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Side冒険者クッタ・ヴィレ・ゾン
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パチ、と薪が爆ぜる。
夜の森に、焚火の炎が浮かび上がる。夜闇を切り取るにはあまりにもか細い光を囲んでいるのは冒険者ギルドの長であるユザークと、メタルリザードを討伐に来た三人組である。
斥候を担うゾンの姿は見えない。
用を足すついでに捕捉したメタルリザードの様子を見てくる、と言ってしばらく前に消えていた。
「夜まで待って、か。まぁメタルリザードは冷えれば多少動きが鈍るが……お前らは暗いところでも連携できるのか?」
「で、出来ます。なぁ、クッタ?」
「ああ。それよりギルド長はフル装備じゃなくて良かったんで?」
クッタの視線の先、ユザークがすぐ近くに置いたハンマーへと視線を向ける。
総金属製、超重量を叩きつける一撃はユザークの二つ名”鉄塊”の由来だった。
「俺を戦力としてカウントしちまったら、お前らの成長に繋がらないからな。コレさえありゃ自衛くらいは出来るから、まぁ気にすんな」
がはは、と笑いながらハンマーを叩くユザーク。そこに三人を疑う様子は欠片も見られない。
——この人を殺すのか。
ヴィレの中に罪悪感が生まれるが、既に止まれる段階ではない。
何しろゾンはメタルリザードを釣り出しに行っているし、ヴィレ自身、ここに来るまでに魔物寄せの薬をこまめに撒いてきたのだ。
偵察に失敗した振りをしてユザークにメタルリザードをぶつける。理想は相打ちだが、どちらが生き残るにせよ、無事では済まないはずである。
生き残った方を三人で殺すというのがクッタの計画だった。
道中に撒いた魔物寄せは万が一、計画が露見したり失敗したとき、ユザークが街に戻るのを阻害するための保険だ。
「ちなみにギルド長はソロでメタルリザードを討伐できますか?」
「全盛期なら……と言いたいところだが山ほどアイテムをつぎ込まないと無理だな。魔法が使えない完全前衛とメタルリザードは相性が悪い。お前らも前回の討伐時に感じたろ?」
「確かに、理不尽なまでに強かったですね」
平静を装って——というよりも平静そのものの態度で会話に応じるクッタ。
何でもない会話のようだが、ヴィレは叫びだしたい気分だった。
——相性が悪い? 倒せない!? ふざけんな!
倒せない、と断言されてしまえば計画は根底から崩れる。
腐っても元B級のユザークが、C級のメタルリザードを倒せないとは思わなかったのだ。しかも、口ぶりからすれば弱らせたり、ダメージを与えることすら難しそうだった。
——どうする?
焦りを含んだ視線をクッタに向ければ、ぞっとするほど冷たい視線で睨み返される。
思わずヴィレが固まったところで、パン、と乾いた破裂音が森に響き渡った。
「何の音だ?」
「ゾンです。この音は何か異変があったって合図ですね」
それぞれが武器を構える。流石に元B級だけあってギルド長は動揺など欠片もなく護身用というにはあまりにも厳ついハンマーを握っていた。
吠声に続いてバキバキと森そのものが砕けるような轟音が響く。
「た、助けてくれェ!!」
ゾンが飛び出してきた。
涙目なのは演技でもなんでもなく、自らの実力では追い払うことも、逃げ切ることもできない相手を釣り出してきたせいである。
「クソ、ミスったな!? 俺の後ろに退避、さっさと体制を立て直せ!」
思わずギルド長がメタルリザードに向き直ると同時。
——ぞぶり。
ギルド長の肩口にクッタの剣が突き刺さった。
「ちっ!」
「ぐぅ!? クッタ、お前何を——」
「何で背後からの一撃を避けられるんだよ!」
クッタは吐き捨てながらもとどめを刺そうと再び剣を振るう。
「舐めるなッ!」
本来ならば大振りなはずのハンマーでクッタの片手剣を弾いたユザーク。肩口から血液を滴らせながらも大きく飛び退いてメタルリザードの突進も避けてみせた。
クッタ・ヴィレ・ゾンの三人もメタルリザードを何とか避けたが、大きく体制を崩していた。
手負いのユザークよりも余裕がない辺りが、実力を物語っていた。
「どういうつもりか聞かせてもらうぞ」
「どうもこうもねぇ。死んでもらう」
「ヴィレ、ゾン。お前らもか?」
「す、すみませんっ!」
「クソ、こうなったらやってやる!」
三人が武器を構えたことを確認し、ギリ、と奥歯をかみしめたユザーク。相性の悪いメタルリザードを相手にする羽目になったばかりか、味方のはずの三人に裏切られ、不意打ちで肩を貫かれたのだ。
状況はかなり悪かった。
が。
——メタルリザードが戻って来ねぇ。
本来ならば獲物に対してどこまでも食らいついてくる魔物のはずだ。
それが、血の匂いをさせたユザークや、怒らせたゾンを無視してどこかに突進していく。ヴィレが道中に仕掛けた魔物寄せにつられて突撃しているのだが、ユザークがそれを知っているはずもない。
——何だか分からねぇが、好機だな。
腐っても元B級冒険者。D級に毛が生えた程度の冒険者は、何人集まろうと負ける気はしなかった。
