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第6話 Night Stalker (II)
Chapter-36
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「それで、結局の所、オムリンが逆ハックした相手っていうのはUWDだったのか?」
淳志が、朱鷺光に訊ねる。
「それだったら話がややこしくなくて済んだんだけどねぇ」
朱鷺光は苦笑しながらそう言うと、作業用PCのマウスを操作する。
「オムリンがTelnetでアクセスしようとした経路を辿ったら、ファイアウォールサーバが挟まってたわけなんだが、そのファイアウォールサーバを共有してたWebサーバがこれ」
朱鷺光がPCを操作していくと、Webブラウザが開いて、Webサイトが表示された。
『STRATEGIC PLANs FOCUSING』
「ストラト・フォー」
その表示されたWebサイトを見て、淳志は戦慄したような声を出した。
「まぁ、逆ハックの想定をしていない時点で詰めが甘いけどな」
「多分、データを送信した後は、オムリンにそのコードの痕跡を残さないつもりだったんだろうけど、その手前でふんづかまる想定をしていなかったみたいだな」
朱鷺光に、続けて弘介もニタニタ苦笑しながらそう言った。
「これでも、その平城って女はストラト・フォーに無関係だって言いきれるのかよ」
「言いきれはしないよ」
食って掛かるように言う淳志に対し、朱鷺光は困ったような顔をしながらそう答えた。
「俺は実際、関係はあまりないと睨んでるけど。そのあたりの話は直接関係した連中に聞いてみてから判断してもいいんじゃないかな」
「直接関係した連中?」
朱鷺光の言葉に、淳志は鸚鵡返し気味に言った。
朱鷺光達は作業部屋から、リビングへと移動する。
朱鷺光達の前に、向かい合うかたちで爽風、颯華、澄光が横に並んでいる。
「それで、その平城真帆子って人物について聞きたいんだが……」
「んー…………とりあえず言えるのは」
淳志が問いかけると、爽風が少し唸るような声を上げた後、
「合法ロリ?」
「は?」
と、答えた言葉に、朱鷺光と弘介、淳志が、目を点にした。
「ちっこくてね、オムリンより更に小さいのよ」
「あ、そうそう、それは確かに」
爽風の言葉に、颯華も同意の声を出した。
朱鷺光達は、最初、その言葉に唖然としたような様子を見せていたが、
「あ、なんか激しく他人事じゃない気分」
「朱鷺光もメガネないと未だに中高生だもんな」
と、朱鷺光が、少し疲れたような、口元の引きつった表情で言ったのに対し、弘介がニヤニヤ笑いながらそう言った。
「でも、平城先生は、直接関係してないと思ったんだけど、甘かったかなぁ」
爽風は表情を曇らせて、そう言った。
「いや、多分その見込は正しいと思うぞ」
「そうなの?」
朱鷺光がそう言うと、颯華が爽風とともに、身を乗り出すようにして、驚いたような声を出し、そう問い返すように言った。
「ついてはその件で……おいバカ」
「その呼び方はないと思うんだけどな!?」
朱鷺光が、澄光の方を向いてそう呼びかけると、澄光は抗議の声を上げるようにしてそう言った。
「しょうがないだろう、事実なんだから」
朱鷺光は、それでも不満なら肉体言語で語ろうか、とばかりに、指をパキパキと鳴らしながらそう言った。
「それで、その、Project BAMBOOのA.I.クライアントは、まだコンタクトできるのか?」
弘介は、朱鷺光の態度に苦笑しながら、澄光の方を見て、そう問いかけた。
