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第5話 炎の追憶
Chapter-30
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「はーい、私がこれからしばらく、JHISのマスコットキャラクターを努めます、シータちゃんでーす! よろしくおねがいしまーす!」
プレス発表会で、人間のように振る舞い、挨拶するシータに、集まった記者たちの中からどよめきが起こった。
「いま、おいくつなんですか?」
「まだ、起動して3ヶ月だから、0歳ってことになるのかなぁ」
「身長はいくつぐらいなんですか?」
「耳とアンテナ含まないで165cmでーす」
「スリーサイズをお教え願えますか?」
「企業秘密です、テヘッ♪」
傍らに朱鷺光が控えているが、別段シータになにか操作をしているというわけでもなく、シータは記者たちの賑やかしのような質問に、スラスラと答えていく。
「その……耳とアンテナを除けば、明らかにどう見ても人間の女性なんですが、実際はそう言うコスプレをしているだけ……ということはありませんよね?」
「失礼しちゃいますねー、ちゃんと正真正銘、100%機械ですよー。と、言っても証明できるものがないか。あ」
記者のズケズケとした質問に、シータは最初軽く憤ったように、それから困惑したように、言ってから、ふと気がついた事を言う。
「耳ならちゃんと動かせますよ、ほら」
シータは、両手を広げて、細工はしてません、というポーズをとりながら、頭の上に乗っているネコミミを、ぴこぴこと動かしてみせた。
おおっ、と、記者たちの中からどよめきが上がる。
「失礼ですが、どなたかが操縦しているという事はありませんよね?」
「うーん、遠隔操縦の方が難しいんじゃないかなー、これって」
別の記者が訊ねると、シータは、考え込むようなポーズをしながら、自分の思ったままをそう言った。
「R-2と御紹介されましたが、当然R-1も存在するということですか?」
「はいー、あ、R-0も存在しますよー、R-0が私のお兄さん、R-1は私のお姉さんです」
記者の質問に、シータが答えると、続けて、
「R-1は試作機ですので、一般に公表する予定はございません」
と、JHISの広報担当の青年がそう答えた。
「あ、でもR-0、コムスター兄さんとは、Twitterや公式サイトのチャットでお話できるから、気になる人は検索してみてくださいね!」
シータが、付け加えるように、好奇心旺盛そうな顔でコロコロとした笑顔を浮かべながら、そう言った。
「失礼ですが、今一般に出回っている自律型作業用ロボットと比べても、その、かなり人間らしいように感じるのですが、やはりMAaMモデルの発展型、と考えてよろしいのでしょうか?」
MAaMモデルを使った最初の量産自律型ロボット、「Cinnamon」の登場から早、7年が経過していた。既に普及はだいぶ進み、日本でも珍しいものではなくなっている。
すると、広報担当の人間が、まず、答える。
「その質問には、製作者の1人である左文字朱鷺光さんが来ておられますので、そちらから回答していただきますね」
広報担当の人間に促され、朱鷺光は、どこか苦笑したような表情で、マイクを握る。
「ただ今ご紹介に上がりました左文字です。今の質問ですが、まず、R-2[THETA]は、MAaMモデルとは全く違う形式の人工知能を搭載しています。具体的に言いますと、MAaMのような人工知能特化コンピューターではなく、みなさんがよく使われているパソコンとかですね、そちらと同系統のコンピューターを搭載し、それに搭載された人工知能ソフトウェアを稼働させています」
朱鷺光が、手振りを加えつつ説明すると、記者の中からどよめきが起こった。