ハンマーを握りなおして大きく息を吸う。
「ボコボコにして全部吐かせる。覚悟しろガキども」
夜の森に、焚火の炎が浮かび上がる。夜闇を切り取るにはあまりにもか細い光を囲んでいるのは冒険者ギルドの長であるユザークと、メタルリザードを討伐に来た三人組である。
斥候を担うゾンの姿は見えない。
用を足すついでに捕捉したメタルリザードの様子を見てくる、と言ってしばらく前に消えていた。
「夜まで待って、か。まぁメタルリザードは冷えれば多少動きが鈍るが……お前らは暗いところでも連携できるのか?」
「で、出来ます。なぁ、クッタ?」
「ああ。それよりギルド長はフル装備じゃなくて良かったんで?」
クッタの視線の先、ユザークがすぐ近くに置いたハンマーへと視線を向ける。
総金属製、超重量を叩きつける一撃はユザークの二つ名”鉄塊”の由来だった。
「俺を戦力としてカウントしちまったら、お前らの成長に繋がらないからな。コレさえありゃ自衛くらいは出来るから、まぁ気にすんな」
がはは、と笑いながらハンマーを叩くユザーク。そこに三人を疑う様子は欠片も見られない。
——この人を殺すのか。
ヴィレの中に罪悪感が生まれるが、既に止まれる段階ではない。
何しろゾンはメタルリザードを釣り出しに行っているし、ヴィレ自身、ここに来るまでに魔物寄せの薬をこまめに撒いてきたのだ。
偵察に失敗した振りをしてユザークにメタルリザードをぶつける。理想は相打ちだが、どちらが生き残るにせよ、無事では済まないはずである。
生き残った方を三人で殺すというのがクッタの計画だった。
道中に撒いた魔物寄せは万が一、計画が露見したり失敗したとき、ユザークが街に戻るのを阻害するための保険だ。
「ちなみにギルド長はソロでメタルリザードを討伐できますか?」
「全盛期なら……と言いたいところだが山ほどアイテムをつぎ込まないと無理だな。魔法が使えない完全前衛とメタルリザードは相性が悪い。お前らも前回の討伐時に感じたろ?」
「確かに、理不尽なまでに強かったですね」
平静を装って——というよりも平静そのものの態度で会話に応じるクッタ。
何でもない会話のようだが、ヴィレは叫びだしたい気分だった。
——相性が悪い? 倒せない!? ふざけんな!
倒せない、と断言されてしまえば計画は根底から崩れる。
腐っても元B級のユザークが、C級のメタルリザードを倒せないとは思わなかったのだ。しかも、口ぶりからすれば弱らせたり、ダメージを与えることすら難しそうだった。
——どうする?
焦りを含んだ視線をクッタに向ければ、ぞっとするほど冷たい視線で睨み返される。
思わずヴィレが固まったところで、パン、と乾いた破裂音が森に響き渡った。
「何の音だ?」
「ゾンです。この音は何か異変があったって合図ですね」
それぞれが武器を構える。流石に元B級だけあってギルド長は動揺など欠片もなく護身用というにはあまりにも厳ついハンマーを握っていた。
吠声に続いてバキバキと森そのものが砕けるような轟音が響く。
「た、助けてくれェ!!」
ゾンが飛び出してきた。
涙目なのは演技でもなんでもなく、自らの実力では追い払うことも、逃げ切ることもできない相手を釣り出してきたせいである。
「クソ、ミスったな!? 俺の後ろに退避、さっさと体制を立て直せ!」
思わずギルド長がメタルリザードに向き直ると同時。
——ぞぶり。
ギルド長の肩口にクッタの剣が突き刺さった。
「ちっ!」
「ぐぅ!? クッタ、お前何を——」
「何で背後からの一撃を避けられるんだよ!」
クッタは吐き捨てながらもとどめを刺そうと再び剣を振るう。
「舐めるなッ!」
本来ならば大振りなはずのハンマーでクッタの片手剣を弾いたユザーク。肩口から血液を滴らせながらも大きく飛び退いてメタルリザードの突進も避けてみせた。
クッタ・ヴィレ・ゾンの三人もメタルリザードを何とか避けたが、大きく体制を崩していた。
手負いのユザークよりも余裕がない辺りが、実力を物語っていた。
「どういうつもりか聞かせてもらうぞ」
「どうもこうもねぇ。死んでもらう」
「ヴィレ、ゾン。お前らもか?」
「す、すみませんっ!」
「クソ、こうなったらやってやる!」
三人が武器を構えたことを確認し、ギリ、と奥歯をかみしめたユザーク。相性の悪いメタルリザードを相手にする羽目になったばかりか、味方のはずの三人に裏切られ、不意打ちで肩を貫かれたのだ。
状況はかなり悪かった。
が。
——メタルリザードが戻って来ねぇ。
本来ならば獲物に対してどこまでも食らいついてくる魔物のはずだ。
それが、血の匂いをさせたユザークや、怒らせたゾンを無視してどこかに突進していく。ヴィレが道中に仕掛けた魔物寄せにつられて突撃しているのだが、ユザークがそれを知っているはずもない。
——何だか分からねぇが、好機だな。
腐っても元B級冒険者。D級に毛が生えた程度の冒険者は、何人集まろうと負ける気はしなかった。
ハンマーを握りなおして大きく息を吸う。
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