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第六話 白と黒の衝突
白と黒の衝突 02
しおりを挟む相手の問いを聞いたエルゴは疲れ切った身体に力を込めて頭の中で逃走に関する思考パターンを模索する
なんとか今すぐ軍部に出撃要請の連絡を入れたいところだが、この場を切り抜けて身を隠す必要がある上、そんな簡単に隙を与えてくれる相手ではないだろう
「言っている意味が全くわからんな…
何が言いたいんだ?」
「悪魔と人を無理矢理合成させる計画…争いが目立たない平和なこの時代に、人道に反する実験を未だに続けているあなた方が許せないんですよ」
どうしようもない現状では相手との会話を続けながら半端感情的になりつつあるマーリアの隙を伺い、冷静に言葉を選ぶ
「それで、許せないから計画に関わっている私や部長を手にかけると?」
「ええ…」
「だが、お前とあの計画になんの関わりがある?お前は何者なんだ?」
エルゴに正体を問われたマーリアは言葉を溜め込む様にゆっくりと口を開く
「私は…」
言葉の出だしにマーリアが一瞬俯いて視線を逸らした瞬間、エルゴは後方に跳び引いて一気に走り出した
「あなた方のような人間が作り出した『悪魔』ですよ」
「!」
しかし、彼の動きを既に見越していたようで彼の逃走ルートを先回りする為にマーリアすぐさま地を蹴る
そして、呆気なく追い越したエルゴの前に立ち塞がり、剣の腹で彼を薙ぎ払う
後ろへ大きく叩き飛ばされたものの、エルゴは襲いかかる攻撃に対しての反応速度は早く、即座に両腕で攻撃を防いでおり、追撃に備える為に地に伏せることなく空中でバランスを整えて受け身を取っていた
驚愕するほどではないが、流れるようなスムーズな動きは訓練や戦闘で培った、熟練の兵士を匂わせるものであり
決して素人のものではなかった
せいぜい一般人程度の身体能力保持者と予測していたが、その予想外の動作を見せたエルゴを前にマーリアは警戒心を僅かに引き上げる
「ただの会社員かと思っていましたが、どうやらそうではないようですね…いいでしょう」
次からは本腰を入れて仕留める為、先まで見せいてた余裕を消して、今度は全力で斬りかからんと右足に力を込めた全体的に前のめりの状態で攻撃の構えを示す
その様子から隙を見て逃げることは叶わないと悟ったエルゴは残った力を総動員して、後方へと大きく飛んで一気に走る
疲労が溜まり、危機的状況の中でも常人離れした脚力を頼りに、マーリアとの距離を一気に離す
今この場を切り抜けて、人のいる大通りにさえ出ればまだやりようはある
わざわざ人気のない場所に呼び出して襲ってくるのであれば、逆に大勢の目の前で襲うことを避けているということ
うまくいけば襲撃の手を諦めてくれるかもしれないという生存への可能性を胸に更に足の動きを早めていく
思いの外動く身体を感じてこのままなら逃げ切れると、特に確証もなくそう思ったとき、彼の身体は逃走先とは別の右前方へと身体が傾き、そのまま廃工場の外壁に突っ込んでいた
「ぐっ…っ!?」
壁にいくつもヒビを作る程の大きな衝撃音と共に内臓が潰されたのかのような鈍い痛みを認識したエルゴはいつの間にか前方に立っていたマーリアを見て、自分が蹴り飛ばされていたことに気づく
なんとかして逃げ続けようとするも身を捩るだけに止まり、身体中にガタが来て立ち上がることすらままならない状態のエルゴにマーリアはゆっくりと歩み寄る
「まさか、こんな『天使』に殺されるなんてな、私も部長も天罰が下ったのかねぇ…」
やがて諦めとも取れる自傷じみた台詞を吐いて、彼はその場に腰を落としてマーリアを仰ぎ見る
「思ったより潔いのですね。あなたの上司は最期まで命乞いを辞めなかったのですが」
「…これでも最前線で戦っていた元兵士だからな。平和じゃなかった十年前は何度も死戦を潜り抜けてきたが自分の能力を開発出来ず、転職したらこのザマだ」
話を続けている間に彼の目前に迫っていたマーリアは胸中に大きな憤りを抱えながら、一切の感情を消し去った凍り付いた表情でゆっくりと左手の剣を振りかざす
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