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豪雨

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「王……ナレタ……私は……王、ニなれタのだッ!」

 生命を穢す王ノーライフキングが両腕を振り上げて快哉を叫べば、それに合わせてそこかしこから死霊があふれだした。
 両腕を上げて絶叫する死霊たちの一体が近くにした兵士に縋りつく。

「イノチ……魂……熱……欲シイ……欲シイッ!」
「た、助けてくれッ!」

 ドルツさんが双剣を振るって死霊を切り払うが、即座に絡みついて元の形に戻る。兵士に縋りつくのもやめていない。

「無駄だ。私ノ民……地獄の亡者ニ実態は無いゾ。大人シク体を明け渡シ、命を捧ゲロ」

 得意げに宣告する生命を穢す王ノーライフキングに、ノノの大剣が突き刺さった。

「よもや地獄から戻ってくるとは思いませんでした。ゴキブリ並みのしぶとさに感謝しますよ……死ぬまで殺して差し上げます」
さえずるナ、下女如きガ。私に盾突く愚か者ドモは一人残らズ地獄へ引きずり込んでヤル」

 ノノは怒涛の勢いで大剣を叩き込んでいた。
 特別な力を持つ大剣が生命を穢す王ノーライフキングの体を細切れにしようと、竜巻のような速度で振るわれ続ける。

「無駄ダ……私は命も痛ミも超越シタ。ゴミのようナ聖女を飼い続ケる必要モナイ……憂さ晴らシに四肢を引きちギッテやろウ。お前ガ、全てノ元凶だ。お前サエいなケレば。存在しなけレば」
「汚らしい視線をお嬢様に向けるなっ! 臭い口でお嬢様を語るなっ! お嬢様に責任を押し付け——」
「邪魔ダ」

 ノノが吹き飛ばされた。
 慌てて回復魔法を放ち、ノノが地面に落ちる前に全快させる。

「ノノ!」
「グゥ!? 何ダこの光ハ!?」
「回復魔法……もしかして……?」
「ふむ。生命を穢す王ノーライフキングは死を司る魔物じゃ。聖属性の回復魔法はそのまま毒になるんじゃろうな」
「ノノを殴ったな。ノノを傷つけたな。よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも——!」

 魔力が弾ける。
 空間そのものを満たすほどの魔力をすべて聖属性に変換する。

『警告:ナノマシンの稼働率が100%に近づいています。クールタイムを取ってください』
「うるさい! 私は! 私だって怒るんだ!」

 ノノを。
 私の大切な人を傷つけられて。
 黙っていられるはずがないのだ。

「ああああああああああああああああああああああああああっ!」

 意味を成さない絶叫とともに、ありったけの魔力を振り絞る。

「ぬっ!? まずい、空気中のナノマシンども! 励起して聖属性魔法の発動と伝播を全力でアシストせい! ノノ、障害物をすべて消し飛ばせ!」
「私に命令して良いのはお嬢様だけです!」

 文句を言いながらも、干渉を始めたリーアのためにノノが大剣を振るい、王城を破壊した。
 ただでさえ一部が吹き飛んでいた王城は完全に上部を失い、東西南北360度、すべてが見渡せる状態になった。

 同時、私が振り絞った魔力が光となってはじけた。

 それは王城のみならず、王都を越え、ブレナバン全域に広がる。
 そして、回復魔法が豪雨のように降り注いだ。
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