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出発
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がった、がった、ごっと、ごっと。
馬車に揺られながら、小さくなっていく城塞都市を眺める。色々あったけど良いところだった。
私たちが旅立つことを告げたら、なぜか翌日には都市全体に知れ渡っていて、冒険者さんや一般市民、衛兵さん達までが感謝の手紙やら送別のプレゼントを持ち寄ってくれたのだ。
列をなして挨拶をする姿は、まるで王族とか偉い人になった気分でちょっと複雑だった。
私が食いしん坊なのが伝わっていたのか、食材だったり日持ちする焼き菓子の類をもってきてくれる人が多かった。
後はノノのためにパン種だったり茹でる前のパスタを持ってきてくれた人もいた。
真っ赤な顔で「ありがとうございました」とか「ノノさんみたいな料理人になります」って宣言してた人はきっとノノのことが好きだったんだろうね。
ノノは気づいてなかったみたいだったけどね!
私の方はおじいちゃんやおばあちゃんが中心だった。後はお子さんを連れた人もたくさんいたかな。
間違えて私の列に並んだ若い男の人たちはユザークさんとかドルツさんが注意してくれてた。
「街を救ってくれてありがとう」
「アンタがいなきゃ、ウチの旦那は死んでた」
「次来たときは街を挙げて歓迎する! 近くを通ったら必ず寄ってくれ!」
ちょっと気恥しいような、でも嬉しいような複雑な気持ちだった。
今まで、けがした人とか病気の人に魔法を使ったくらいで褒めてもらったことなんてなかったから。
「何か寂しいねぇ」
「左様ですね」
私の隣に座るノノは優しく背中をさすってくれる。
向かい側に座っているフェミナさんとドルツさんは苦笑していた。ちなみに馬車三台の商隊で、リーダーでもあるロンドさんは別の馬車で指揮を執っている。
「別れがあれば、出会いもあるもんさ」
「良いこと言うわね、ドルツの癖に」
「フェミナぁ……せっかく決まってたのに台無しじゃねぇか!」
「大丈夫よ、十分かっこいいから」
うーん、幸せそうで何より。
……ノノ? 何で口の中がジャリジャリになった、みたいな顔してるの?
何はともあれ馬車旅だ。
と言ってもロンドさんが仕入れにいく都合上、荷台はほとんど空っぽだし同道している御者さんは商人さんで自衛くらいはできる人、らしい。
あとはロンドさんの友達で吟遊詩人のジグさんもいるけど、リュートっていう弦楽器の他に総金属製の槍を持っていたのでやっぱり戦えるようだ。
ちなみに護衛としてドルツさんとフェミナさんもついてきてるけど、馬に乗って馬車に並走しているので姿を見ることはできない。
「お二人を守るつもりですので戦わなくて大丈夫です。そのかわり——」
私たちがお願いされたのはご飯係だ。
私というよりもノノに、なんだろうけれどこの二ヶ月はずいぶんお手伝いしたので私も多少は戦力になるはずだ。
包丁も何度か握らせてもらったもんね!
