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まだまだトラブル1

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本日は3話更新予定です。お楽しみいただけたら幸いです。



 目を覚ました時、私は革張りのソファに横たえられていた。ふかふかのソファは体が溶けちゃうんじゃないかってくらい気持ちよかったけれど、そのままだらっと寝ているわけにはいかない。

——ノノが怒っていたから。

「ですから、何度も申し上げている通りメタルリザードはお嬢様が討伐したのです!」
「メタルリザードはCランクでも硬いことで有名な魔物だ。ゴブリンにだって負けそうなお嬢ちゃんが倒したって言われても信用できねぇな」

 向かい側のソファでノノと相対しているのは髭を蓄えたおじさん。でっぷりと大きなお腹に丸太みたいな腕をしていた。
 おじさんの隣には茶髪のイケメンが座っていたけれど、面白そうにノノとおじさんを見つめるだけで何も行動を起こす様子はない。
 ……どういう状況?

『説明:グレアランド帝国、国境付近に位置する城塞都市ヴェントの冒険者ギルド支部です。冒険者登録のついでにメタルリザード討伐を報告したところ、支部長に呼ばれて不正や虚偽を疑われています』

 なるほど。

「えっと、おはようございます」
「お嬢様!」
「……起きたか」

 心配そうに私を伺うノノと、呆れと疑いの入り混じった視線を向ける支部長のおじさん。最前線で兵士たちから向けられていたものに似た感情に、吐き気がこみ上げ、体が震える。
 魔力光が漏れないように自らに回復魔法を掛けて何とか耐える。
 
「お前さんの侍女が、魔法でメタルリザードを討伐したって言うんだけど、心当たりはあるか?」
「た、確かに討伐しました」
「……はぁ。まだ昼寝中か? 寝言は寝て言え」

 侮蔑混じりの溜息は、私たちが嘘つきであると断定していた。

「……メタルリザードの件ですが、私たちになすりつけてきた冒険者からは何も聞いていないのですか?」
「なすりつけて……? いや、大樹林付近の草原でメタルリザードを撒いたって報告は来ているが」
「三人組の冒険者。男だけで剣士と弓士と斥候。弓士は頬に傷」
「アイツらを知っているのか?」
「知っているも何も、激高したメタルリザードを押し付けられたと申し上げています」
「……一応、あいつらにもう一度話を聞いてきてやる」

 ノノが説明するとおじさんはさっさと外に出ていく。
 ざわめきが一瞬だけ聞こえたけれど、扉をしめると同時に驚くほど静かになった。

「防音系の魔道具です。珍しいですか?」
「えっと……あなたは?」
「申し遅れました。私は商人ギルド連盟にて天秤会議の第八席を拝命しております、ロンド・デンパルティアと申します」

 人当たりのよさそうな笑み。友好的にしようとしてくれているのを感じたので、私とノノも身分を隠して自己紹介をした。
 何かごたごたした肩書がいっぱいついていたので訊ねてみれば、多少の驚きとともに説明してくれた。
 冒険者ギルドが傭兵や対魔物のスペシャリストを束ねる組織ならば、商人ギルド連盟は世界中の商人を束ねる組織とのこと。

「ギルド連盟全体の動きを把握したり、不正をチェックするのが天秤会議です」

 これでも偉い人なんですよ、と笑う姿はどこまでが本気なのか分かりづらかったけれど、ざっくり『商人の偉い人』と覚えておけば間違いないだろう。
 商売なんてできる気がしないし、きっとこの場限りの関係になるだろう。

「例えばの話ですが。このままメタルリザードの討伐が認められず、マリアベル様とノノ様の望む展開にならなかったとしても冒険者登録はするつもりですか?」
「えっと、魔物の素材や魔石を売却したいのでそのつもりです。身分証も欲しいです」
「売却したいだけならば商人ギルドも受け付けていますし、商人ギルドのギルドカードでも身分証になりますよ」

 にっこりを微笑んだロンドさんの言葉にノノが反応した。

「つまり、ロンド様はここからさらに揉めると予想されているのですか?」
「うん。冒険者ギルド支部長のユザークは熱血漢だし悪いやつじゃないんですけど、視野が狭いし、思い込みも激しいんです。叩き上げで元Aランク冒険者なので身内びいきもありますしね」

 どういう意味か訊ねようとしたところで、ドアが乱暴に開かれた。
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