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第1話 始まりの事件
始まりの事件 04
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「おっと、キルバレンの車が来たみたいだぞ」
そう言って、急に片手を頭上に上げて遠くへと視線を移動させたゼオンは表情を明るくするが、一連の動作にわざとらしさを感じたアーシェリとシェリエールは懐疑的な顔をしながら後ろへと振り返る
「本当だ
やけにはえーな、もう少し時間がかかるもんだと思っていたけど」
二人は視線を道路側に向けると、ゼオンの恥ずかしい話題から逸らす丁度良いタイミングで白色の大型ファミリーカーが一台、こちらに向かって走ってくる姿が見えた
やがて車が三人の前で停車すると助手席側の窓が開き、後ろの運転席から銀髪を束ねたポニーテールの女性が顔を見せる
「三人ともお待たせしました。元々車で走ってましたが、姉さんから連絡があったのでそのままこっちに来ました」
丁寧語を喋る淡い色のシャツとロングスカートを着たその女性、『九人姉妹』の次女キルバレン・ジークフリートは、買い物で買ってきたと思われる品の入った袋を助手席から後部座席に移動させてから、ゼオン達に車に乗るように手招きする
「わざわざありがとなキルバレン!さっさと帰ってレポートを仕上げなきゃな!」
「そのまえにシートベルトをむすぶなよ」
意気揚々と車に乗り込もうとするゼオンはシェリエールに言葉の杭を打たれて体の動きを止めてしまう
その間にアーシェリとシェリエールがゼオンのすぐ横を通り過ぎて、それぞれ車の後部座席に腰を落ち着ける
「だから二度目はないっての…」
口を尖らせるように静かに反論しながら、助手席のドアに手をかけようとすると、車の遥か上空に浮かぶ一筋の光が目に移り、手を止めて凝視すると、一瞬にしてその存在に目を奪われてしまった
星々が煌く青い夜空の中、はっきりとは見えなかったが、月明かりの青白い逆光に照らされた白く長い髪で白いワンピース着た、そして何より白い翼を生やした少女が飛んでいたのだったーー
ーーーその姿はまるでーーー
「ーーーー天使ー?」
時間にしてほんの一瞬ではあったが、世離れしたその神秘的な姿にゼオンは忘れようのない強い衝撃をうける
ほんの刹那の時間ではあったが、まるで夢の中にいるのか、または幻を見ているのかーー
浮遊感に襲われたそんな錯覚じみた感覚を感じながら、ゼオンの両眼は只々その存在に釘付けになっていた
これは、これから起こる『九人姉妹』と『天使』の間で起こる一大事件の最初の邂逅だったーー
「ん?どうしたんだ空なんか見上げて?」
呆けた顔で空を見上げているのを不思議に思ったのか、車内からアーシェリがそう言って間接的にゼオンに車内に乗るように促す
「いや…」
そこに天使がーーーー
と口に出かかったが一度視線を戻してもう一度空を見上げると、夜空に煌く星の数々と風に揺らぐ木のみが映っており、そこには天使の姿はもう何処にもなかった
「…今日は空が綺麗だなーと思ってな」
空に天使がなどと言ったところで信じてもらえる訳もなく、ゼオンは少し大袈裟な身振りをしながら空を見上げては考えなしに言葉を返した
「シートベルトから無理矢理話題をかえたな」
ハハハと微笑を零しながら車の助手席に腰をかけて先程の光景を思い出す
神秘的な光景だった
背丈のほどのある白い翼を羽ばたかせて飛んでいるその姿は星空の逆光を浴びて宝石のように輝いていた
刹那のようにほんの一瞬ではあったが、あの時は時間や周りにいる妹達のことも忘れて見入っていたほどだった
今にして思えば夢や幻でも見たんじゃないかという感覚になってしまっているが先程の光景が脳裏から離れられず、シートベルトを手に運転席のキルバレンに尋ねる
「なぁキルバレン、『精霊族』ってホントに実在するのかなぁ?」
「あの白髪で白い翼を持ってるって種族ですよね?」
「そうそう」
「100年前の『全界大戦』で絶滅したってことらしいですが、今では存在自体が御伽話になってますからね…」
キルバレンは車のエンジンを掛けると、座席にもたれかかった状態で遠くに薄く映る都市を目指して車を走らせる
「でも、もしかしたら絶滅を逃れた人もいたのかもしれませんね。
もし、そうだとしても個体数は少なそうですし純血の『精霊族』は殆どいないと思います」
「ふーん…そっか」
じゃあさっきの天使は『精霊族』の生き残りなのかもなあーー