「左文字さん、と仰られましたが、確か、MAaMモデルの開発者が、事故で亡くなられた左文字みのる博士でありましたが、左文字さんは、その縁者の方で?」
「はい、みのるは、私の母になります」
朱鷺光がその質問に答えると、再び記者の中からどよめきが起こった。
「みのる博士のご子息でありながら、今回のロボット──アンドロイドの製作には、従来型のコンピューターを使われたということですか」
「残念ながら今のMAaMモデルでは、ここまでの人工知能を動かすだけの性能は、もたせられないんです。処理能力では、従来型コンピューターの方が、遥かに上ですから」
記者の質問に、朱鷺光は苦笑しながら答えた。
「R-2の頭脳は従来型のコンピューターとのことですが、朱鷺光さんは、このシータさんに、心があるとお考えですか?」
「はい、当然です。彼女たちには心があります。私がそのように設計し、製作しました。間違いありません」
朱鷺光は、自信有りげな表情で、きっぱりと断言した。
「ところで、左文字さんはその、随分お若いようですが、現在、おいくつですか?」
「今年で、16になります」
「なーによこの記事は! 失礼しちゃうわね!」
数日後。
出版された女性週刊誌のひとつを見て、シータが激昂した声を上げた。
「ほら見てよ、まるで朱鷺光が私の製作者じゃないって、朱鷺光は言わされてるだけで、実際の私はラジコン人形だなんて書いてあるのよ、あったまきちゃう!」
シータが指差した記事の見出しは、『大企業の欺瞞体質の象徴──R-2の正体』などと書かれていた。
「ほっとけほっとけ、どーせそう言う記事は出ると思ってたよ」
朱鷺光は、手を上下に振りながら、さして気にしていない様子で、そう言った。
左文字家のリビング。
一部リフォームが進み、リビングは小綺麗になっていた。
ダイニングテーブルは、折りたたみ機構のついたキャスター付きのものに代わっていた。
「しかし、まぁ、いろんな記事が出たなー」
朱鷺光通う、県立取手中央高等学校の同級生にして、R-2[THETA]の共同制作者である、長谷口弘介が、並んだ雑誌を見て、そう言った。
『第二次人工知能革命──R-2[THETA]』
『16歳の天才少年が製作した、人類初のアンドロイド』
『ロボットが友達になる時代』
『A.I.の真実──最適解は「従来型コンピュータ」だった』
などなど、専門誌から一般誌までもが、いろいろと書き綴っている。
「あ、丁度今出ると電車が来る時間だな。そろそろ帰るわ」
「あれ、なんだ、泊まっていくのかと思ってたのに」
届けられた雑誌類を読みながら、過ごしていた朱鷺光達だったが、弘介が、時計を見て、そう言った。
「うんにゃ、ちゃんと帰らないと親父がうるさくてなー」
「そうか、それならしょうがないな」
言いながら、弘介に続いて、朱鷺光も立ち上がる。
「送るよ。ついでにちょっと、コンビニに寄りたいし」
「おう」
「朱鷺光、出かけるのか?」
それまで、ドリームキャストIIで爽風と、落ちものパズルの対戦をしていたオムリンが、朱鷺光を振り返って、訊ねてくる。
「ああ、わるいけど、付き合ってくれるか?」
「わかった」
「ええー、オムリン、行っちゃうのー?」
朱鷺光の腹違いの妹、小学生の爽風は、少し不満気に、そう言った。
「すまない。私は、朱鷺光の傍にいないとならない」
と、オムリンが言い、
「じゃ、今度は私と対戦しよう」
「うん、シータ、やろやろ!」
と、シータの言葉に、爽風は素直に声を上げた。
爽風を見ていると、自分はマセガキだったなぁ、と、朱鷺光は苦笑せざるを得なかった。
自転車があれば、荒川沖駅まですぐだが、弘介はそう言うわけには行かない。
筑波学園線の最寄り駅まで朱鷺光は、弘介を送った。
「じゃ、また明日、学校でな」
「おう、お疲れ」