「えっと、それは大丈夫だと思うけど……」
澄光は、そう言うと、スマートフォンの画面を点灯させて、Project BAMBOOのアプリを呼び出した。
『なに、澄光』
画面の中に表示されたナホは、楽しそうな様子で、澄光に問いかけた。
その画面を、爽風と颯華が覗き込もうとする。
「うわーっ、平城先生そっくり」
「本当だ」
爽風と颯華が、次々に声を上げた。
『お姉さんの爽風さんと、再従姉妹の颯華さんね。私の名前はナホ。よろしくお願いね』
ナホは、爽風と颯華にそう挨拶した。
「ごめん、兄貴にバレた」
『左文字朱鷺光博士に!?』
ナホがそう驚いたような顔を上げると、澄光は、観念したようにスマホを朱鷺光の方に向けた。
「はじめまして。君の名前はナホ……でいいのかな?」
『はじめまして、左文字朱鷺光博士。私はナホ、Project MELONPARKによるA.I.……ということは、説明するまでもないのよね?』
朱鷺光は、ナホに対し、穏やかな様子で挨拶をする。
すると、ナホの方も、特に慌てた様子もなく、朱鷺光の言葉に応えた。
「君のシステム管理者は誰かな」
『直接のシステム管理者は平城真帆子教授よ』
そのやり取りを見ていた、淳志と弘介の表情が険しくなる。
だが、朱鷺光は落ち着いたままの様子で、更に訊ねる。
「アームストロング・アデウス博士の事は知っているよな?」
『真帆子の上司……と、日本語でならそう言っていいのかしら』
「彼は君のシステム管理権限を持っている……そう考えていいのかな?」
『ええ、そうだけど、それがなにか?』
ナホは、それが何を意味するのかわからないと言った様子で、ただ、誤魔化すでもなく朱鷺光にそう答えてしまう。
「朱鷺光!?」
淳志が、驚いたような声を出す。
朱鷺光は、ニヤリと挑戦的に笑っていた。
取手中央高等学校
──ナホがR-1と接触できたのは良かったけど、今日は澄光君が登校していなかった、颯華さんも……一体何かあったのかしら?
平城真帆子は、放課後になり、書類を整理しながら、そう考えていた。
すると、真帆子のスマートフォンが、着信のバイブレーションを始めた。
「はい、…………私ですが」
真帆子は、電話を受ける。
「……Yes」
その電話の相手に合わせて、真帆子は、英語で話し始めた。
「……No problem, ……Yes, OK」
真帆子は、電話の相手にそう言って、電話を切ると、
「申し訳ありません、大学の方から至急の用件が入ってしまいましたので、早いですが今日は失礼します」
「はーい、おっつかれちゃーん」
男性の教諭がそう返事するのを聞きつつ、真帆子は教員室のロッカーから私物の荷物を取り出すと、教員用の出入り口へと向かった。
駅前好立地の取手中央高校だったが、逆に、学生の登下校時間帯以外は、ほとんど人気のない路地が、駅への最短経路になっていたりした。
その日も、すでに部活動のない生徒が下校する時間帯は過ぎ、そこは陽もあまり差し込まず、薄暗く狭い、人気のない路地になっていた。
「一体ナホに何があったのかしら……」
至急、ナホに対して認証の必要な修正をしてもらいたい。
入った電話の内容は、そういうものだった。
真帆子が駅へと急いで、その路地を速歩きで通っていた途中。
ガバッ
「!?」
突然、背後から羽交い締めにされた。
声を上げようにも、最初に口を塞がれている。
──一体、何、何があったの!?
真帆子が混乱しつつ、抵抗してもがこうとするが、相手は平均以上の男性のようで、力づくでは対抗しきれない。
バッ!
