愛する人のためにできること。

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勘違い

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 陛下からの挨拶や聖女の発表が終わり、ダンスが始まる。隣に立っている殿下が私の右手を取った

「私と一曲、踊っていただけませんか」

「喜んで」

 ダンスのための音楽がかかると、本日のメインであるリアトリスとそのパートナーが踊り始める
 相手は誰なのだろう、と彼女たちの方を見ればその相手は私のよく見慣れた白い髪と背格好の…

「…フェオ?」

「ああ、エミリアは知らなかったんだね。そうだよ、彼女の今日のパートナーは君の義弟のフェオドールくんだ」

 嘘でしょ、とそこそこのショックを受ける。普段は学校の話も相談も、なんでも私にしてくれるフェオが、今日のパートナーは本日のメインである聖女の相手とは聞いていない

「…は、反抗期、なの…?」

「エミリア?」

「…いえ、なんでもございませんわ」

「そう?…では私たちも行こうか」

「はい」

 殿下にリードされ、ダンスの輪の中へ入ると踊り始める。来る前に練習していたためか、少し踊りやすい

「ダンス、以前より上手くなったね」

「ありがとうございます。今日殿下がお迎えに来てくださる前に少し練習したからかもしれません」

 顔を上げ殿下の顔を見ながら踊ろうとして殿下と目があった瞬間、先程頬にキスをされたことを思い出しすぐに目を逸らしてしまう。思い出しただけでも顔が熱い

「どうかした?」

「…なんでもございません」

「なんでもない割に顔紅いけど、疲れてる?」

「いえ、あの、本当に大丈夫ですから。気になさらないでください」

 殿下は私の体調を心配し顔を覗き込もうと近づけるので、私の顔がさらに熱くなる
 心臓に悪いのでできれば離れたいと思い、少し距離を開けると殿下が少し眉をひそめた

「…もしかして、怒ってる?」

「?何をですか?」

「いや、怒ってなら良いんだけど…その、さっき君にキスをしたら睨まれたから怒ってたのかな、と」

 私は少し驚いてキョトンとしてしまう。どうやら殿下は先程私が睨み返したことを気にしていたらしい。その時はなんでもないような顔をしていたのに

「それくらいでは怒ったりしませんわ…ただ、人前でされると、少し、恥ずかしかったといいますか…」

 これを言うのも恥ずかしい、と思いながらちらりと殿下の顔を伺えば、殿下は少し頬を染めて私のことを見ていた。何か変なことを言っただろうか

「…殿下?」

「今はダンス中だからな…」

「?」

 言っていることがいまいち理解できず黙っていると、音楽が鳴り止み、ダンスが終わった
 先程の言葉の恥ずかしさがまだ消えきっていない私は、ダンスを終えると同時に「ありがとうございました、失礼致します」と言い、殿下が何かを言う前にその場を立ち去った

 とりあえず遠くに行こうと移動していると、フェオドールの姿を見つけ、私はすぐにそこへ向かう。ちょうどタイミングも良かったのでリアトリス様との件、詳しく聞かせていただこう

「フェオ」

「リアお義姉様‼︎」

 フェオの顔場整っていて女性から人気なのだろうと思っていたが、正直ここまでとは思っていなかった。声をかけられたフェオは、同じ年に見える7,8人ほどの女性に囲まれている。あの聖女様のファーストダンスの相手、という効果もあるかもしれないが
 私が声をかけると、彼の引きつった笑みは一気に満面の笑みに変わり大勢の女性たちを振り切りこちらへ駆け寄って来た

「お会いできて嬉しいです」

「ええ、私もよ、フェオ」

 ニコーっと最上級の笑みを浮かべながら言うものだから、思わず本題を忘れそうになる。頭を撫でそうになったところでハッとし、すぐに本題へ移ることにした

「…あのね、フェオ。少し聞きたいことがあるのだけれど」

「はい、何でしょうか?リアお義姉様の聞きたいことならなんでも答えますよ」

「そう、ありがとう。それでね、聞きたいことなんだけれど…あなたいつリアトリス様とパートナーになることが決まったの?」

 私が"リアトリス様"と言った瞬間、彼の眉がピクリと動き、少し動揺を見せた
 彼は満面の笑みから申し訳なさそうな表情へ変換させると、視線をどこかよくわからない場所向けながら話し始めた

「…ええっとですね、僕自身もよくわかっていないのですが…1週間ほど前、リアトリス様は聖女の仕事を終えて帰ってきたその次の日から、学園へ戻って来られました
その学園へ戻って来られた日、彼女は大事なネックレスを誰かに隠されてしまったらしく、庭園を探し回っていたところに僕が遭遇し探すのを手伝い、何時間もかけて見つけたのですが…そしたら彼女、突然僕の両手を握って『見つけた‼︎』と言って…そして何故か急に『今度開かれるパーティーのパートナーになって欲しい』と言われて、言ってる意味も理解せず『うん』と言ってしまい…現在に至ります」