そう言って、弘介はPASMOを取り出すと、それを自動改札機にタッチして、シンプルな構造の駅構内へと入っていった。
『まもなく、2番線に、東京メトロ線直通 快速 代々木上原行が参ります。危ないので、黄色い線の内側に下がって、お待ち下さい』
朱鷺光は、弘介を見送ってから、電車の接近を知らせる構内放送を背後に、オムリンとともに、駅前のコンビニエンスストアへと向かっていった。
「チキンでも食べるかな、あ、でも夕飯近いな」
朱鷺光は、そう言いつつ、結局、コンソメ味のポテトチップスと、コンビニブランドのチョコレートスナックを買って、コンビニを出た。
駅とコンビニが面している県道を跨ぎ、左文字家の方へ向かおうとする。
全体的には旧くからの住宅街だったが、廃棄物処理業者の廃材置き場があり、ちょっとした倉庫街のようになっていて、あまり人通りのない部分があった。
まだ日没には早かったが、既にだいぶ陽は傾いている。
「左文字朱鷺光だな」
ネィティブジャパニーズスピーカーにはない訛りのある声と共に、朱鷺光は、突然、背後に、何かを突きつけられるような感覚を覚えた。
「一緒に来てもらおう」
「嫌だ、と言ったら?」
朱鷺光がそう答えると、男は「チッ」と舌打ちをし、朱鷺光を後ろから捕まえようとする。
ガッ
オムリンが、瞬時にその懐の、朱鷺光との僅かな間に飛び込み、男の腕をひねり上げた。
そのまま、男が手に持っていたものを取り上げると、男を、ひょい、と投げ飛ばす。
「クソッ!」
男の仲間か、別の男が、オムリンに向かって、サイレンサー付きの銃で発砲する。
ボスッ、ボスッ
だが、しかし、オムリンは、既にその位置にいない。
発砲した男の懐に、素早く飛び込むと、その腹部に突き刺さるような膝蹴りを入れる。
「ぐはっ……かっ……」
男が、腹を抱えるようにして崩れかけた瞬間、その後頭部に、オムリンは強烈なエルボー・スタンプを見舞っていた。
「う、動くなっ!」
さっきオムリンに一度投げられた男が、サバイバルナイフを取り出し、朱鷺光の首元に尽きつける。
と、次の瞬間、オムリンは手に持っていた、男から取り上げた拳銃を、その手元に、正確に投げつけていた。
「がぁっ!」
男がナイフを取り落した瞬間に、朱鷺光はそこから避ける。
入れ替わるように、オムリンの強烈な膝蹴りが、その男に叩き込まれた。
その時オムリンは、右脛のホルスターからスタンスティックを抜いており、男の脇腹に押し当てて、トリガーを押し込んだ。
「フギッ」
男はくぐもった声を上げて、その場に倒れた。
「ま、こんなもんかねぇ」
そう言ったのは、朱鷺光だった。
どうやら、相手は2人組だったのか、それとも更に被害を出すのを恐れて逃走したのか、それ以上の、朱鷺光への敵意のある行為は、なかった。
「ま、たまにはこんな、ちょっと騒がしい事になっちゃったりするのかなぁ」
朱鷺光が、苦笑して言う。
すると、
「大丈夫だ」
と、オムリンが言った。
「お前のことは──私が守る」
「頼りにしてるよ」
プレス発表会で、人間のように振る舞い、挨拶するシータに、集まった記者たちの中からどよめきが起こった。
「いま、おいくつなんですか?」
「まだ、起動して3ヶ月だから、0歳ってことになるのかなぁ」
「身長はいくつぐらいなんですか?」
「耳とアンテナ含まないで165cmでーす」
「スリーサイズをお教え願えますか?」
「企業秘密です、テヘッ♪」
傍らに朱鷺光が控えているが、別段シータになにか操作をしているというわけでもなく、シータは記者たちの賑やかしのような質問に、スラスラと答えていく。
「その……耳とアンテナを除けば、明らかにどう見ても人間の女性なんですが、実際はそう言うコスプレをしているだけ……ということはありませんよね?」
