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あの子
25話
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目の前に広がる光景はどこか既視感がある。張り切ったカミラが作り上げるテーブルのように料理や甘味がお行儀よく並べられた豪華なテーブル。違うのは食卓が人に囲まれて賑やかなことだろうか。アンセルに気づいた人々はざわめくと四方八方から声を掛け、子どもから年寄りまでが囲む姿に一族内で中枢の地位の血統であることがわかった。
「お兄ちゃんだれ?その角は外せる?」
「えっと、外せないです。ごめんなさい」
「こら、」
四方八方からの雑多な問いかけに応えるアンセルに気を取られて、袖が引かれる。視線を落とせば腰の辺りで興味に輝く瞳が一心に角を凝視していた。それ、それと小さな手が指差す仕草に与えられないと首を振るとアンセルが子どもを抱き上げる。退屈そうに曇った子どもがキャキャと楽しげにすり寄る姿と手慣れたように手遊びするアンセルに関心してしまう。きっと、彼は誰からも求められて愛されて生きてきたのだ。
「騒がしくてごめんなさい。人をもてなすのは久しぶりで今日は宴の日だからみんな舞い上がってるんだ」
「うたげの日?」
「成人したら集落から出る子どもをみんなで送るために集まる日で、今日は僕の番」
そういえばあの子を見つけたらどうするか考えていなかった。ちょうどいい。成人してアンセルが集落から出るのなら一緒に来てもらえれば勇者に会わせることができる。
あまりの名案にハ、と瞠目したセーレは衝動のままにアンセルの両手に触れる。逃がさないというように白い両手を包んだ指先に驚き、頬を染めるアンセルに視線をぶつけた。
「あえ、せーれ?手、っ」
「あ、アンセル、俺と一緒に街に行こう!」
「っ、ぁ……ぅ、ん!セーレと一緒に行く!行きたい!」
「ありがとう。絶対に喜ぶはず、だから」
戸惑ったようにうろうろと視線を泳がせたアンセルにその熱は真っ直ぐと彼の心臓を突き刺した。離されようとした掌に指を絡めたアンセルはその可愛らしい相貌を最大限に活かすように破顔させる。どちらからともなく伝わる脈に慌ててやんわりと指先を解いたセーレは軸を失ったように頭が空っぽで目の奥が疼く感覚に視界を覆う。彼の真っ直ぐで澱みのないその性質に充てられて、乾いた喉の狭まる高音が頭に反響した。賑わいすらも掻き消す高音が誘発する痛みから逃れたくて、村人から促されるままにアンセルの隣で渡されたパンのような丸いそれを千切った。
「……」
勧められるままに食べ物を詰め込んでも味より喉奥に刺さった違和感が邪魔する。アンセルが承諾してくれて嬉しいのに、飾られた天使の絵画のように二人が笑い合う姿を想像する頭はふわ、と血の気が引いていくようだった。現実味を帯びていく計画に自分の存在を俯瞰して進む先に気づいても瞼に焼きつく炎が恋の欲望を踏みつける。
アンセルはセーレの想像していたあの子の像に嵌ったように好青年で、見ているだけで浄化されるような感覚に陥る。無一文で身元不明の人間でもないこんな不審者に対してもここまで良くしてくれるなんて。
「ふふ、僕の宴の日にセーレがいてくれてよかった」
「……俺も嬉しいよ」
毒を飲むように引き攣る喉で苦々しい言葉を吐いた自分が恨めしい。哀れでどうしようもなく自嘲する心が毒を浴びせる。真っさらで美しく笑ったアンセルに居た堪れず、目を逸らしたセーレの震える指先にパンが床を転がった。
「お兄ちゃんだれ?その角は外せる?」
「えっと、外せないです。ごめんなさい」
「こら、」
四方八方からの雑多な問いかけに応えるアンセルに気を取られて、袖が引かれる。視線を落とせば腰の辺りで興味に輝く瞳が一心に角を凝視していた。それ、それと小さな手が指差す仕草に与えられないと首を振るとアンセルが子どもを抱き上げる。退屈そうに曇った子どもがキャキャと楽しげにすり寄る姿と手慣れたように手遊びするアンセルに関心してしまう。きっと、彼は誰からも求められて愛されて生きてきたのだ。
「騒がしくてごめんなさい。人をもてなすのは久しぶりで今日は宴の日だからみんな舞い上がってるんだ」
「うたげの日?」
「成人したら集落から出る子どもをみんなで送るために集まる日で、今日は僕の番」
そういえばあの子を見つけたらどうするか考えていなかった。ちょうどいい。成人してアンセルが集落から出るのなら一緒に来てもらえれば勇者に会わせることができる。
あまりの名案にハ、と瞠目したセーレは衝動のままにアンセルの両手に触れる。逃がさないというように白い両手を包んだ指先に驚き、頬を染めるアンセルに視線をぶつけた。
「あえ、せーれ?手、っ」
「あ、アンセル、俺と一緒に街に行こう!」
「っ、ぁ……ぅ、ん!セーレと一緒に行く!行きたい!」
「ありがとう。絶対に喜ぶはず、だから」
戸惑ったようにうろうろと視線を泳がせたアンセルにその熱は真っ直ぐと彼の心臓を突き刺した。離されようとした掌に指を絡めたアンセルはその可愛らしい相貌を最大限に活かすように破顔させる。どちらからともなく伝わる脈に慌ててやんわりと指先を解いたセーレは軸を失ったように頭が空っぽで目の奥が疼く感覚に視界を覆う。彼の真っ直ぐで澱みのないその性質に充てられて、乾いた喉の狭まる高音が頭に反響した。賑わいすらも掻き消す高音が誘発する痛みから逃れたくて、村人から促されるままにアンセルの隣で渡されたパンのような丸いそれを千切った。
「……」
勧められるままに食べ物を詰め込んでも味より喉奥に刺さった違和感が邪魔する。アンセルが承諾してくれて嬉しいのに、飾られた天使の絵画のように二人が笑い合う姿を想像する頭はふわ、と血の気が引いていくようだった。現実味を帯びていく計画に自分の存在を俯瞰して進む先に気づいても瞼に焼きつく炎が恋の欲望を踏みつける。
アンセルはセーレの想像していたあの子の像に嵌ったように好青年で、見ているだけで浄化されるような感覚に陥る。無一文で身元不明の人間でもないこんな不審者に対してもここまで良くしてくれるなんて。
「ふふ、僕の宴の日にセーレがいてくれてよかった」
「……俺も嬉しいよ」
毒を飲むように引き攣る喉で苦々しい言葉を吐いた自分が恨めしい。哀れでどうしようもなく自嘲する心が毒を浴びせる。真っさらで美しく笑ったアンセルに居た堪れず、目を逸らしたセーレの震える指先にパンが床を転がった。
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