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魔王種

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「ああ、間に合った」

 穂先がマーカスの喉笛を食いちぎるその直前。
 石畳に絨毯が敷かれていた謁見室に、植物が生えた。瞬きする暇もなく太く大きく成長した植物は穂先を受け止め、柄に絡みつき、槍を絡めとった。
 
 慌ててジグさんが飛び退く。

 蔦は槍のみならず第四王子や第二王子を絡めとり、ギロチン台のように首と手を固定してしまった。
 その上に、いつの間にか現れた黒い影が座る。

「いやぁ……間に合わぬかと冷や冷やしたぞ……おお、よく見れば我が花嫁候補もおるではないか」
「誰だ貴様は」
「何をしている。そこをどけ」

 ジグルドさんとドルツさんが警戒する中で、影はカラカラと笑った。

「我は魔王種にして裁定者の職を継ぐ者。死を弄び、疫病をまき散らした愚か者に裁きを下しに来た」
「裁き」
「左様。花嫁に課した試練と同種のものじゃ」

 言いながら影が手のひらで弄んでいたのは、とてつもなく嫌な気配のする木の実だった。
 吐き気を催すような雰囲気をまとったそれを見て、ヘルプが勝手に起動した。

『鑑定:審判の実
 対象の中にある悪意の大きさによって育つ植物。有罪ラインを超える悪意を持った者の魔素を吸い尽くして死に至らせる』

「あっ」

 思わず手を伸ばすが、制止する暇すらなくそれが第二王子の口に押し込まれた。

「ぐがっ、ギギギギィ……」

 瞬間、体中のエネルギーを吸われた第二王子は体を茶色く干からびさせて命を失った。

「何だ!? 何をした! おい、無礼者! 私を誰だと思っている!?」

 間近で兄弟の死を見せつけられたマーカスが半狂乱になって暴れるが、彼を固定する樹木は揺れる様子すらない。
 マーカスの目の前で再び植物が生え始め、ねじれあいながら審判の実をつけた。

「貴様が誰かなど知らぬ。罪を裁くが我が務め」
「ひっ! や、やめろ! やめてくれ! そ、そうだ! その実を使うならそこのジグルドにしろ!」
「我としてはこのような茶番、すぐにでも終わらせて嫁を娶らねばならぬのだ」
「よ、嫁? そこの侍女か? それとも聖女か? どちらもくれてやる! 城の魔道具に相手を意のままに操る首輪がある! それを付けてとも好きなように飼えば——」

 ごぼり、と植物が木の実を口の中に押し込んだ。
 息が詰まった第四王子は体をぶるりと震わせ、しかし先ほどとは違いすぐさまミイラになるようなことはなかった。

「ほっ! 審判の実ですら戸惑うほどの悪意か! 人間とはどこまでも欲深いものじゃの!」

 ぢゅるり、と口から唾液塗れの蔦が伸びた。
 口だけではない。
 鼻から。
 肩から。
 眼から。
 背中から。
 耳から。

 ありとあらゆる部位を突き破って植物が生えた。
 マーカスは全身を串刺しにされ、死んだ。
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