「失礼しちゃいますねー、ちゃんと正真正銘、100%機械ですよー。と、言っても証明できるものがないか。あ」
記者のズケズケとした質問に、シータは最初軽く憤ったように、それから困惑したように、言ってから、ふと気がついた事を言う。
「耳ならちゃんと動かせますよ、ほら」
シータは、両手を広げて、細工はしてません、というポーズをとりながら、頭の上に乗っているネコミミを、ぴこぴこと動かしてみせた。
おおっ、と、記者たちの中からどよめきが上がる。
「失礼ですが、どなたかが操縦しているという事はありませんよね?」
「うーん、遠隔操縦の方が難しいんじゃないかなー、これって」
別の記者が訊ねると、シータは、考え込むようなポーズをしながら、自分の思ったままをそう言った。
「R-2と御紹介されましたが、当然R-1も存在するということですか?」
「はいー、あ、R-0も存在しますよー、R-0が私のお兄さん、R-1は私のお姉さんです」
記者の質問に、シータが答えると、続けて、
「R-1は試作機ですので、一般に公表する予定はございません」
と、JHISの広報担当の青年がそう答えた。
「あ、でもR-0、コムスター兄さんとは、Twitterや公式サイトのチャットでお話できるから、気になる人は検索してみてくださいね!」
シータが、付け加えるように、好奇心旺盛そうな顔でコロコロとした笑顔を浮かべながら、そう言った。
「失礼ですが、今一般に出回っている自律型作業用ロボットと比べても、その、かなり人間らしいように感じるのですが、やはりMAaMモデルの発展型、と考えてよろしいのでしょうか?」
MAaMモデルを使った最初の量産自律型ロボット、「Cinnamon」の登場から早、7年が経過していた。既に普及はだいぶ進み、日本でも珍しいものではなくなっている。
すると、広報担当の人間が、まず、答える。
「その質問には、製作者の1人である左文字朱鷺光さんが来ておられますので、そちらから回答していただきますね」
広報担当の人間に促され、朱鷺光は、どこか苦笑したような表情で、マイクを握る。
「ただ今ご紹介に上がりました左文字です。今の質問ですが、まず、R-2[THETA]は、MAaMモデルとは全く違う形式の人工知能を搭載しています。具体的に言いますと、MAaMのような人工知能特化コンピューターではなく、みなさんがよく使われているパソコンとかですね、そちらと同系統のコンピューターを搭載し、それに搭載された人工知能ソフトウェアを稼働させています」
朱鷺光が、手振りを加えつつ説明すると、記者の中からどよめきが起こった。
「左文字さん、と仰られましたが、確か、MAaMモデルの開発者が、事故で亡くなられた左文字みのる博士でありましたが、左文字さんは、その縁者の方で?」
「はい、みのるは、私の母になります」
朱鷺光がその質問に答えると、再び記者の中からどよめきが起こった。
「みのる博士のご子息でありながら、今回のロボット──アンドロイドの製作には、従来型のコンピューターを使われたということですか」
「残念ながら今のMAaMモデルでは、ここまでの人工知能を動かすだけの性能は、もたせられないんです。処理能力では、従来型コンピューターの方が、遥かに上ですから」
記者の質問に、朱鷺光は苦笑しながら答えた。
「R-2の頭脳は従来型のコンピューターとのことですが、朱鷺光さんは、このシータさんに、心があるとお考えですか?」
「はい、当然です。彼女たちには心があります。私がそのように設計し、製作しました。間違いありません」
朱鷺光は、自信有りげな表情で、きっぱりと断言した。
「ところで、左文字さんはその、随分お若いようですが、現在、おいくつですか?」
「今年で、16になります」
「なーによこの記事は! 失礼しちゃうわね!」
数日後。