降ってきた影が、腕を真帆子の背中と男の間にねじ込んで、背後から羽交い締めにされていた真帆子から強引に剥がす。
その影は、真帆子を庇うように男との間に割って入ると、その後頭部から、ブレードタイプのアンテナ・センサーユニットが、ネコミミのようにあらわになった。
「あなたは……!?」
その姿を見て、真帆子が驚いたような声を出す。
イプシロンは、一瞬真帆子を振り返って、ニヤリと笑った。
「クソッ」
男は毒付きながら、手に拳銃を取り出す。
それを構えるより早く、イプシロンが動いていた。
「げぇっ」
男の首元を抑えるようにして押し倒しながら、強烈な握力で手首を握り、拳銃を取り上げる。
「伏せて!」
「え?」
イプシロンが言う。
真帆子が状況を理解できないままに身を低くすると、その直前まで真帆子の上半身があった場所を、ライフル弾が通過していった。
タンッ、タンッ
イプシロンが、男から取り上げた拳銃を発砲する。
「がぁっ!」
男の悲鳴とともに、雑木林の中で、何かが落下する音が聞こえた。
「駅へ、早く!」
「え、ええ」
イプシロンは、真帆子の背中を押すようにして、素早く路地を駆け抜け、拳銃をジャケットの内側に隠しつつ、取手駅東口の前まで駆け抜けた。
真帆子はショルダーバッグの中からパスケースを取り出すと、J-Style PASMOの定期券を自動改札機にかざし、駅の構内に入る。
続いて、イプシロンは右手を自動改札機の電子チケット用感応部にかざすと、自動改札機に“社員乗車券”の表示が出て、改札の中に入った。
「ここまでくれば大丈夫ね」
イプシロンは、改札の外を振り返りつつ、ふう、と息をついた。
「なにが……一体どうなってるのか、説明してもらいたいんだけど」
真帆子は前髪を掻きながらそう言った。
「申し訳ないけど、事情を説明してもらいたいのはこっちなの。それで、迎えに来たってところなんだけど……」
イプシロンは、少しきまり悪そうにしながら、そう言った。
「その相手は、左文字朱鷺光博士ね?」
真帆子は、イプシロンに問いただすようにそう言った。
「あなた、さっきのアンテナユニットといい、その銀髪といい……R.Seriesでしょう?」
真帆子はそう問いただした。すでにイプシロンのアンテナ・センサーユニットは、格納位置に下ろされている。
「ええ、R-4[EPSILON]」
「あなたが、R-4……」
R-1同様、それが存在することだけが公開されているR.Series。
「悪いけど、いえ、悪いようにはしないから、一緒に来てもらうわ」
イプシロンは、険しい表情で真帆子に言った。
「私がそうしなければならない理由は?」
真帆子はそれを問いかけるが、
「あなたはあなたの知らない間に、とんでもない企みに加わらされている。そして、それを朱鷺光さんが見破ったために、あなたという証拠を消去しようとしているの」
「それは────」
イプシロンの険しい物言いに、真帆子も険しい表情をする。
「ナホに、関係することなのね?」
「ええ、そうよ」
真帆子の問いかけに、イプシロンは、そう答えて頷いた。
淳志が、朱鷺光に訊ねる。
「それだったら話がややこしくなくて済んだんだけどねぇ」
朱鷺光は苦笑しながらそう言うと、作業用PCのマウスを操作する。
「オムリンがTelnetでアクセスしようとした経路を辿ったら、ファイアウォールサーバが挟まってたわけなんだが、そのファイアウォールサーバを共有してたWebサーバがこれ」
朱鷺光がPCを操作していくと、Webブラウザが開いて、Webサイトが表示された。
『STRATEGIC PLANs FOCUSING』
「ストラト・フォー」
その表示されたWebサイトを見て、淳志は戦慄したような声を出した。
「まぁ、逆ハックの想定をしていない時点で詰めが甘いけどな」
「多分、データを送信した後は、オムリンにそのコードの痕跡を残さないつもりだったんだろうけど、その手前でふんづかまる想定をしていなかったみたいだな」
朱鷺光に、続けて弘介もニタニタ苦笑しながらそう言った。
「これでも、その平城って女はストラト・フォーに無関係だって言いきれるのかよ」
