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番外編:アンダンテな恋をして
第09話 精霊姫の祝福
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「私程度では叶えられないと?」
スカーレット女王の棘のある質問にしかし、ルーカスは視線を逸らさない。
「我が望みは、意中の女性のこころにございます。ですので、陛下といえども自由になるものではありますまい」
ルーカスの言葉に、スカーレットが破顔する。
それまでの威圧感が嘘のように、声をあげて笑う。
「それは失礼をした。驕っていたな。たしかに、如何な権力があろうと人のこころはどうにもならぬ。では、こうしよう」
女王が参加者に向けて宣言する。
「そなたが誰かと結ばれるとき。相手が村娘だろうと敵対国の姫だろうと、絶対に駆けつけ祝福する。邪魔する者がいれば、私の力が及ぶ限り取り除いてやる」
「有難き幸せにございます」
そのまま功労者の紹介が続いていき、全員が下賜品の目録を受け取り終えた。
「誰もが国を支える英雄たちと縁を結び、そして英雄譚を聞きたがるだろう。堅苦しいのはここまでにして、皆で楽しもう」
女王の言葉に続いて楽団が明るい曲を奏で始めた。
本来ならばここで女王や王太子たるエルネストが動き始めるのを待つのが礼儀だ。貴族たちがそわそわしながら自由になるのを待っているところで、しかし両者ともに動かなかった。
少しずつ困惑が広がっていく中で代わりに立ち上がったのはルーカスだ。
ツカツカと列席者達に歩み寄り、そのそばに控えていたシトリーの前に跪く。
「シトリー、聞いてたか?」
屈託のない笑みを浮かべたルーカスに、ソフィアの背後で動揺が起こった。
「ルーカス! 何を礼儀知らずなふるまいをしてるんですか! あなたって人はいつもいつも、」
「良かった。名前、覚えててくれたな」
「ばっ、馬鹿ですか!?」
「騎士団長になるぞ」
「……聞きました」
ルーカスが跪き、シトリーに手を伸ばした。
「一目見た時から好きでした。私と付き合っていただけませんか?」
「ッ!」
ルーカスの言葉に、会場中の視線が集まった。
思わずシトリーが言葉に詰まれば、ぱちぱちと拍手が響く。
音のする方へ視線を向ければ、スカーレット女王が満面の笑みとともに手を叩いていた。いたずらっぽい笑みを浮かべながら、ソフィアに向けてウインクもしていた。
ルーカスの手を見つめながらも動けずにいるシトリー。その想いを応援するために、ソフィアは自らを奮い立たせた。
「トト、お願い」
『はいはい。任せなさいな』
小さな声でトトに頼み事をすると、ソフィアも立ち上がった。
「精霊姫の名において、お二人の行く末を祝福します」
ぽわ、と小さな灯が生まれた。
トトが作り出した、小さな光だ。
それは二人を取り囲むように次々と浮かび上がり、そして会場に広がっていく。
「答えを聞かせてくれ」
「……馬鹿ですか。こんな大勢の前で。女王陛下からも拍手を頂いて。……断れるわけないじゃないですか」
「馬鹿じゃない。策士って言ってくれ」
手を取ったシトリーを引き寄せたルーカスは、そのまま彼女を抱きしめた。
「好きだ。結婚してくれ」
「お断りします。今さっき付き合い始めたばかりでしょう」
「なら明日か? 明後日か?」
「馬鹿」
寄り添う二人に、会場が拍手に包まれた。
スカーレット女王の棘のある質問にしかし、ルーカスは視線を逸らさない。
「我が望みは、意中の女性のこころにございます。ですので、陛下といえども自由になるものではありますまい」
ルーカスの言葉に、スカーレットが破顔する。
それまでの威圧感が嘘のように、声をあげて笑う。
「それは失礼をした。驕っていたな。たしかに、如何な権力があろうと人のこころはどうにもならぬ。では、こうしよう」
女王が参加者に向けて宣言する。
「そなたが誰かと結ばれるとき。相手が村娘だろうと敵対国の姫だろうと、絶対に駆けつけ祝福する。邪魔する者がいれば、私の力が及ぶ限り取り除いてやる」
「有難き幸せにございます」
そのまま功労者の紹介が続いていき、全員が下賜品の目録を受け取り終えた。
「誰もが国を支える英雄たちと縁を結び、そして英雄譚を聞きたがるだろう。堅苦しいのはここまでにして、皆で楽しもう」
女王の言葉に続いて楽団が明るい曲を奏で始めた。
本来ならばここで女王や王太子たるエルネストが動き始めるのを待つのが礼儀だ。貴族たちがそわそわしながら自由になるのを待っているところで、しかし両者ともに動かなかった。
少しずつ困惑が広がっていく中で代わりに立ち上がったのはルーカスだ。
ツカツカと列席者達に歩み寄り、そのそばに控えていたシトリーの前に跪く。
「シトリー、聞いてたか?」
屈託のない笑みを浮かべたルーカスに、ソフィアの背後で動揺が起こった。
「ルーカス! 何を礼儀知らずなふるまいをしてるんですか! あなたって人はいつもいつも、」
「良かった。名前、覚えててくれたな」
「ばっ、馬鹿ですか!?」
「騎士団長になるぞ」
「……聞きました」
ルーカスが跪き、シトリーに手を伸ばした。
「一目見た時から好きでした。私と付き合っていただけませんか?」
「ッ!」
ルーカスの言葉に、会場中の視線が集まった。
思わずシトリーが言葉に詰まれば、ぱちぱちと拍手が響く。
音のする方へ視線を向ければ、スカーレット女王が満面の笑みとともに手を叩いていた。いたずらっぽい笑みを浮かべながら、ソフィアに向けてウインクもしていた。
ルーカスの手を見つめながらも動けずにいるシトリー。その想いを応援するために、ソフィアは自らを奮い立たせた。
「トト、お願い」
『はいはい。任せなさいな』
小さな声でトトに頼み事をすると、ソフィアも立ち上がった。
「精霊姫の名において、お二人の行く末を祝福します」
ぽわ、と小さな灯が生まれた。
トトが作り出した、小さな光だ。
それは二人を取り囲むように次々と浮かび上がり、そして会場に広がっていく。
「答えを聞かせてくれ」
「……馬鹿ですか。こんな大勢の前で。女王陛下からも拍手を頂いて。……断れるわけないじゃないですか」
「馬鹿じゃない。策士って言ってくれ」
手を取ったシトリーを引き寄せたルーカスは、そのまま彼女を抱きしめた。
「好きだ。結婚してくれ」
「お断りします。今さっき付き合い始めたばかりでしょう」
「なら明日か? 明後日か?」
「馬鹿」
寄り添う二人に、会場が拍手に包まれた。
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