R-Face ~アンドロイドと人工知能と、策謀と日常と、そして時折昭和

kaonohito

文字の大きさ
上 下
32 / 65
第6話 Night Stalker (II)

Chapter-31

しおりを挟む
 ガツン、ガツンガツン

「あれー……ダメかな」

「どうしたの? ファイ」

 シータが、居間に入ると、浴室の脱衣所への扉が開いていた。
 中に入ってみると、ファイが、松下PW-102湯沸器の器具栓つまみを何度も捻りながら、困ったような声を上げていた。

「あ、姉さん」

 ファイは、背後から声をかけてきたシータに、気がついて、一旦手を止め、振り返る。

「それが、さっきから湯沸器が点火しなくなってしまいまして」
「ああ、もう、ボロいんだから」

 シータは、下手しなくても朱鷺光より年寄りな湯沸器を見て、盛大に溜息をついた。

「こういうときはね、こうすんのよ!」
「あ、ちょ、ちょ、姉さん!」



 数時間後。

「えーっ、今日お風呂ダメなの!?」

 帰宅した爽風さやかは、リビング・ダイニングのダイニングエリアのあたりで、取り外されたガス湯沸器を分解している朱鷺光ときひろに、そう言われて、ウンザリしたような声を上げた。

 まだ真夏という時期ではなかったが、日中は日差しが高く、汗ばむ陽気である。

「もう、そんなポンコツ捨てて、新しいのに代えない?」

 爽風は、熱交換器のフィンをドライバーでひとつひとつ修正している朱鷺光に、そう言う。

「なぜ代えないのかと言うとだなー」

 爽風に言われた朱鷺光は、一旦、熱交換器を下ろすと、見事に凹んだ湯沸器の外装を持ち上げる。

「不調の時点で俺を呼べばすぐに直るのにだなー、すぐに殴る蹴るするバカがいるからだなー、新品を買う気にならんのだよ」

「まったシータ!?」
「テヘヘ」

 一見、しゃがみこんで手伝いをしているように見えたシータが、立ち上がって、爽風の言葉に対し、誤魔化すような言葉を発する。

「『テヘヘ』じゃないよ、どーしてそう言うことしちゃうの?」

 爽風は問い詰めるように言うが、シータは反省してるんだかしていないんだかよくわからない微妙な笑みのままだった。

「主因は立消え防止装置のサーモカップルが原因っぽかったんだがな、それだったら代替品ストックにないでもないからすぐに直ったんだが」

 朱鷺光も、少し憤りを隠さないかのような険しい顔のまま、湯沸器の外装を下ろして、言う。

「そこのバカが熱交換器まで変形させてくれたおかげでだな、その矯正に今日一晩は要りそうなんだわ」

「あー、帰ったらすぐシャワー浴びようと思ってたのになー」

 制服のブラウスの襟元をパタパタとやる仕種をしながら、爽風はそう言った。

「もう少ししたら他の2人も帰ってくるだろうし、雪子さんも帰ってくるだろうから、そうしたらスパでも行ってきたらいいんじゃないか?」
「あ、それいいねぇ」

 朱鷺光の提案に、爽風は、指を鳴らして、そう言った。

「ちっ、こりゃ動力工具使わないとどうしようもないな……ガレージ行くか」

 朱鷺光は、ひん曲がったメインバーナーを持ちながら、そう言って、出入り口になっている吐き出しから、外に出ようとする。

「あっ、手伝うよ!」

 シータは、そう言って、朱鷺光を追おうとするが、

「いーからお前は反省文でも書いてろ」

 と、朱鷺光は憤った声で怒鳴り気味に言い返す。

「反省文……」
「8,000字以上な」
「えーっ!?」

 ムスッとした様子で言う朱鷺光に対し、シータは驚いて素頓狂な声を出す。

「俺の、2階のパソコン使っていいから。ただし、終わるまでは他の機械触んなよ。掃除機や洗濯機もだぞ!」
「はぁーい……」

 朱鷺光に言われて、シータは、トボトボといった感じで、1階の渡り廊下を通って、別棟の朱鷺光の自室に向かった。

 朱鷺光は、庭で模擬戦をしていたオムリンとパティアに声をかける。オムリンとパティアは模擬戦を中断して、湯沸器の残りの部品を、集めてガレージへと運んでいった。



 数時間後。
 帰宅した雪子に、朱鷺光が事情を説明し、爽風・澄光すみひろ颯華そうかの高校生3人に、光之進こうのしん、それにオムリンとファイを連れて、近所のスパワールドへと出かけることになった。