「ロンドから聞いてるが、二人は料理が美味いんだって?」
「人並みにはできると自負しております」
「ノノの料理はすっごく美味しいんだよ!」
馬車内はわりと揺れることもあってできることが少ない。結果としてロンドさんやジグさんと会話するしかないんだけど、これが結構楽しかった。
世界中を旅してまわってる、と豪語するだけあっていろんな国の事情や伝説にも詳しかったし、詩にまとめてあってすごく話し上手なのだ。
「そりゃ楽しみだ……マリィの嬢ちゃんが良い笑顔になるくらいだし、俺も期待してるぜ」
さて、そんなこんなでお昼ご飯だ。
今日はささっと作れるパスタだ。
沸騰した塩水で茹でてる間に、農村でモンスター肉を加工して作った生ベーコンを切っていく。
フライパンに放り込まれたところで私の出番だ。
「弱火でじっくり、だよね?」
「さすがでございますお嬢様。パンチェッタから脂を出して、揚げ焼きにするイメージです」
「はぁい」
木べらで炒めているとびっくりするくらいたくさんの脂が出てきてパンチェッタがじゅわじゅわと泡が出始める。
こうやって熟成したお肉から脂を引き出すため、加工するときは脂がいっぱいなところをわざわざ選んでるんだって。
頬肉で作っても美味しいんだけど、こないだは買えなかったからまた今度のお楽しみだ。
「ノノ、そろそろ良いかな?」
「はい。それではにんにくを入れますね」
「うん!」
パンチェッタの表面がカリッとしたところでみじん切りのにんにくを入れて香りが引き立つまでさらに炒める。
そしたら金属のボウルに入れて、かまどの火は消しちゃって大丈夫だ。
「お嬢様、もうすぐ茹で上がります」
「うん、急ぐね!」
魔法で浄化した生卵をボウルに落として、農村で買ったハードチーズを削っていく。
四角の柱みたいな形をしたチーズ削りでしゃこしゃこすると、ふわっふわな雪みたいになってボウルの中に積み重なっていくのだ。
何とか茹で上がる前に削り切ったのでボウルをノノに渡すと、にっこり微笑んで頭を撫でてくれた。
「さすがお嬢様です。ありがとうございました」
「えへへへへ」
茹で上がったパスタをボウルにざばっと入れて、ゆで汁をすこーしだけ足す。
三〇秒ほど待ってからトングで一気に混ぜれば完成だ。
わざわざ待つのは生卵とチーズにパスタの余熱を移すため。こうすることでとろみがついてしっかりパスタに絡む良いソースになるのだ。
器に盛り付けて、
「濃厚カルボナーラの出来上がり!」
「お嬢様、胡椒を削りませんと」
「あっ」
「さぁ、お願いします」
渡されたミルでガリガリと胡椒を削って振りかけていく。
チーズと卵の合わさった淡い黄色のパスタに、あらびきの胡椒が模様をつけていく。
今度こそ完成!
馬車に揺られながら、小さくなっていく城塞都市を眺める。色々あったけど良いところだった。
私たちが旅立つことを告げたら、なぜか翌日には都市全体に知れ渡っていて、冒険者さんや一般市民、衛兵さん達までが感謝の手紙やら送別のプレゼントを持ち寄ってくれたのだ。
列をなして挨拶をする姿は、まるで王族とか偉い人になった気分でちょっと複雑だった。
私が食いしん坊なのが伝わっていたのか、食材だったり日持ちする焼き菓子の類をもってきてくれる人が多かった。
後はノノのためにパン種だったり茹でる前のパスタを持ってきてくれた人もいた。
真っ赤な顔で「ありがとうございました」とか「ノノさんみたいな料理人になります」って宣言してた人はきっとノノのことが好きだったんだろうね。
ノノは気づいてなかったみたいだったけどね!
私の方はおじいちゃんやおばあちゃんが中心だった。後はお子さんを連れた人もたくさんいたかな。
間違えて私の列に並んだ若い男の人たちはユザークさんとかドルツさんが注意してくれてた。
「街を救ってくれてありがとう」
「アンタがいなきゃ、ウチの旦那は死んでた」
「次来たときは街を挙げて歓迎する! 近くを通ったら必ず寄ってくれ!」
ちょっと気恥しいような、でも嬉しいような複雑な気持ちだった。
今まで、けがした人とか病気の人に魔法を使ったくらいで褒めてもらったことなんてなかったから。
「何か寂しいねぇ」
「左様ですね」
私の隣に座るノノは優しく背中をさすってくれる。
向かい側に座っているフェミナさんとドルツさんは苦笑していた。ちなみに馬車三台の商隊で、リーダーでもあるロンドさんは別の馬車で指揮を執っている。
「別れがあれば、出会いもあるもんさ」
「良いこと言うわね、ドルツの癖に」
「フェミナぁ……せっかく決まってたのに台無しじゃねぇか!」
「大丈夫よ、十分かっこいいから」
うーん、幸せそうで何より。
……ノノ? 何で口の中がジャリジャリになった、みたいな顔してるの?