「言いきれはしないよ」
食って掛かるように言う淳志に対し、朱鷺光は困ったような顔をしながらそう答えた。
「俺は実際、関係はあまりないと睨んでるけど。そのあたりの話は直接関係した連中に聞いてみてから判断してもいいんじゃないかな」
「直接関係した連中?」
朱鷺光の言葉に、淳志は鸚鵡返し気味に言った。
朱鷺光達は作業部屋から、リビングへと移動する。
朱鷺光達の前に、向かい合うかたちで爽風、颯華、澄光が横に並んでいる。
「それで、その平城真帆子って人物について聞きたいんだが……」
「んー…………とりあえず言えるのは」
淳志が問いかけると、爽風が少し唸るような声を上げた後、
「合法ロリ?」
「は?」
と、答えた言葉に、朱鷺光と弘介、淳志が、目を点にした。
「ちっこくてね、オムリンより更に小さいのよ」
「あ、そうそう、それは確かに」
爽風の言葉に、颯華も同意の声を出した。
朱鷺光達は、最初、その言葉に唖然としたような様子を見せていたが、
「あ、なんか激しく他人事じゃない気分」
「朱鷺光もメガネないと未だに中高生だもんな」
と、朱鷺光が、少し疲れたような、口元の引きつった表情で言ったのに対し、弘介がニヤニヤ笑いながらそう言った。
「でも、平城先生は、直接関係してないと思ったんだけど、甘かったかなぁ」
爽風は表情を曇らせて、そう言った。
「いや、多分その見込は正しいと思うぞ」
「そうなの?」
朱鷺光がそう言うと、颯華が爽風とともに、身を乗り出すようにして、驚いたような声を出し、そう問い返すように言った。
「ついてはその件で……おいバカ」
「その呼び方はないと思うんだけどな!?」
朱鷺光が、澄光の方を向いてそう呼びかけると、澄光は抗議の声を上げるようにしてそう言った。
「しょうがないだろう、事実なんだから」
朱鷺光は、それでも不満なら肉体言語で語ろうか、とばかりに、指をパキパキと鳴らしながらそう言った。
「それで、その、Project BAMBOOのA.I.クライアントは、まだコンタクトできるのか?」
弘介は、朱鷺光の態度に苦笑しながら、澄光の方を見て、そう問いかけた。
「えっと、それは大丈夫だと思うけど……」
澄光は、そう言うと、スマートフォンの画面を点灯させて、Project BAMBOOのアプリを呼び出した。
『なに、澄光』
画面の中に表示されたナホは、楽しそうな様子で、澄光に問いかけた。
その画面を、爽風と颯華が覗き込もうとする。
「うわーっ、平城先生そっくり」
「本当だ」
爽風と颯華が、次々に声を上げた。
『お姉さんの爽風さんと、再従姉妹の颯華さんね。私の名前はナホ。よろしくお願いね』
ナホは、爽風と颯華にそう挨拶した。
「ごめん、兄貴にバレた」
『左文字朱鷺光博士に!?』
ナホがそう驚いたような顔を上げると、澄光は、観念したようにスマホを朱鷺光の方に向けた。
「はじめまして。君の名前はナホ……でいいのかな?」
『はじめまして、左文字朱鷺光博士。私はナホ、Project MELONPARKによるA.I.……ということは、説明するまでもないのよね?』
朱鷺光は、ナホに対し、穏やかな様子で挨拶をする。
すると、ナホの方も、特に慌てた様子もなく、朱鷺光の言葉に応えた。
「君のシステム管理者は誰かな」
『直接のシステム管理者は平城真帆子教授よ』
そのやり取りを見ていた、淳志と弘介の表情が険しくなる。
だが、朱鷺光は落ち着いたままの様子で、更に訊ねる。
「アームストロング・アデウス博士の事は知っているよな?」
『真帆子の上司……と、日本語でならそう言っていいのかしら』
「彼は君のシステム管理権限を持っている……そう考えていいのかな?」
『ええ、そうだけど、それがなにか?』
ナホは、それが何を意味するのかわからないと言った様子で、ただ、誤魔化すでもなく朱鷺光にそう答えてしまう。
「朱鷺光!?」
淳志が、驚いたような声を出す。
朱鷺光は、ニヤリと挑戦的に笑っていた。
取手中央高等学校
──ナホがR-1と接触できたのは良かったけど、今日は澄光君が登校していなかった、颯華さんも……一体何かあったのかしら?
