上等だ

吉田利都

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美咲と僕と酒井さん

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体育館裏に広がる光景は想像していたよりもひどかった。

「なんだよこれ。」

「黒沢君!どうした・・・」

人ごみをかき分けてくる酒井さんも驚きを隠せずにいた。

ナイフを持った山本と血まみれの美咲がそこにいたのだ。

「美咲!」

僕は叫ぶ。

それに気づいた美咲が顔色を変えた。

「来るな!黒沢!」

山本もこちらに気づく。

「よお黒沢。お前の大好きな美咲がやられてるぜ。」

「山本・・・」

僕は山本を睨んだ。

僕はもうあの頃のままじゃない。

反抗してやる。

「あ?なんだその目は」

僕は山本の前に立つ。

「どけよ雑魚」

「どかない」
山本が舌打ちをしたその瞬間

僕は意識が飛びそうな勢いで殴られた。

「そういう態度が気に食わねぇんだよ黒沢!!」

「お前らいつも仲良しごっこなんかしやがって」

「仲良しごっこなんかじゃない。」

「あ?今日はやけに吠えるじゃねえか」

「喋れなくしてやらぁ!」

「やめろ!」

美咲が怒鳴る。

「その辺にしてやってくれないか」

「お前の相手はあたしだろ。」

「何で黒沢が殴られなきゃいけないんだよ。もう充分だろ。」

美咲は今にも泣きそうだった。

僕は立ち上がる。立ち上がらなきゃいけない。

「美咲。もういい。黙ってて。」

「なんだ黒沢。フラフラじゃねえか。」

「僕を殴れ。気が済むまで殴ればいい。」

「言われなくても殴ってやるよ」

腹に一発、またあざが増える。

「黒沢!やめてくれ!」

「良いんだ美咲。それ以上血を流すと危ない。」

「お前ら二人ともぶっ殺してやる!!!」


周りの人ごみに紛れて酒井さんはただ見つめていた。

私はどうしたら、、、

やっと二人と友達になれたのにまた遠くで見つめるだけ?

何かしなくちゃ何かしなくちゃ・・・

「わ、大丈夫?」

「ウッ、」

「この子ゲロ吐いてる。保健室に!」

酒井さんは腕で口を拭った。

「いえ、大丈夫です。行かなきゃいけないところがあるので。」

私が行かなきゃ。みんな誰も動かない。

酒井さんはまた走り出す。

黒沢君。美咲さん。待ってて・・・


「ガハッ!!」

「おい、黒沢もう終わりか?」

僕の目はもう霞んで何も見えない。

「やめてくれ山本!」

美咲は山本の手下に押さえられていた。

「お前らを見てると腹が立つんだ。弱いくせに俺に歯向かいやがって」

「ああああああああ」

泣き崩れる美咲。

僕はこのまま本当に殺されるかもしれない。

ほんの一か月ほどだったけど幸せだった。

今思えば友達なんかいらないと思ってたあの頃に比べ人に優しく慣れた気がする。

「ハア、ハア、もうこいつはいいや。」

「み・・・さ。」

ここで僕の意識は途切れた。

この後は僕が目覚めてから聞いた話。


「やっとお前の番だな美咲。」

髪を引っ張りナイフを突き立てたその時だった。

「待ちなさい。何ですかこの状況は。」

校長先生だった。

「酒井・・・てめぇが呼んだのか!!」

「そう、私が呼んだわ。」

酒井さんめがけて走り出す山本。

バキッ!!

殴ったのは美咲だった。

「山本。黒沢だけじゃなく酒井さんまで傷つけたらあたしがお前を殺す。」

「この状況の原因は山本君ですね?」

校長が周りの生徒たちに問う。

「は、はい。」

「なぜこんなにも大勢の生徒がいながら呼びに来たのが酒井さんだけなのですか?」

「え、だって、ね?」

ざわつく生徒達。


パトカーのサイレンが鳴った。

「は、警察まで呼んだのか酒井!」

「呼んだのは私です」

「校長が!?」

「君の日頃の行いには目に余るものがありました。」

「そして今日、酒井さんから聞いた内容は目に余るものです。」

「一生徒をこんなに傷つけ警察を呼ばないなんてありえません。」

警察が近寄ってくる。

「彼が山本君ですか?」

「はい。そうです。」
と答える校長

「署まで来てもらおうか。」

「ちくしょうーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

救急隊も来ていたため僕と美咲はそれぞれ担架で運ばれた。


そして、目が覚めた。

病院の天井。

「お、起きたか。」

美咲が座っている。

「美咲。大丈夫なのか?」

「ナハハハ、お前に言われたくねぇよ」

「良かった。」

「黒沢」

美咲が僕に抱き着く。

「もう目を覚まさないかと思った。」

僕の胸が涙で濡れている。

「僕はどれくらい眠っていたの?」

「1週間ほど」

「そんなに?」

「あたしのせいだから余計に怖かった。」

「美咲のせいじゃないよ。」

「酒井さんは?」

「さっきまでいたんだけど塾があるからって。」

「そっか。」

「みんな心配してたんだぜ。」

「ごめん。ありがとう」

あざだらけのお腹に美咲の涙が染みていく。

僕も外を眺めてバレないように泣いた。

あの時と同じくらいの夕日だ。

「退院したらさ、三人で漁港に行こうよ」

僕はもう一度、次は三人であの夕日を見たかった。

「お、いいね。酒井さんも喜ぶと思う。」

「決まり。じゃああたしもそろそろ家に帰るよ。」

鼻をすすりながら立ち上がる美咲の手を引っ張る。

「待って」

「あの曲良かった」

「あの曲?」

「Syrup16gの『生活』」

「あ、聞いてくれたんだ。」

「うん。CD買ったその日に聞いた。」

「歌詞に書いてあった、心なんて一生不安さって言葉が凄く響いた。」

「そんなに?あたしもそのフレーズが好きなんだ。」

「良かった。ほんとに黒沢と出会えて。」

「なんだよ急に。」

「ナハハハ、変だよな。」

「うん。変だよ」

「うっせぇ」

僕と美咲の関係は友達以上恋人未満。

それは変わらない。

そして他の誰よりも特別な存在であることにも変わりはない。

あざに染みる美咲の涙が今になって効いてきた。
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