何はともあれ馬車旅だ。
と言ってもロンドさんが仕入れにいく都合上、荷台はほとんど空っぽだし同道している御者さんは商人さんで自衛くらいはできる人、らしい。
あとはロンドさんの友達で吟遊詩人のジグさんもいるけど、リュートっていう弦楽器の他に総金属製の槍を持っていたのでやっぱり戦えるようだ。
ちなみに護衛としてドルツさんとフェミナさんもついてきてるけど、馬に乗って馬車に並走しているので姿を見ることはできない。
「お二人を守るつもりですので戦わなくて大丈夫です。そのかわり——」
私たちがお願いされたのはご飯係だ。
私というよりもノノに、なんだろうけれどこの二ヶ月はずいぶんお手伝いしたので私も多少は戦力になるはずだ。
包丁も何度か握らせてもらったもんね!
「ロンドから聞いてるが、二人は料理が美味いんだって?」
「人並みにはできると自負しております」
「ノノの料理はすっごく美味しいんだよ!」
馬車内はわりと揺れることもあってできることが少ない。結果としてロンドさんやジグさんと会話するしかないんだけど、これが結構楽しかった。
世界中を旅してまわってる、と豪語するだけあっていろんな国の事情や伝説にも詳しかったし、詩にまとめてあってすごく話し上手なのだ。
「そりゃ楽しみだ……マリィの嬢ちゃんが良い笑顔になるくらいだし、俺も期待してるぜ」
さて、そんなこんなでお昼ご飯だ。
今日はささっと作れるパスタだ。
沸騰した塩水で茹でてる間に、農村でモンスター肉を加工して作った生ベーコンを切っていく。
フライパンに放り込まれたところで私の出番だ。
「弱火でじっくり、だよね?」
「さすがでございますお嬢様。パンチェッタから脂を出して、揚げ焼きにするイメージです」
「はぁい」
木べらで炒めているとびっくりするくらいたくさんの脂が出てきてパンチェッタがじゅわじゅわと泡が出始める。
こうやって熟成したお肉から脂を引き出すため、加工するときは脂がいっぱいなところをわざわざ選んでるんだって。
頬肉で作っても美味しいんだけど、こないだは買えなかったからまた今度のお楽しみだ。
「ノノ、そろそろ良いかな?」
「はい。それではにんにくを入れますね」
「うん!」
パンチェッタの表面がカリッとしたところでみじん切りのにんにくを入れて香りが引き立つまでさらに炒める。
そしたら金属のボウルに入れて、かまどの火は消しちゃって大丈夫だ。
「お嬢様、もうすぐ茹で上がります」
「うん、急ぐね!」
魔法で浄化した生卵をボウルに落として、農村で買ったハードチーズを削っていく。
四角の柱みたいな形をしたチーズ削りでしゃこしゃこすると、ふわっふわな雪みたいになってボウルの中に積み重なっていくのだ。
何とか茹で上がる前に削り切ったのでボウルをノノに渡すと、にっこり微笑んで頭を撫でてくれた。
「さすがお嬢様です。ありがとうございました」
「えへへへへ」
茹で上がったパスタをボウルにざばっと入れて、ゆで汁をすこーしだけ足す。
三〇秒ほど待ってからトングで一気に混ぜれば完成だ。
わざわざ待つのは生卵とチーズにパスタの余熱を移すため。こうすることでとろみがついてしっかりパスタに絡む良いソースになるのだ。
器に盛り付けて、
「濃厚カルボナーラの出来上がり!」
「お嬢様、胡椒を削りませんと」
「あっ」
「さぁ、お願いします」
渡されたミルでガリガリと胡椒を削って振りかけていく。
チーズと卵の合わさった淡い黄色のパスタに、あらびきの胡椒が模様をつけていく。
今度こそ完成!
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