感慨深く感じながらも話題を止めたゼオンは、あの白い姿を独り心の中に刻み込んだ
そう言って、急に片手を頭上に上げて遠くへと視線を移動させたゼオンは表情を明るくするが、一連の動作にわざとらしさを感じたアーシェリとシェリエールは懐疑的な顔をしながら後ろへと振り返る
「本当だ
やけにはえーな、もう少し時間がかかるもんだと思っていたけど」
二人は視線を道路側に向けると、ゼオンの恥ずかしい話題から逸らす丁度良いタイミングで白色の大型ファミリーカーが一台、こちらに向かって走ってくる姿が見えた
やがて車が三人の前で停車すると助手席側の窓が開き、後ろの運転席から銀髪を束ねたポニーテールの女性が顔を見せる
「三人ともお待たせしました。元々車で走ってましたが、姉さんから連絡があったのでそのままこっちに来ました」
丁寧語を喋る淡い色のシャツとロングスカートを着たその女性、『九人姉妹』の次女キルバレン・ジークフリートは、買い物で買ってきたと思われる品の入った袋を助手席から後部座席に移動させてから、ゼオン達に車に乗るように手招きする
「わざわざありがとなキルバレン!さっさと帰ってレポートを仕上げなきゃな!」
「そのまえにシートベルトをむすぶなよ」
意気揚々と車に乗り込もうとするゼオンはシェリエールに言葉の杭を打たれて体の動きを止めてしまう
その間にアーシェリとシェリエールがゼオンのすぐ横を通り過ぎて、それぞれ車の後部座席に腰を落ち着ける
「だから二度目はないっての…」
口を尖らせるように静かに反論しながら、助手席のドアに手をかけようとすると、車の遥か上空に浮かぶ一筋の光が目に移り、手を止めて凝視すると、一瞬にしてその存在に目を奪われてしまった
星々が煌く青い夜空の中、はっきりとは見えなかったが、月明かりの青白い逆光に照らされた白く長い髪で白いワンピース着た、そして何より白い翼を生やした少女が飛んでいたのだったーー
ーーーその姿はまるでーーー
「ーーーー天使ー?」
時間にしてほんの一瞬ではあったが、世離れしたその神秘的な姿にゼオンは忘れようのない強い衝撃をうける
ほんの刹那の時間ではあったが、まるで夢の中にいるのか、または幻を見ているのかーー
浮遊感に襲われたそんな錯覚じみた感覚を感じながら、ゼオンの両眼は只々その存在に釘付けになっていた
これは、これから起こる『九人姉妹』と『天使』の間で起こる一大事件の最初の邂逅だったーー
「ん?どうしたんだ空なんか見上げて?」
呆けた顔で空を見上げているのを不思議に思ったのか、車内からアーシェリがそう言って間接的にゼオンに車内に乗るように促す
「いや…」
そこに天使がーーーー
と口に出かかったが一度視線を戻してもう一度空を見上げると、夜空に煌く星の数々と風に揺らぐ木のみが映っており、そこには天使の姿はもう何処にもなかった
「…今日は空が綺麗だなーと思ってな」
空に天使がなどと言ったところで信じてもらえる訳もなく、ゼオンは少し大袈裟な身振りをしながら空を見上げては考えなしに言葉を返した
「シートベルトから無理矢理話題をかえたな」
ハハハと微笑を零しながら車の助手席に腰をかけて先程の光景を思い出す
神秘的な光景だった
背丈のほどのある白い翼を羽ばたかせて飛んでいるその姿は星空の逆光を浴びて宝石のように輝いていた
刹那のようにほんの一瞬ではあったが、あの時は時間や周りにいる妹達のことも忘れて見入っていたほどだった
今にして思えば夢や幻でも見たんじゃないかという感覚になってしまっているが先程の光景が脳裏から離れられず、シートベルトを手に運転席のキルバレンに尋ねる
「なぁキルバレン、『精霊族』ってホントに実在するのかなぁ?」
「あの白髪で白い翼を持ってるって種族ですよね?」
「そうそう」
「100年前の『全界大戦』で絶滅したってことらしいですが、今では存在自体が御伽話になってますからね…」
キルバレンは車のエンジンを掛けると、座席にもたれかかった状態で遠くに薄く映る都市を目指して車を走らせる
「でも、もしかしたら絶滅を逃れた人もいたのかもしれませんね。
もし、そうだとしても個体数は少なそうですし純血の『精霊族』は殆どいないと思います」
「ふーん…そっか」
じゃあさっきの天使は『精霊族』の生き残りなのかもなあーー
感慨深く感じながらも話題を止めたゼオンは、あの白い姿を独り心の中に刻み込んだ
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