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みつお、正則に豊臣の生き残り策について打ち明ける。

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「それでここからが本題。正則、意地悪な質問をしても良いか?」

「嫌だと申しても、するのであろう?」

「ああ…」

 みつおは口元を緩めた。

「してその意地悪な質問とは何ぞや?」

「正則は豊臣家がどうなっても良い、って思ってるか?」

「なに?」

「無礼なことを聞いてるのは分かってる。だがどうしても正則の本心を確かめておきたいんだ。本題に入る前に…」

「どうなってもいいと、思ってるわけがなかろう」

 正則は声を押し殺して答えた。怒っているのは明らかであった。

「悪い。不快にさせたら謝る。でもどうしても正則の本心を確かめておきたかったんだ。だから…」

「分かっておる。言い訳は良いから先へ進めろ」

 正則は促した。

「そうだな。どうしたら豊臣は滅ぼされずに済むか、って話だ」

「策があるのか?」

「ある…、と思う」

「あると思う…、か。これまた随分と自信なさげだな」

 正則は失笑した。

「悪い。何しろ、浅知恵だからな…、笑われるかもしれないが…」

「いや、笑わん」

 正則は真顔で答えた。みつおはそんな正則に気圧された。

「聞かせろ。どんな秘策だ?」

「秀頼になりきった俺が家康…、ああ、内府殿だった…、その内府殿と対面した折、内府殿に服従を申し出る」

「内府殿に臣従すると申すか?」

「そうだ。正則にとっては…、豊臣家大事の正則にとっては耳に痛い話かもしれないが、天下の趨勢ってやつは明らかに徳川家にある」

「耳に痛いが事実だな」

 正則は顔を歪めた。

「そこで俺が…、秀頼役のこの俺が、内府殿に臣従を申し出れば、豊臣恩顧の諸大名も何の気兼ねもなく、徳川に臣従出来る、ってもんだ。豊臣恩顧の諸大名にしたって正則同様、いずれ豊臣と徳川との間で戦が起こる、ってのが共通認識の筈だ。そうなった時、果たしてどちらにつくべきか、悩むだろうぜ…」

「ああ。大いに悩むな。俺も含めて…」

「いや、正則は別だろ…」

「気休めは無用だ。俺とて、一国一城の主。なれば多くの家臣、領民を抱えておる。彼らを路頭に迷わせるわけにはゆかん」

「判断を…、どちらにつくべきかその判断を誤るわけにはいかない、と?」

「そうだ。いや、今だから申すが、実は前々から秀頼ぎみを大坂城よりお出し申し上げ…、と申すよりは淀殿の元より離れさせ、内府殿の手元へとお移し申し上げ、そして内府殿に育ててもらおうと、そう考えていたほどなのだ…」

 正則のこの思わぬ告白に、みつおは心底、驚かされた。

「こいつは…、驚いたな…、それは正則の一存で?」

「いや、虎…、清正や幸長とも談合の上、前々から思っていたことなのだが、しかし…」

「淀殿がネック…、いや、淀殿が納得する筈もない、か…」

「その通りだ。だが秀頼ぎみは薨去され、その代わりと申しては何だが、秀頼ぎみに扮せしそなたが内府殿に臣従を誓われるのなら、それに越したことはない…」

 秀頼の死が契機になったということか…、だとしたら正則はもしかしたら秀頼の死を悲しむと同時にホッとしているのかも知れない…、みつおは心の中でつぶやいた。
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