15 / 15
最終話
しおりを挟む
「いやぁ、朝晩のアニマルテラピーは効きますね。もうお肌の調子が全然違います」
アリシアの部屋。
アリシアは巨狼から人間の姿へと転じたアルフレッドとともにリリーの淹れた紅茶を飲んでいた。
「お嬢様。ご本人を前にアニマルテラピー扱いはさすがに」
「……それは諦めたからもう良いが」
「が?」
「俺も癒されたいな」
言いながら、アルフレッドがアリシアの首筋へと顔を寄せた。
「ちょっと。何をなさるんですの?」
「かぐわしい香りで癒されようと思ってな」
「匂いフェチですか?」
「ああそうだ」
肯定されてしまい、アリシアが言葉に詰まる。
「アリシアの魂の香りは、頭の芯が痺れるほどにかぐわしいからな」
「り、リリー! 止めなさい! 婚姻前の主の危機ですよ!? こんな危険な人物を──!」
良い笑顔でサムズアップするリリーだが、入口に向かっていく。
丁度ガチャリと開いたドアからエリスが中を覗こうとして、
「駄目ですよエリス様。アリシア様が食べられてしまいそうなショッキングな場面ですから絶対にお見せできません」
「エッ!? お、お姉様が……ほ、本当に!? 助けなきゃ!」
「いえいえ。アルフレッド閣下はある意味ケダモノですが紳士ですので、命の危険がある食べ方はしません」
平民たちが口にしそうな下品な比喩表現を使うが、お嬢様育ちのエリスには通じない。
それが通じるのは大衆小説を読むのが趣味のアリシアである。
「リリー! 余計なことを言わないで!」
「ですからエリス様は私と向こうにいきましょうね」
「で、ですがお姉様が! 私が意地悪をいったばっかりに……!」
「夜には姿を見せてくれるでしょうし大丈夫ですよ。歩けるかは怪しいですけど」
「ま、まさかお姉様は足を食べられちゃうの!?」
「いえいえ。そういう意味では──」
「リリ────────────ッ!」
アリシアの絶叫を背に、リリーはエリスと退室した。
残されたのは、魂の香りを堪能している狼と、がっちり捕まって身動きの取れないアリシアだけである。
「気の利く侍女だな」
「気の利かない侍女です!」
「これはもうフローライト家の総意と受け取っても──」
「フンッ」
「痛ッ! 足を踏むな足を! それピンヒールだろう!?」
「ケダモノにはこれくらいで丁度良いです!」
自由になったアリシアが睨みつければアルフレッドは苦笑いで応じた。
「……まったく思い通りになってくれないな、アリシアは」
「ええ当たり前です」
舌をちろりと出し、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そう簡単に、思い通りになどなりませんからね」
アリシアの部屋。
アリシアは巨狼から人間の姿へと転じたアルフレッドとともにリリーの淹れた紅茶を飲んでいた。
「お嬢様。ご本人を前にアニマルテラピー扱いはさすがに」
「……それは諦めたからもう良いが」
「が?」
「俺も癒されたいな」
言いながら、アルフレッドがアリシアの首筋へと顔を寄せた。
「ちょっと。何をなさるんですの?」
「かぐわしい香りで癒されようと思ってな」
「匂いフェチですか?」
「ああそうだ」
肯定されてしまい、アリシアが言葉に詰まる。
「アリシアの魂の香りは、頭の芯が痺れるほどにかぐわしいからな」
「り、リリー! 止めなさい! 婚姻前の主の危機ですよ!? こんな危険な人物を──!」
良い笑顔でサムズアップするリリーだが、入口に向かっていく。
丁度ガチャリと開いたドアからエリスが中を覗こうとして、
「駄目ですよエリス様。アリシア様が食べられてしまいそうなショッキングな場面ですから絶対にお見せできません」
「エッ!? お、お姉様が……ほ、本当に!? 助けなきゃ!」
「いえいえ。アルフレッド閣下はある意味ケダモノですが紳士ですので、命の危険がある食べ方はしません」
平民たちが口にしそうな下品な比喩表現を使うが、お嬢様育ちのエリスには通じない。
それが通じるのは大衆小説を読むのが趣味のアリシアである。
「リリー! 余計なことを言わないで!」
「ですからエリス様は私と向こうにいきましょうね」
「で、ですがお姉様が! 私が意地悪をいったばっかりに……!」
「夜には姿を見せてくれるでしょうし大丈夫ですよ。歩けるかは怪しいですけど」
「ま、まさかお姉様は足を食べられちゃうの!?」
「いえいえ。そういう意味では──」
「リリ────────────ッ!」
アリシアの絶叫を背に、リリーはエリスと退室した。
残されたのは、魂の香りを堪能している狼と、がっちり捕まって身動きの取れないアリシアだけである。
「気の利く侍女だな」
「気の利かない侍女です!」
「これはもうフローライト家の総意と受け取っても──」
「フンッ」
「痛ッ! 足を踏むな足を! それピンヒールだろう!?」
「ケダモノにはこれくらいで丁度良いです!」
自由になったアリシアが睨みつければアルフレッドは苦笑いで応じた。
「……まったく思い通りになってくれないな、アリシアは」
「ええ当たり前です」
舌をちろりと出し、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そう簡単に、思い通りになどなりませんからね」
11
お気に入りに追加
352
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(5件)
あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。

【完結】己の行動を振り返った悪役令嬢、猛省したのでやり直します!
みなと
恋愛
「思い出した…」
稀代の悪女と呼ばれた公爵家令嬢。
だが、彼女は思い出してしまった。前世の己の行いの数々を。
そして、殺されてしまったことも。
「そうはなりたくないわね。まずは王太子殿下との婚約解消からいたしましょうか」
冷静に前世を思い返して、己の悪行に頭を抱えてしまうナディスであったが、とりあえず出来ることから一つずつ前世と行動を変えようと決意。
その結果はいかに?!
※小説家になろうでも公開中
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ゴードンが!!え、嘘でしょっ!?
ほ、ほんとなんですか馬鹿のふりしてたって
あ、おもしろかったです。
さすがに王族ですしね!
……現役で国王やってる父親に「一番似てる」がアッパラパー系じゃなくて悪巧み系だったわけです!
お読みいただきありがとうございました!
楽しんでいただけてなによりです><
修正ありがとうございます😊
テンポのいいお話でストレスなく最後まで楽しく読めました!ヒロイン最強www
コレで完結なのが名残惜しいです。
次回作楽しみにしてます( *´꒳`* )
読破していただきありがとうございます!
絶対に負けないヒロインが最後の最後まで“思いどおりにならない”姿、楽しんでいただけたようで何よりです!
もともとは息抜きで3000文字くらいのよていだったんですけども、筆がのって10倍弱に膨らみました。
また何か書けましたら投稿しますので、目を通していただけたら幸いです><
では、次回作でお会いしましょう!
エリス可愛い(*´ω`*)
ありがとうございます!
姉妹仲が悪いのもなんか悲しいので、今回は喧嘩するほど仲が良い、という形にしました!
アリシアも好きすぎていじめちゃうんですよねきっと!