで?」
秀忠は恐る恐る尋ねた。それも無理もない。何しろそれは、
「みつおに、これからも愛娘の千姫と夫婦関係を続けさせるおつもりで?」
そう尋ねていたからだ。家康もそうと察して、「その通りぞ」と答えた上で、
「そうである以上、千姫とは夫婦(めおと)を続けさせる」
ご丁寧にもそう付け加え、秀忠を呆然(ぼうぜん)とさせた。
家康はそんな愚息(ぐそく)・秀忠を尻目(しりめ)にさらに続けた。
「しかも、みつおめ、いや、秀頼は大名にはなりたくない、遊んで暮らしたいとも申しておったわ…、その通りにさせてやればこれまた好都合というものよ…、いや、無論、十万石程度の捨扶持(すてぶち)は与えてやるつもりだがのう…」
家康が謎かけするようにそう言うと、正信も流石(さすが)の眼力でもってこれに応じた
「いかさま…、秀頼(ひでより)君(ぎみ)さえ十万石の捨扶持(すてぶち)に甘んじられた…、となれば他の諸大名にしても減封(げんぽう)されても文句は言えまい、いや、御家を存続できるだけでもありがたいと思わねばと、そう思わせるに充分というわけでござりまするな?」
「その通りぞ…」
家康は口元を緩(ゆる)め、正信もそれに応じる中、唯一(ゆいいつ)、秀忠は未だに茫然(ぼうぜん)自失(じしつ)の体(てい)であった。
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