155 / 162
重村の暴走 ~ライバル・島津重豪より先んじて家格の上昇を狙う伊達重村は意知に味方する~ 治済実兄の重富への挑発 2
しおりを挟む
一方、意知はここまで重村を強気にさせているのはやはり将軍・家治の「御墨付」があってのことではないかと、そう睨んだ。
即ち、昨晩、家治が大奥にて千穂や玉澤を始めとする奥女中を相手に語った意知を若年寄へと進ませる件につき、家治が自ら、千穂の実弟である津田信之に対して、或いは玉澤の実子の駒井半蔵や従弟の本田頼母に対して、伊達重村へとそのことを伝えるようにと、命じたのではないか、その際、家治はその意知を若年寄へと進ませる件をこの表向にて吹聴し、広めるようにとも、そのように併せて命じたのではないかと、意知はそう睨んだのであった。そうでなければここまで重村を強気にさせていることの説明がつかない。
或いは家治は更に、重村が望んで已まない、
「家格の向上…」
その「手形」をも切ったのやも知れず、それで重村も肝を肚を決めたのだろうとも、意知は睨んだ。
さて、息・治好によって半ば、殿中席である松之大廊下の下之部屋へと押込まれた格好の重富はこの段になって漸くに怒りの感情が込上げてきた。それは無論、暴言を吐いた重村に対する怒りであったが、しかしそれ以上に、そのような重村に何も言い返すことが出来なかった己に対する怒りも含まれており、何より勝っていた。
願わくば今からでも白書院の西の入側へと引き返し、そして帝鑑之間の入側にて控えている重村を刺し殺してやりたいところであった。
だがそんなことをすれば福井30万石は改易、その身は切腹となろう。重富としても浅野内匠頭の二の舞を演ずるつもりはなかったので、それは堪えた。
それなら暴れるぐらいは許される筈であり、これで今この松之大廊下の下之部屋に加賀前田家の治脩と矢田松平家の榮松の姿がなければ発狂、暴れ回っていたに違いない。
だが下之部屋には生憎と前田治脩と松平榮松の二人の姿があったために、重富は暴れ回ることも出来なかった。
それゆえ重富は怒りを腹に溜め込むより外になく、そのような重富に対して治脩と榮松の二人が好奇の入り混じった視線を注ぐものだから、重富としては愈愈もって気が狂いそうであった。
否、重富は最早、将軍・家治への拝謁を済ませたのだから、下城は勝手次第、つまりは自由であった。重富は怒りと屈辱の余りにすっかりその事を失念していた。
それでも重富は下城は自由であることを思い出すと息・治好を連れて下之部屋をあとにした。
即ち、昨晩、家治が大奥にて千穂や玉澤を始めとする奥女中を相手に語った意知を若年寄へと進ませる件につき、家治が自ら、千穂の実弟である津田信之に対して、或いは玉澤の実子の駒井半蔵や従弟の本田頼母に対して、伊達重村へとそのことを伝えるようにと、命じたのではないか、その際、家治はその意知を若年寄へと進ませる件をこの表向にて吹聴し、広めるようにとも、そのように併せて命じたのではないかと、意知はそう睨んだのであった。そうでなければここまで重村を強気にさせていることの説明がつかない。
或いは家治は更に、重村が望んで已まない、
「家格の向上…」
その「手形」をも切ったのやも知れず、それで重村も肝を肚を決めたのだろうとも、意知は睨んだ。
さて、息・治好によって半ば、殿中席である松之大廊下の下之部屋へと押込まれた格好の重富はこの段になって漸くに怒りの感情が込上げてきた。それは無論、暴言を吐いた重村に対する怒りであったが、しかしそれ以上に、そのような重村に何も言い返すことが出来なかった己に対する怒りも含まれており、何より勝っていた。
願わくば今からでも白書院の西の入側へと引き返し、そして帝鑑之間の入側にて控えている重村を刺し殺してやりたいところであった。
だがそんなことをすれば福井30万石は改易、その身は切腹となろう。重富としても浅野内匠頭の二の舞を演ずるつもりはなかったので、それは堪えた。
それなら暴れるぐらいは許される筈であり、これで今この松之大廊下の下之部屋に加賀前田家の治脩と矢田松平家の榮松の姿がなければ発狂、暴れ回っていたに違いない。
だが下之部屋には生憎と前田治脩と松平榮松の二人の姿があったために、重富は暴れ回ることも出来なかった。
それゆえ重富は怒りを腹に溜め込むより外になく、そのような重富に対して治脩と榮松の二人が好奇の入り混じった視線を注ぐものだから、重富としては愈愈もって気が狂いそうであった。
否、重富は最早、将軍・家治への拝謁を済ませたのだから、下城は勝手次第、つまりは自由であった。重富は怒りと屈辱の余りにすっかりその事を失念していた。
それでも重富は下城は自由であることを思い出すと息・治好を連れて下之部屋をあとにした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる