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第9話 Splash!!
Chapter-49
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『Hy, マホコ』
朱鷺光の作業部屋。
朱鷺光の作業用PCの2号機に、ライブチャット用のカメラとスタンドマイクが取り付けてあり、モニタの前に長方形のあんまし高級そうではないスピーカーが置かれている。
ちなみに、普段朱鷺光がメインで使っている方の機体とは、ほとんど同じ構成だが、グラフィックボードにメイン機はRadeon、2号機はGeForceの、それぞれ同価格帯のものを搭載している。
他にメイン機はデュアルモニタだが、2号機は4:3の17インチモニタ1台だけだ。
閑話休題。
『Good Morning……と言いたいところだけれども、今そちらはもう夜も遅い時間になるんだったね』
モニターの中のチャットウィンドウに表示されたアデウスが、PCのスピーカー越しにそう言ってくる。
「はい、そうですね。あいにくこの部屋には窓らしい窓がないんですけど」
『Hum…見たところそこはトキヒロの私的研究室というところかな?』
カメラの正面に座る真帆子の、その背景を見て、チャットウィンドウの向こう側のアデウスはそう言った。
「ええ、本人は作業部屋、とか言ってますけどね。工具類も多くおいてあるし。エアーコンプレッサーもあるし」
『なるほど、Workspace というわけか。科学者というよりは技術者気質のトキヒロらしいというべきだね』
真帆子が芝居混じりに室内を見渡すようにして言うと、アデウスが笑い飛ばすように言った。
「それで博士、その……博士も謎の集団に襲われたと訊いたのですが」
真帆子は、気になっていた肝心の部分を疑問としてぶつけてみた。
『先週の東京のSymposiumでのことだね……確かに私が狙われたようだ。トキヒロは自分の自動車をとりに1人で駐車場まで歩いたのだが、襲われたのは彼ではなかったのだからね』
アデウスは、先程までの陽気そうな表情から一転、険しい表情になって、そう言った。
「私の件とは、やはり関わりがあるのでしょうか?」
真帆子はアデウスに訊ねた。
真帆子が武装した暴漢に襲われた件に関しては、UWDに報告してある。
ただし、それは朱鷺光とアデウスが会食して、アデウスが襲撃された事件のあった日より、後のことだが。
今は左文字家で寝泊まりしていることも、その時に伝えてあった。
『Hum……確かにProject MELONPARKの関係者が襲われたという意味では一致しているかも知れないね』
アデウスも難しい顔のまま、そう言った。
「この後どうすべきでしょうか……左文字博士は性急にアメリカに戻らない方が良いと言ってきているのですが」
『私にも難しい判断だが、トキヒロがそう言っているのならそうした方が良いかも知れないね』
真帆子は少し困惑した様子の表情でアデウスに訊ねるが、アデウスは険しい表情のまま、そう答えた。
『この際、Long vacation だと思って休むのも良いかも知れないよ、マホコ』
「いえ、左文字博士にこうしてテレワークの態勢を整えてもらったので、できるだけリモートで参加したいと考えています」
ようやく冗談めかして笑うアデウスに対し、真帆子は軽くため息をつくような様子で言い返した。
「それに、ここの設備からなら、ナホのメンテナンスも充分に可能ですし」
『なるほど。ナホのServerのHardwareはこちらでしっかり整備しているよ。それでは、君は引き続き日本からナホの調整とSamplingを行ってくれ』
「はい、わかりました」
ようやく晴れたような顔で言う、モニターの向こうのアデウスに対し、真帆子はどこか釈然としないような様子を残しつつも、そう言った。
『なにか悩んでいるのかね?』
「いえ、ただ、非日常的なことが続いたので、おそらく思考が不安定になっているんだと思います」
アデウスの問いかけに、真帆子はそう言って、ようやく苦笑した。
『ところで、その部屋の主は今、どこに言ったのかな』
「左文字博士、ですか?」
ちょうど、アデウスがそう言ったのを、見計らったかのように、
「お待ちどうさま」
と、朱鷺光が、小さなトレイにコーヒーカップ2つを乗せて、作業部屋に入ってきた。
「ああ、左文字博士、丁度あなたの話をしていたところだったの」
「んー、まだ話し中だったのか。邪魔しちゃったかな」
朱鷺光は言い、OAローデスクの、自分用の作業用PCの前のOA座椅子に腰を下ろした。
『HAHAHA、トキヒロも元気そうな声だね』
「こりゃどーも失礼」
アデウスの言葉に、朱鷺光は、PCと真帆子の間に割り込むようにして、カメラの視角の中に1回入った。
「残念ですが、アレックスにはコーヒーを用意することはできませんが」
朱鷺光は、戯けた表情でそう言ってから、割り込んでいた場所から退く。
『いやいや。マホコに急いでアメリカに戻らないように言ったそうだね?』
「ええ、まぁ、ちょっと俺の知り合いにも物騒なことがありましたし、ここに居るのが一番安全かな、と」
