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依頼

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 それから二日。
 アーヴァインは未だにヴェントに逗留してるけれども、実は内緒でここまで来ちゃったらしく護衛っぽい人に怒られてからは宿屋に籠って書類仕事をしている。

 ご飯時に真っ青な顔でやってきて、たくさん食べてちょっと話してまた宿屋に戻ってるんだけど、幽鬼みたいでちょっと怖い。
 
 ご飯以外は外出さえ許してもらえないらしく、ドルツさんたちが代わりに手紙を出しに行ったり必要なものを買いに行ったりしているらしい。

「初めての友達だからって無理して会いに来なくても良いのになぁ」

 まぁ直接言うのは可哀想なのでやめておく。時々回復魔法を掛けてあげてるので何とか頑張ってもらおう。四六時中かければ薄いスープを一日一食でも生きてられるのは私で実証済みだし。

「ンマー……悩んじゃってる顔してるわネ。恋? 恋かしらぁ?」
「そんなんじゃないですー」

 私の前にいるのはミス・テールマンさんだ。可愛らしいフリフリのドレスを身にまとっていて、だけど野太い低音ボイスと丁寧に剃られた青髭のせいで性別不詳な洋服屋さん。
 とはいえ、私とノノがいるのは”フリル&レディ”ではなく、冒険者ギルドの応接室だ。

「ごめんなさいねぇ……繋ぎとはいえなんて押し付けられちゃったせいで」
「いえいえ。可愛い洋服もたくさんいただいてますし」

 私たちは、ギルド長代理をしているミス・テールマンさんに呼ばれたのだ。
 内容は魔物の討伐依頼。
 私たちは冒険者ギルドには登録してないんだけれど、顔見知りのミス・テールマンさんに頼まれてしまったのでとりあえず話を聞きに来たのだ。

「ごめんなさいねェ……ドルツちゃんとフェミナちゃんは皇太子殿下のパシリで忙しいし、アタシも動くわけにはいかなくてネ」

 なんとミス・テールマンさん、元A級冒険者だった。お店を開くのに必要なお金は溜まったから、って理由で引退宣言していただけで、別に今も冒険者ではあるらしいんだけど、ユザークさんがギルド長を辞めて、後任が決まるまで代理を要請されたらしい。
 頼みに来た冒険者ギルド本部の職員が好みのタイプだったから引き受けちゃった♡と言っていた。

「危ないってことはないと思うわァ。失敗しても違約金は取らないから、無理のない範囲でやってくれれば良いのよォ」
「カーバンクル、ですか」
「すばしっこい魔物ね。逃げられちゃって討伐が難しいからCランク扱いなだけで、戦闘力はほぼないわヨ?」

『肯定:種族名【カーバンクル】にはほとんど攻撃力がありません。光属性と闇属性の魔法が多少使えるため、幻術とすばやい動きで逃げ回る魔物です。知能が高くいたずら好きなので畑を荒らしたり民家にいたずらすることが多いです』

 なるほど。

「ちなみに依頼元は錬金術ギルドの職員ヨ。薬草畑や保管庫を荒らされたと憤慨してたワ」
「れんきんじゅつぎるど」
「冒険者とか商人と違って試験有りの資格制だから人が少ないとこヨ。薬草とか鉱物を調べてニヤニヤしてる奴らが多いのよォ」

 それってすごく変な人達なのでは……?

「研究熱心だけど初心うぶで奥手なシャイボーイばっかりなのヨォ。ホントはアタシが行きたいくらい♡」
「……ちょっとその依頼は不安が残りますね」
「あらぁ? マリィちゃんが心配ならノノちゃんが守ってあげれば良いのよ♡」

 そ・れ・と・も、と変に言葉を強調してノノを覗き込むミス・テールマンさん。

「守れる自信がないのかしらぁ?」

 上目遣いになろうとして屈みこんだ拍子に、二の腕とか背中とかがバツンッて破けてた。鋼のような肉体とショッキングピンクの下着が露わになる。

「きゃっ♡ イタズラな筋肉♡」
「……お嬢様のことはたとえ魔王級の魔物が来ようと守ります。とりあえずお嬢様の精神にダメージが入る前に服を着てください」
「男の子だけじゃなくて女の子まで見惚れて理性がトんじゃう肉体美ってコト!?」
「良いから早く服着てください!」
「ンもぅ……恥ずかしがりなのねエ……!」

 えっと、会話できてる……?
 意味が分かってないの、私だけなのかな。ちょっと仲間外れみたいで寂しい気もするけど、なぜだかほっとする気もする。
 どっちが良かったのかは判断できないけど、蒸し返すのも微妙だから黙ってよう。

「まぁ、襲ってくる度胸もないようなシャイボーイだからそんなに心配しなくても平気よォ」
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