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第五話 復讐者の来訪
復讐者の来訪 06
しおりを挟む「私、以前この辺りを歩いていたとき、怪物に襲われたところを助けてもらったのですが…」
「襲われたって『ピーヌス』か!?」
「以前っていつ?」
「ピ、ピーヌス?」
「ああ、どんなやつだったんだ!?」
「いつ襲われたの?」
「角はあったのか!?紫髪か?」
「他に外見は?珍しい悪魔だった?」
銀髪の少女は捲し立てられるようにアーシェリとフィオリンに勢い任せに質問されると、目を丸くして言葉を遮られる
二人を落ち着かせようと右手で制して、一旦息を整えて二人に向き直る
その仕草に怒涛のように質問攻めしていた二人も、律することができなかった己を恥じ、相手の反応を伺って落ち着いて待つことにした
「そうですね、3日前に爬虫類のような黒色っぽい悪魔に襲われたのですが…」
「3日前なら本格的に『ピーヌス』が大勢現れたときだな」
「あの紫色の髪の毛で二本も角を持った悪魔も現れて戦ったんだよね?」
フィオリンがふと口にしたその言葉に少女が一瞬怪訝そうな顔を表したが、すぐに表情を戻してベンチに座るフィオリンの高さに合わせて前屈みの姿勢をとる
「戦ったっていうのは…?」
「私たちじゃないけど、私のお姉ちゃん達がピーヌスを率いていたその悪魔と戦ったんだって」
「え…?その悪魔がピーヌスっていうのと戦ったのではなく、ですか?」
その少女ーーーもとい今は翼を持たない『天使』は3日前、現場から遠く離れた場所にて仲間である長髪の男の力で映し出された映像には、紫髪の悪魔がピーヌスらしき悪魔を退治しているところが流れていた
それ故、彼女にはその紫髪の悪魔がこの付近一帯を守っているものばかりと思っていたのだが
「いや、それがよくわかんねーけど実際はそーゆー話も挙がってるみてーだからなー
こっちとしてもそいつに関しては訳がわかんねーんだよ」
「…そう、ですか…」
フィオリンの隣で胡座をかいて答えるアーシェリの言葉に少し項垂れながら少女は沈黙する
「それで、伺いたいってのは何なんだ?」
「直接助けられた訳じゃないですが、結果的に私は助かったので、出来ればお礼の為にその悪魔の所在をお聞きしたかったのですが…」
少女は嘘を口にして胸元に両手を添えていかにも残念そうに振る舞いながらアーシェリ達の反応を伺う
彼女にとってその悪魔の所在の在り処こそが最重要であり、それにあの悪魔が『ジークフリート』である以上その祖先と思われる『九人姉妹』と何らかの繋がりを期待して二人と接触を図ったのだが
話を聞くかぎりでは予想とは異なり敵対関係になっているようで、アテが外れたことに内心溜息をつきたい気分に覆われた
「あたし達にとっては捕まえなくちゃいけねー奴なんだけど、どこにいるかはわかんねーし、何してーのかもわかんねーな
危なそーな奴だし、会いに行くのはおすすめしねーぜ」
「そうですよね…話を聞くかぎりだと危険人物みたいですし……いえ、ありがとうございました」
「え?用ってそれだけ?」
期待していた情報が無い以上、このまま接触を続けても無意味に感じた少女は早々に話題を切り上げてこの場を離れることにした
「ええ、では失礼しました…」
一時落ち込んだような表情を見せながらも、少女は二人に頭を下げると、背を向けて離れていった
その少女とすれ違いざまに今度は両手に飲料水が入ったペットボトルを持ったキルバレンが二人のもとへ足を運んでくる
「二人ともお疲れ様、これはご褒美ですよ」
「お、サンキュー」
「ありがとう、キルバレンちゃん」
キルバレンは両手に持つ飲料水を二人に手渡して、ベンチに座る二人の間に腰を下ろしながら語りかける
「ところで、さっきの方は知り合いですか?」
「ううん、知らないよ」
「なんかゼオン達が戦ったあの悪魔に助けられたみてーで、お礼がしたいつってたぜ」
「お礼ですか…」
「そいつは危険人物だからやめたほうが良いとは言っといたし、諦めたっぽいからもう大丈夫だと思うけどな」
「うん、そんな感じがしたよね」
アーシェリとフィオリンの言葉を聞いたキルバレンは少し離れた先を悠然と歩く少女の後ろ姿を見ながら目を細める
まるで彼女の存在を警戒するかのようなその目には、見えない筈の少女の翼が映っていた
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