朱鷺光がアデウスと話している間、真帆子はコーヒーに砂糖を落とし、かき混ぜる。
そして、それを口に運んだ。
──温い。
朱鷺光が猫舌だというのは弘介やファイたちから聞いて知っていたが、それにしても、コーヒーメーカーで淹れたばかりのコーヒーにしては妙に冷めていた。
『ここというのは、トキヒロの家の事かね?』
「ええ、まぁ。一応セキュリティ会社とも契約してますし、自衛の手段もありますんで」
アデウスの問いかけに、朱鷺光は惚けまじりにそう答えた。
『Hum……その話は、マホコにはトキヒロに従った方が良いとは言ったところだったんだけどね』
「おっと、そうだったんですか。じゃあ、こちらとしても、しっかりお預かりしますんで」
朱鷺光は、カメラの視角には無理に入らず、その場で苦笑して、そう言った。
『ではマホコ、先程も言ったが引き続きProject BAMBOOのSamplingとRemoteでのナホの調整、よろしく頼むよ。何かあった時は……』
そう言いかけて、アデウスははっと思い出したように、
『君の携帯電話が通じないようだが……』
と、訊いてきた。
「あ、それは……」
「ああ、真帆子さんが襲撃された時に、壊れちゃったみたいなんですよ」
言葉に詰まりかけた真帆子の脇から、朱鷺光が割り込むようにしてそう言った。
『oh……そうだったのか。それでは仕方ないね』
「急ぎならうちの家電……えっと、NTTの回線の方に。番号は……」
朱鷺光はそう言って、アデウスに自宅の電話番号を伝えた。
「ま、基本的に誰か出ますんで」
『オーケー』
それを伝えて、朱鷺光はまた引っ込んだ。
『では、マホコ、トキヒロも、そちらはGoodnight、だったね』
「ええ、See again」
そう、アデウスと挨拶を交わして、真帆子はライブチャットを終了した。
「…………どこから聞いていたの?」
ライブチャットのクライアントソフトを、完全に落としながら、真帆子は朱鷺光の方に視線は向けず、そう訊ねた。
「アデウス博士も襲われた、のあたりかな」
朱鷺光はそう言って、コーヒーを啜る。
「実際、どう思った?」
「うーん、アデウス博士が襲撃された件に関しては、まだ正直はっきりなんとも言えんからなぁ……」
真帆子の問いかけに、朱鷺光は困ったような声を上げて言う。
「シータの言う通り自作自演なら、間違いなくまたこっちにちょっかいかけてくるはずだから、それを様子見しているってところかねぇ」
朱鷺光は、自分の作業用PCのモニターに向かいながら、そう言って、軽くため息をついた。
「ひどく壮大で、ひどく単純で、その分根深い……ような、気がするけど」
「面白い事態になってきた。ナホを使ったR-1のデータ奪取は失敗に終わったと思っていたが、まだ結論づけるのは早いらしい」
朱鷺光の作業部屋。
朱鷺光の作業用PCの2号機に、ライブチャット用のカメラとスタンドマイクが取り付けてあり、モニタの前に長方形のあんまし高級そうではないスピーカーが置かれている。
ちなみに、普段朱鷺光がメインで使っている方の機体とは、ほとんど同じ構成だが、グラフィックボードにメイン機はRadeon、2号機はGeForceの、それぞれ同価格帯のものを搭載している。
他にメイン機はデュアルモニタだが、2号機は4:3の17インチモニタ1台だけだ。
閑話休題。
『Good Morning……と言いたいところだけれども、今そちらはもう夜も遅い時間になるんだったね』
モニターの中のチャットウィンドウに表示されたアデウスが、PCのスピーカー越しにそう言ってくる。
「はい、そうですね。あいにくこの部屋には窓らしい窓がないんですけど」
『Hum…見たところそこはトキヒロの私的研究室というところかな?』
カメラの正面に座る真帆子の、その背景を見て、チャットウィンドウの向こう側のアデウスはそう言った。
「ええ、本人は作業部屋、とか言ってますけどね。工具類も多くおいてあるし。エアーコンプレッサーもあるし」
『なるほど、Workspace というわけか。科学者というよりは技術者気質のトキヒロらしいというべきだね』
真帆子が芝居混じりに室内を見渡すようにして言うと、アデウスが笑い飛ばすように言った。
「それで博士、その……博士も謎の集団に襲われたと訊いたのですが」
真帆子は、気になっていた肝心の部分を疑問としてぶつけてみた。
『先週の東京のSymposiumでのことだね……確かに私が狙われたようだ。トキヒロは自分の自動車をとりに1人で駐車場まで歩いたのだが、襲われたのは彼ではなかったのだからね』
アデウスは、先程までの陽気そうな表情から一転、険しい表情になって、そう言った。
「私の件とは、やはり関わりがあるのでしょうか?」
真帆子はアデウスに訊ねた。
真帆子が武装した暴漢に襲われた件に関しては、UWDに報告してある。
ただし、それは朱鷺光とアデウスが会食して、アデウスが襲撃された事件のあった日より、後のことだが。
今は左文字家で寝泊まりしていることも、その時に伝えてあった。
『Hum……確かにProject MELONPARKの関係者が襲われたという意味では一致しているかも知れないね』
アデウスも難しい顔のまま、そう言った。
「この後どうすべきでしょうか……左文字博士は性急にアメリカに戻らない方が良いと言ってきているのですが」
『私にも難しい判断だが、トキヒロがそう言っているのならそうした方が良いかも知れないね』
真帆子は少し困惑した様子の表情でアデウスに訊ねるが、アデウスは険しい表情のまま、そう答えた。
『この際、Long vacation だと思って休むのも良いかも知れないよ、マホコ』
「いえ、左文字博士にこうしてテレワークの態勢を整えてもらったので、できるだけリモートで参加したいと考えています」
ようやく冗談めかして笑うアデウスに対し、真帆子は軽くため息をつくような様子で言い返した。
「それに、ここの設備からなら、ナホのメンテナンスも充分に可能ですし」
『なるほど。ナホのServerのHardwareはこちらでしっかり整備しているよ。それでは、君は引き続き日本からナホの調整とSamplingを行ってくれ』
「はい、わかりました」
ようやく晴れたような顔で言う、モニターの向こうのアデウスに対し、真帆子はどこか釈然としないような様子を残しつつも、そう言った。
『なにか悩んでいるのかね?』
「いえ、ただ、非日常的なことが続いたので、おそらく思考が不安定になっているんだと思います」
アデウスの問いかけに、真帆子はそう言って、ようやく苦笑した。
『ところで、その部屋の主は今、どこに言ったのかな』
「左文字博士、ですか?」
ちょうど、アデウスがそう言ったのを、見計らったかのように、
「お待ちどうさま」
と、朱鷺光が、小さなトレイにコーヒーカップ2つを乗せて、作業部屋に入ってきた。
「ああ、左文字博士、丁度あなたの話をしていたところだったの」
「んー、まだ話し中だったのか。邪魔しちゃったかな」
朱鷺光は言い、OAローデスクの、自分用の作業用PCの前のOA座椅子に腰を下ろした。
『HAHAHA、トキヒロも元気そうな声だね』
「こりゃどーも失礼」
アデウスの言葉に、朱鷺光は、PCと真帆子の間に割り込むようにして、カメラの視角の中に1回入った。
「残念ですが、アレックスにはコーヒーを用意することはできませんが」
朱鷺光は、戯けた表情でそう言ってから、割り込んでいた場所から退く。
『いやいや。マホコに急いでアメリカに戻らないように言ったそうだね?』
「ええ、まぁ、ちょっと俺の知り合いにも物騒なことがありましたし、ここに居るのが一番安全かな、と」
朱鷺光がアデウスと話している間、真帆子はコーヒーに砂糖を落とし、かき混ぜる。
そして、それを口に運んだ。
──温い。
朱鷺光が猫舌だというのは弘介やファイたちから聞いて知っていたが、それにしても、コーヒーメーカーで淹れたばかりのコーヒーにしては妙に冷めていた。
『ここというのは、トキヒロの家の事かね?』
「ええ、まぁ。一応セキュリティ会社とも契約してますし、自衛の手段もありますんで」
アデウスの問いかけに、朱鷺光は惚けまじりにそう答えた。
『Hum……その話は、マホコにはトキヒロに従った方が良いとは言ったところだったんだけどね』
「おっと、そうだったんですか。じゃあ、こちらとしても、しっかりお預かりしますんで」
朱鷺光は、カメラの視角には無理に入らず、その場で苦笑して、そう言った。
『ではマホコ、先程も言ったが引き続きProject BAMBOOのSamplingとRemoteでのナホの調整、よろしく頼むよ。何かあった時は……』
そう言いかけて、アデウスははっと思い出したように、
『君の携帯電話が通じないようだが……』
と、訊いてきた。
「あ、それは……」
「ああ、真帆子さんが襲撃された時に、壊れちゃったみたいなんですよ」
言葉に詰まりかけた真帆子の脇から、朱鷺光が割り込むようにしてそう言った。
『oh……そうだったのか。それでは仕方ないね』
「急ぎならうちの家電……えっと、NTTの回線の方に。番号は……」
朱鷺光はそう言って、アデウスに自宅の電話番号を伝えた。
「ま、基本的に誰か出ますんで」
『オーケー』
それを伝えて、朱鷺光はまた引っ込んだ。
『では、マホコ、トキヒロも、そちらはGoodnight、だったね』
「ええ、See again」
そう、アデウスと挨拶を交わして、真帆子はライブチャットを終了した。
「…………どこから聞いていたの?」
ライブチャットのクライアントソフトを、完全に落としながら、真帆子は朱鷺光の方に視線は向けず、そう訊ねた。
「アデウス博士も襲われた、のあたりかな」
朱鷺光はそう言って、コーヒーを啜る。
「実際、どう思った?」
「うーん、アデウス博士が襲撃された件に関しては、まだ正直はっきりなんとも言えんからなぁ……」
真帆子の問いかけに、朱鷺光は困ったような声を上げて言う。
「シータの言う通り自作自演なら、間違いなくまたこっちにちょっかいかけてくるはずだから、それを様子見しているってところかねぇ」
朱鷺光は、自分の作業用PCのモニターに向かいながら、そう言って、軽くため息をついた。
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