 朱鷺光は、一度思い切って切断した後、矯正して再度溶接した熱交換器の、溶接のバリを、エアーグラインダーで削り落としていた。
 チュイーン、と、グラインダーが金属を削る音が、ドルルルルル……というコンプレッサーの作動音とともに、ガレージに響く。

「じゃあ朱鷺光ちゃん、悪いけど行ってくるわね」
「ああ、うん、よろしくお願いします、雪子さん」

 雪子に声をかけられて、朱鷺光一度手を休めるようにして、身体を起こし、そう言った。

「オムリンとファイも、頼むな」
「了解」

 サンルーフから顔を出したオムリンが、朱鷺光にそう答えた。
 朱鷺光は、念の為にと、オムリンとファイに、同行を頼んでいた。

 雪子の使っている、ジムニーHEでは、無理をしても4人までしか乗れない。その為、朱鷺光のドミンゴを、雪子に貸していた。
 朱鷺光が、パティアに手伝われながら、作業を再開しようとする背後で、ドミンゴは、ガレージから出ていった。


 10分ほどの後、爽風達を乗せたドミンゴは、土浦市とつくば市の境、つくば市側にあるスパワールドに、到着していた。

「はーぁ、ホント、シータにも困ったもんだ」

 爽風は、脱衣所で衣服を脱ぎつつ、誰にともなくため息交じりに呟いたつもりだったが、

「ホントにね」

 と、颯華が、苦笑しながら爽風の言葉を肯定してきた。

 衣服を脱いで、爽風は、最後にメガネを外す。
 女性がかけているにしては珍しい、小さなまるレンズのメガネだ。

「爽風ちゃんさ──」

 颯華が言う。爽風と颯華では爽風の方が当然ひとつ年上だが、子供の頃からよく一緒に遊んでいたことから、お互い“ちゃん付け”で呼ぶのが普通になっていた。

「免許はメガネ要らないんだよね? なんでわざわざそんなメガネかけてるの?」

「うーん、別にメガネ要らないほど悪くない、ってわけでもないんだよ? 移動教室のときとか、裸眼だと黒板読みづらいこともあるし」

 颯華が訊ねると、爽風は苦笑してそう答えた。

「それにしても……それならそれで、コンタクトにするとか、じゃなかったら、もうちょっと……女の子らしいフレームにするとか、しないの?」
「うん……まぁ……そういうのも、考えないわけじゃないんだけどね……」

 颯華が言うと、爽風は穏やかに苦笑した。

「私、ってさ、兄貴と、半分しか血がつながってないわけじゃない?」
「うん……そうだね」

 爽風が言うと、颯華は、どう答えたものか、迷いつつ、ただあっさりとした反応を口にした。

「兄貴はさ、よく、“左文字みのるの息子”って、言われてるけどさ、私はそうじゃないわけじゃない? だから……うん、世間にそう取られるのが、あんまり気持ちよくなくて」

「そっか、それで朱鷺光さんと同じフレームのメガネかけてるわけね」

 どこかしんみりしたように言う爽風に、颯華は、合点がいったというような顔をしつつも、穏やかにそう言った。

「髪もさ、まぁ流石にスポーツ刈りってわけには行かなかったけど、男でもおかしくない程度以上には伸ばさなかった。兄妹に見られたかったからね」
「そっか」

 爽風の言葉に、颯華は、口調ではあっさりと言いつつも、自分もしんみりした様子で、爽風を見つめながら、そう言った。

「さ、ここで話しててもしょうがない、早くお湯に浸かりに行こ?」
「あ、うん、そうだね」

 爽風が言い、颯華と、浴場の入口の方へと、移動していった。
 オムリンも、それを追うように、衣服を脱ぎ、スタンスティックもホルスターごと外した状態で、2人を追いかけていった。

 オムリンは、丁度、入り口の方から脱衣場のロッカールームに入ってきた、小柄な女性と、入れ違うかたちになった。
 オムリンは──名前しか、その存在を知らなかった。
 だから、気付かなかった。

「いまの……R-1?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

びるどあっぷ ふり〜と!

高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。 どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。 ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね? ※すでになろうで完結済みの小説です。

処理中です...