 フェオは最後まで明後日の方向を見ながら話し続けた。彼が言っていることに嘘はないのだろう。それはわかっているが、言っている意味が私にもいまいち理解しがたい

「そう、なのね…フェオ。とりあえず、相手の言っている意味も理解せず了承しないよう、次からは気をつけなさいね」

「…はい」

 聞きたいことは聞けたしマーシャの所へ行こうかな、と思った所でフェオドールの名を呼ぶ可愛らしい声が私の背後から聞こえた

「フェオドール様、少しお料理を取ってきましたの…あ、すみません。お話し中でしたか?」

「…いえ、ちょうどひと段落したところでしたので気になさらないでください。聖女様」

「…リアトリスと呼んでくださいと言っましたのに」

「僕には恐れ多いですよ、聖女様」

 声のした方へ振り返れば本日の主役である聖女、リアトリス様が料理を盛り付けたお皿を片手に持って立っていた

「ごきげんよう、リアトリス様。…先日は私の不注意により階段からあなたを落としてしまったこと、深く反省しております。大変申し訳ございませんでした」

「ごきげんよう、エミリア様。そのことは気になさらないでください。私もしっかりと前を確認して歩いていなかったのですから、お互い様ですわ」

 スカートを摘み挨拶をすると、ふわりと笑って笑う彼女はとても元平民の者とは思えないほどに一つ一つの所作が綺麗で、更に広い御心を持っているようだ。さすが聖女というところだろうか
 しかし私にはまだ謝らねばならないことがある。私の勘違いのために、彼女のことを悪く言ってしまっていたのだ

「ありがとうございます…ですが、私は以前、リアトリス様が殿下と恋仲であると勘違いをしてしまい、貴方に酷いことを言ってしまいました。申し訳ございません」

「ええっと、その、エミリア様。申し訳ないのですが、私酷いことなど言われた記憶、ございません」

 私は表情は変えぬまま驚く。私が彼女に対して酷いことを言っていたのは数ヶ月前で、そんなにすぐには忘れないはずだ。
 私が何を言えばいいかわからず黙っていると先にリアトリス様が口を開いた

「ごめんなさい。その、思い当たる節が全くなくって…何度かご注意していただいた記憶はあるのですが」

「あら、では私反対に、リアトリス様に注意をした記憶ございませんわ」

 お互いに頭にはてなマークを浮かべていると、それまで黙って聞いていたフェオが話に入ってきた

「リアお義姉様が思っている"酷いこと"を、聖女様は"注意"だと思っているのではないですか?」

「…確かにそうかもしれません。エミリア様がおっしゃっている酷いこととはどういった内容なのですか?」

「私が言っていたことですか?私は…『男爵家である貴方が気安く殿下に話しかけてはいけません。そんなことも知らないとは貴方、令嬢としてなってございませんこと?』や、『殿下には私という婚約者がいるのです、そんなにベタベタとくっつかないでくださいませ。節度な距離感くらい、5,6歳の幼児でも知っておりますわよ。貴方はそれ以下なのね』…などですわ」

 今思い出してみると、私の暴言は酷いものだ
 彼女から話しかけたのはもしかしたら生徒会の仕事などで急用があったからかもしれないし、ベタベタとくっつくと言っても軽く手と手が触れ合ったくらいだ。そこまで言うことはなかっただろう

「そう、それです。私がエミリア様から注意していただいたことは
まだ学園に入ったばかりで平民の常識が消え切っていなかった当時、私が元平民だと知っている貴族の方々は私のことを汚らわしいような目で見て、話しかけられたり、私の言動に注意をせず蔭で悪口を言われていたのでよくわかっておりませんでした
そんな中で、エミリア様は私のよくない言動などに注意をしてくださったおかげで、今は注意されることがとても減りました。なので私はエミリア様には感謝しかごさいません」

 どうやら、私が嫌がらせのつもりで言っていたことは、彼女にとっては感謝されるようなことだったようだ
 嫌な思いをしていなくてよかったと思う反面、なぜか複雑な気持ちでもある

「そうだったのね…当時の私が嫌がらせのつもりで言っていたことが貴方のタメになったのなら、よかったですわ」

「はい!その節は本当にありがとうございました!」

 複雑な気持ちで微笑むと、満面の笑みでお礼をのべる彼女は可愛らしかった
 ただ、少し残念なのがお皿に盛られた料理が令嬢にしては多すぎることだろうか。先程振り返ったとき、目に入ってからずっと気になっていたのだ

「あの、少し話が変わるのですが先程から気になっていて、リアトリス様は食べることがとても好きなのですね…?」

「え?ああ、これのことですか?確かにお料理を食べるのは好きですが、流石にこれは一人で食べきれませんよ。フェオドール様と一緒に食べれたらなあと」

「僕は別に結構ですよ。聖女様がお好きなのであれば全部食べてくださって構いません」

 そう言って少し頬を染めながら言う彼女に対して、好意をあらか様に受けられているフェオの反応は冷たかった
 本当は一緒に食べたいのだとしても別の食器に分けなければいけませんよ、と注意するべきなのだろうが、普段、私を見かければすぐに駆け寄ってくるようなフェオがすごく冷たい反応をしたことへの驚きで何も言えなかった

 なぜフェオにこんなにも惚れ込んでいるのか正しい理由は知らないが、フェオも聖女も婚約者がいないのだから2人が上手くいくことを願おう
 そう思って相変わらずツンな態度をとっているフェオと、嬉しそうに話しかけているリアトリス様のことを見守りながら、「失礼します」と言い礼をするとその場を離れた
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