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第六話 白と黒の衝突
白と黒の衝突 03
しおりを挟む「そうですか、ですが…」
夜空の光に映し出されて白銀色に輝く剣に彫られた煌びやかな薔薇の模様に目を奪われていたエルゴは焦りも後悔も感じることなく疲労や苦痛から解放されたように、ただその時を待ち続ける
今このときになっても恐怖も後悔の色も示さないエルゴに対してマーリアはついに業をにやし、怒りの表情を露わにしていた
「決して私は『天使』などではありません。あなた方のような人に『悪魔』に変えられた人間なんですよ!」
その言葉を言い終わると同時にマーリアは彼を殺害すべく、感情任せにかざした剣をエルゴ目掛けて振り下ろす
そうして白に包まれた彼女の服は返り血を浴び、エルゴは両断されて命を断たれる
ーーー筈だったが
彼に届いたのは剣の刃ではなく、スーツと髪を揺らす風と、金属がぶつかり合ったような強い衝撃音のみで、目前に迫っていた死の運命が彼の命を貫くことはなく、彼の目の前にいたのは白銀色の刃を黒色の大剣・バイオレットラブで受け止めていた『九人姉妹』の五女、アーシェリ・ジークフリートの背中だった
「何やってんだよ、お前は!こんなとこで人を襲って!!」
「…!」
壁伝いによろめき立つエルゴの目前でアーシェリは力任せにマーリアを弾き飛ばす
そして、弾き飛ばした際の微かな風を感じながら、すぐさま剣を構える
対するマーリアは無駄なく体を捻って受け身を取ると、先程までの激情を潜めて目の前に立つアーシェリを見据える
「…」
「お前は……!」
相対して相手の出方を伺うこと数秒、アーシェリは相手の姿を見て驚きの声を上げた
「こんなにも早く再会するとは思いませんでしたよ
アーシェリ・ジークフリート」
二つ結びにされた銀髪のツインテール、右眼に施された眼帯に純白のワンピース…
翼こそ生えているが、任務中に訪ねてきたあの少女だった
「確かあの時の…いや、それより何してんだと聞いてんだ!?」
アーシェリの睨むような鋭い眼差しに一切臆することなくマーリアはアーシェリの背後に立つエルゴを剣先で示す
激情こそ鎮静したものの、その標的に強い殺意を込めたままマーリアは微笑しながら答える
「理由ならその人聞いてください、掘れば掘るほどきっと面白い話を掘り下げてくれるでしょうから」
その言葉にエルゴは歯痒さを感じながらも、負傷した体にムチを打つように奮い立たせ、ありったけの力で走り始めた
「私に殺されなければの話ですけど」
そう言ってマーリア握る剣に力を込めながらは走り去るエルゴの背後へと急接近していく
だが、アーシェリはマーリアの速さに追いすがり、再びお互いの剣がぶつかり合う
「そんなこと許す訳ねーだろ!」
「く……」
マーリア二度目の剣同士の衝突も押し負けてしまい、崩したバランスを急遽整えてアーシェリに向き直る
対するアーシェリは追撃することなく走り去るエルゴをマーリアから守るように彼女との一定の距離をとっていた
最早この状況下、大通りまでの道のりでアーシェリをいなしてエルゴを斬ることが出来そうにないと判断したマーリアは一瞬だけアーシェリに対して怒りの表情を見せるが、すぐに嘲笑いように顔を俯かせる
「まぁ、いいでしょう…私に襲われた時点で彼は終わり
ここで殺されなくとも、社会的な意味で世間に殺されることは間違い無いでしょう」
「何を言っている?」
殺人者として社会的に排斥されるのはお前の方だろうと内心愚痴をこぼしながらアーシェリはマーリアの意図を理解できかねていた
アーシェリからすればなんの武装もなく、状況を見れば一方的にエルゴは襲われている被害者にしか目に写っていなかった
そんなアーシェリの質問などお構いなしにマーリアはアーシェリに目を向けることなく空を仰ぎながら語り続ける
「できることならこの私の手にかけてあげたかったのですが…ふふ、必ず私の手で終わらせてあげましょう、そして」
言葉を口に出す間でも、落ち込んだ表情を見せては怒りの顔を覗かせたりと言動そのものも相まって目紛しく変化する不安定な情緒を見せ始めたマーリアにアーシェリは胸中困惑しながら相手の出方を静かに伺う
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