平城真帆子は、放課後になり、書類を整理しながら、そう考えていた。
すると、真帆子のスマートフォンが、着信のバイブレーションを始めた。
「はい、…………私ですが」
真帆子は、電話を受ける。
「……Yes」
その電話の相手に合わせて、真帆子は、英語で話し始めた。
「……No problem, ……Yes, OK」
真帆子は、電話の相手にそう言って、電話を切ると、
「申し訳ありません、大学の方から至急の用件が入ってしまいましたので、早いですが今日は失礼します」
「はーい、おっつかれちゃーん」
男性の教諭がそう返事するのを聞きつつ、真帆子は教員室のロッカーから私物の荷物を取り出すと、教員用の出入り口へと向かった。
駅前好立地の取手中央高校だったが、逆に、学生の登下校時間帯以外は、ほとんど人気のない路地が、駅への最短経路になっていたりした。
その日も、すでに部活動のない生徒が下校する時間帯は過ぎ、そこは陽もあまり差し込まず、薄暗く狭い、人気のない路地になっていた。
「一体ナホに何があったのかしら……」
至急、ナホに対して認証の必要な修正をしてもらいたい。
入った電話の内容は、そういうものだった。
真帆子が駅へと急いで、その路地を速歩きで通っていた途中。
ガバッ
「!?」
突然、背後から羽交い締めにされた。
声を上げようにも、最初に口を塞がれている。
──一体、何、何があったの!?
真帆子が混乱しつつ、抵抗してもがこうとするが、相手は平均以上の男性のようで、力づくでは対抗しきれない。
バッ!
降ってきた影が、腕を真帆子の背中と男の間にねじ込んで、背後から羽交い締めにされていた真帆子から強引に剥がす。
その影は、真帆子を庇うように男との間に割って入ると、その後頭部から、ブレードタイプのアンテナ・センサーユニットが、ネコミミのようにあらわになった。
「あなたは……!?」
その姿を見て、真帆子が驚いたような声を出す。
イプシロンは、一瞬真帆子を振り返って、ニヤリと笑った。
「クソッ」
男は毒付きながら、手に拳銃を取り出す。
それを構えるより早く、イプシロンが動いていた。
「げぇっ」
男の首元を抑えるようにして押し倒しながら、強烈な握力で手首を握り、拳銃を取り上げる。
「伏せて!」
「え?」
イプシロンが言う。
真帆子が状況を理解できないままに身を低くすると、その直前まで真帆子の上半身があった場所を、ライフル弾が通過していった。
タンッ、タンッ
イプシロンが、男から取り上げた拳銃を発砲する。
「がぁっ!」
男の悲鳴とともに、雑木林の中で、何かが落下する音が聞こえた。
「駅へ、早く!」
「え、ええ」
イプシロンは、真帆子の背中を押すようにして、素早く路地を駆け抜け、拳銃をジャケットの内側に隠しつつ、取手駅東口の前まで駆け抜けた。
真帆子はショルダーバッグの中からパスケースを取り出すと、J-Style PASMOの定期券を自動改札機にかざし、駅の構内に入る。
続いて、イプシロンは右手を自動改札機の電子チケット用感応部にかざすと、自動改札機に“社員乗車券”の表示が出て、改札の中に入った。
「ここまでくれば大丈夫ね」
イプシロンは、改札の外を振り返りつつ、ふう、と息をついた。
「なにが……一体どうなってるのか、説明してもらいたいんだけど」
真帆子は前髪を掻きながらそう言った。
「申し訳ないけど、事情を説明してもらいたいのはこっちなの。それで、迎えに来たってところなんだけど……」
イプシロンは、少しきまり悪そうにしながら、そう言った。
「その相手は、左文字朱鷺光博士ね?」
真帆子は、イプシロンに問いただすようにそう言った。
「あなた、さっきのアンテナユニットといい、その銀髪といい……R.Seriesでしょう?」
真帆子はそう問いただした。すでにイプシロンのアンテナ・センサーユニットは、格納位置に下ろされている。
「ええ、R-4[EPSILON]」
「あなたが、R-4……」
R-1同様、それが存在することだけが公開されているR.Series。
「悪いけど、いえ、悪いようにはしないから、一緒に来てもらうわ」
イプシロンは、険しい表情で真帆子に言った。
「私がそうしなければならない理由は?」
真帆子はそれを問いかけるが、
「あなたはあなたの知らない間に、とんでもない企みに加わらされている。そして、それを朱鷺光さんが見破ったために、あなたという証拠を消去しようとしているの」
「それは────」
イプシロンの険しい物言いに、真帆子も険しい表情をする。
「ナホに、関係することなのね?」
「ええ、そうよ」
真帆子の問いかけに、イプシロンは、そう答えて頷いた。
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