22 / 56
第3話 百年前の残滓
百年前の残滓 02
しおりを挟むエーゼルーシュとの一悶着を終えたクラスタスは赤く強い眼光を放ちながら、赤黒く蝋燭の橙色に包まれた廊下を静かに歩き続ける
表情こそは眉間がシワ立っていた先程より落ち着いているように見えるが、一歩一歩廊下を踏みしめるごとにその両眼から放たれた赤い残光が彼の内なる感情を表すかの如く、少しずつ強く光っていた
そうして階段の踊り場に出ると、吹き抜け部分の上の階から炎のような赤い霊気を纏い、骨のような巨漢で細身の体を持つ悪魔が下の階にいるクラスタスを覗き込む形で顔を出す
「クラスタスさん、またエーゼルーシュ様に抗議してきたんですか?」
「ああ…」
側頭部の左右に大角を持つ大柄な悪魔ゲーデルゲ・ガルナはその姿を確認すると胸部に肋骨めいた形の外角を持ち、その中心に赤く丸い核を胸に抱えている姿をしており、階段をゆっくり降り始める
下の階にいるクラスタスはゲーデルゲの姿を確認すると強く光っていた眼光を鎮めて、上の階へと足を運んでいく
「結局無駄足だったがな、もうしつこく抗議することすら馬鹿馬鹿しくなってきたとこだ」
「いつも言っている『昔の魔界を取り戻す為』ってやつですか…昔ってそんなに凄かったんですかね?私は昔を知らないのであんま良くわからんのですが」
クラスタスは真剣な顔つきのまま、吹き抜けの二階でゲーデルゲと合流し、再び長い廊下を歩きながらゲーデルゲからあっけらかんとした口調で質問されたクラスタスは更に怒りを宿した
詳しく言えば、その怒りの源は昔の力ある魔界の素晴らしさが浸透されていない今の現状に対してなのだが
「かつては悪魔個々の能力が今より遥かに高かった それこそ、今の俺の力でも幹部クラスに全く歯が立たないくらいにな
その力を持って人間共を震えあがらせて『瑠璃世界』の二割を領地にしていたくらいだ」
「魔界最強のクラスタスさんが全く歯が立たないって…」
「あの時はそれほどまで凄かったんだよ
あの『バケモノども』が現れるまではな」
そう語るクラスタスの顔はかつての過去を忌み嫌うように歯軋りを響かせながら廊下の先を睨んでいた
あの時こそが『魔界』を破滅に導いた瞬間だと、100年以上生きているクラスタスは当時の地獄を連想する
「『バケモノども』…ザヴァルグとその親衛隊の『鎧悪魔』ですよね」
「ああ、そうだ…」
クラスタスは目的地である自室の前に立ちながらドアノブに手に取るも扉を開く訳でも無く、昔を思い出しながらドアノブに感情を込めながら力強く握ったままその場に立ち尽くす
彼の後ろ姿を目の当たりにするゲーデルゲはそのままじっと黙り込む
なにせ100年前の戦争は魔界にとって余りに壮絶な事件でゲーデルゲも何度も小耳に挟んだことはあるが、内容を初めて聞いた時の驚愕は忘れようもないものだった
その当事者の一人であるクラスタスにとっては尚更だった筈だ
しばしの沈黙の後、一息つきながらドアノブを回して部屋の中の椅子に腰をかけたクラスタスの後に続いてゲーデルゲも入室する
「100年前のあの時、ザヴァルグの攻撃で悪魔の大半を失い、その『親衛隊』の連中に魔界の実権を握られた
残された悪魔は奴隷のよう働かされ、『親衛隊』の連中は自ら『琥珀世界』や『瑠璃世界』相手に戦争をけしかけたんだ」
話の中に府に落ちない点があったのか、壁に腰をかけたゲーデルゲは唸るように首を傾げる
「話には聞いたことはありますけど、その残された連中は戦争に動員されなかったんですか?」
「少しはな、特に裏切りの兆候がある悪魔を現場に動員し、わざと裏切らせて放置していたんだよ
そのくせ、やることは敵対国を煽るような戦争ばかりを起こしてわざと敵を増やしていた」
おかしな話だろうーー?という表情を含んだ顔をゲーデルゲに向けて苦笑する
そのゲーデルゲは最早100年程前に過ぎた事情でありながら今抱えている悩みのように語る彼との温度差にこそばゆさを感じていた
まるで昔を知る力ある悪魔と、昔を知らない平和な時代を生きる悪魔の差を表すように
「なんかやる事が無茶苦茶ですね
魔界を滅ぼせるような連中にしては行動に一貫性がないというか…」
「そうだな、普通の観点から見れば奴らの行動は異常性に満ちていたものだった…あの時期、常に奴らの近くにいたオレでさえ、奴らの目的が分からなかったくらいだ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
LOVE NEVER FAILS
AW
ライト文芸
少年と少女との出逢い。それは、定められし運命の序曲であった。時間と空間の奔流の中で彼らが見るものは――。これは、時を越え、世界を越えた壮大な愛の物語。
※ 15万文字前後での完結を目指し、しばらく毎日更新できるよう努力します。
※ 凡人の、凡人による、凡人のための物語です。
gimmick-天遣騎士団-
秋谷イル
ファンタジー
千年前、異界から来た神々と創世の神々とがぶつかり合い、三つに分断された世界。ガナン大陸では最北の国カーネライズの皇帝ジニヤが狂気に走り、邪神の眷属「魔獣」を復活させ自国の民以外を根絶やしにしようとしていた。
だが大陸の半分がその狂気に飲み込まれてしまった時、伝説の舞台となった聖地オルトランドの丘でそれを再現するかのように創世の三柱の使徒「天遣騎士団」が現れ、窮地に陥っていた人々を救う。
その後、天遣騎士団は魔獣の軍勢を撃破しながら進軍し、ついには皇帝ジニヤを打倒してカーネライズの暴走に終止符を打った。
一年後、天遣騎士団の半数はまだカーネライズに留まっていた。大陸全土の恨みを買った帝国民を「収容所」と称した旧帝都に匿い、守るためである。しかし、同時にそれは帝国の陥落直前に判明したあるものの存在を探すための任務でもあった。
そんなある日、団長ブレイブと共にこの地に留まっていた副長アイズ、通称「黒い天士」は魔獣の生き残りに襲われていた少女を助ける。両親を喪い、成り行きで天遣騎士団が面倒を見ることになった彼女の世話を「唯一の女だから」という理由で任せられるアイズ。
無垢な少女との交流で彼女の中に初めての感情が芽生え始めたことにより、歴史はまた大きく動き始める。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
死神、はじめました!
Tale
ライト文芸
ここは人間と死神、そして罪人<ギルト>が存在する世界。
ある日、人間である主人公、藪坂透<やぶさか とおる>は罪人に行き遭い、襲われる。
半身を切断され万事休すかと思われたが、そこで現れたのは。
「大丈夫?寒くない?」
赤くて紅い瞳をした死神、秋弩川紅葉<ときのがわ くれは>であった。
そして紅葉に失った半身を再生して貰うが、その代償として透は人間でありながら死神として罪人を裁く、死神見習いという存在になる。
透は、果たして無事に死神見習いとして罪人を裁くことが出来るのか。
これは、本物の死神になるまでの物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる