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みつお、皆の前に引き出される。

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 一体、自分は何をやってるんだろうか…、みつおはそう思わずにはいられなかった。昼日中に校舎の屋上からダイビングした筈が、いつの間にか夜の大阪城の濠に転移していた…、それも大阪城ではなくまだ大坂城と称されていた時代の濠に転移してしまったのだ。みつおはまるで小説の主人公にでもなった気分であった。

「もしかして、これは夢か…」

 まさしは自分の頬を抓ってみようかとも思ったが、両脇をしっかりと役人に…、それも明らかに令和の御代における役人ではなく、戦国時代の役人スタイルであった…、その役人に両脇をしっかりと固められている今、みつおは両手を動かすことさえままならなかった。唯一、足のみ動かすことが出来るという有様であった。どうやらどこぞへ連行されるらしい。まさか十三階段というわけでもないだろうが、それでもみつおは不安を拭いきれなかった。

「飛び降り自殺を決意した自分が不安に苛まれるとは…」

 みつおは連行される最中、そう自分を失笑してみせた。そうでもしないことには不安で押し潰されそうであったからだ。

 ポタポタと水を滴らせながら…、これが美男子ならば絵になるのだろうが、生憎、みつおは自他共に認めるほどのブ男であったので、とても絵にならなかった…、そのみつおが連行されたのは和室、それも寝室らしい部屋であった。そこでは布団が敷かれてあり、誰かが寝ているらしい。そしてその布団の両脇には女が二人と、男が一人おり、部屋の端にも男が一人いた。みつおは部屋に連れ込まれるなり、思い切り膝裏を蹴り上げられて座らされた。やはり痛いという感覚があり、どうやら自分は死んではいないようだと、みつおは改めて思い知らされた。

 無理やり座らされたみつおは部屋にいた皆の視線を浴びることになった。何とも居心地の悪い気分であった。それは彼らの格好にも原因があった。彼らの格好もこれまた令和の御代の同時代人とは明らかに異なり、みつおの目から見れば古代人を連想させるものであった。いや、着物を着ているあたり、古代人ではないだろう。戦国時代と思わせた。

「やはり俺は…、戦国時代にタイムスリップしちまったのか…」

 そうだとしたら出来れば江戸時代にタイムスリップしたかったな…、みつおは思わずにはいられなかった。みつおはとりわけ、「大岡越前」や「遠山の金さん」の時代が好きであったからだ。特にその間が特に…。

 だが戦国時代となると、せいぜい、大河ドラマを見る程度であった。いや、その大河ドラマにしてもここ二、三年の間の戦国時代を舞台にした大河ドラマの出来ばえたるや、惨状の一言に尽き、あるで学芸会を見せられているような気分であった。いや、学芸会を見ているのだと思えば腹も立たなかったのだろうと、みつおは今になってそんな反省をした。

 閑話休題、みつおは彼ら戦国時代の人間に見つめられて、何とも居心地の悪い気分であった。
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