出版された女性週刊誌のひとつを見て、シータが激昂した声を上げた。
「ほら見てよ、まるで朱鷺光が私の製作者じゃないって、朱鷺光は言わされてるだけで、実際の私はラジコン人形だなんて書いてあるのよ、あったまきちゃう!」
シータが指差した記事の見出しは、『大企業の欺瞞体質の象徴──R-2の正体』などと書かれていた。
「ほっとけほっとけ、どーせそう言う記事は出ると思ってたよ」
朱鷺光は、手を上下に振りながら、さして気にしていない様子で、そう言った。
左文字家のリビング。
一部リフォームが進み、リビングは小綺麗になっていた。
ダイニングテーブルは、折りたたみ機構のついたキャスター付きのものに代わっていた。
「しかし、まぁ、いろんな記事が出たなー」
朱鷺光通う、県立取手中央高等学校の同級生にして、R-2[THETA]の共同制作者である、長谷口弘介が、並んだ雑誌を見て、そう言った。
『第二次人工知能革命──R-2[THETA]』
『16歳の天才少年が製作した、人類初のアンドロイド』
『ロボットが友達になる時代』
『A.I.の真実──最適解は「従来型コンピュータ」だった』
などなど、専門誌から一般誌までもが、いろいろと書き綴っている。
「あ、丁度今出ると電車が来る時間だな。そろそろ帰るわ」
「あれ、なんだ、泊まっていくのかと思ってたのに」
届けられた雑誌類を読みながら、過ごしていた朱鷺光達だったが、弘介が、時計を見て、そう言った。
「うんにゃ、ちゃんと帰らないと親父がうるさくてなー」
「そうか、それならしょうがないな」
言いながら、弘介に続いて、朱鷺光も立ち上がる。
「送るよ。ついでにちょっと、コンビニに寄りたいし」
「おう」
「朱鷺光、出かけるのか?」
それまで、ドリームキャストIIで爽風と、落ちものパズルの対戦をしていたオムリンが、朱鷺光を振り返って、訊ねてくる。
「ああ、わるいけど、付き合ってくれるか?」
「わかった」
「ええー、オムリン、行っちゃうのー?」
朱鷺光の腹違いの妹、小学生の爽風は、少し不満気に、そう言った。
「すまない。私は、朱鷺光の傍にいないとならない」
と、オムリンが言い、
「じゃ、今度は私と対戦しよう」
「うん、シータ、やろやろ!」
と、シータの言葉に、爽風は素直に声を上げた。
爽風を見ていると、自分はマセガキだったなぁ、と、朱鷺光は苦笑せざるを得なかった。
自転車があれば、荒川沖駅まですぐだが、弘介はそう言うわけには行かない。
筑波学園線の最寄り駅まで朱鷺光は、弘介を送った。
「じゃ、また明日、学校でな」
「おう、お疲れ」
そう言って、弘介はPASMOを取り出すと、それを自動改札機にタッチして、シンプルな構造の駅構内へと入っていった。
『まもなく、2番線に、東京メトロ線直通 快速 代々木上原行が参ります。危ないので、黄色い線の内側に下がって、お待ち下さい』
朱鷺光は、弘介を見送ってから、電車の接近を知らせる構内放送を背後に、オムリンとともに、駅前のコンビニエンスストアへと向かっていった。
「チキンでも食べるかな、あ、でも夕飯近いな」
朱鷺光は、そう言いつつ、結局、コンソメ味のポテトチップスと、コンビニブランドのチョコレートスナックを買って、コンビニを出た。
駅とコンビニが面している県道を跨ぎ、左文字家の方へ向かおうとする。
全体的には旧くからの住宅街だったが、廃棄物処理業者の廃材置き場があり、ちょっとした倉庫街のようになっていて、あまり人通りのない部分があった。
まだ日没には早かったが、既にだいぶ陽は傾いている。
「左文字朱鷺光だな」
ネィティブジャパニーズスピーカーにはない訛りのある声と共に、朱鷺光は、突然、背後に、何かを突きつけられるような感覚を覚えた。
「一緒に来てもらおう」
「嫌だ、と言ったら?」
朱鷺光がそう答えると、男は「チッ」と舌打ちをし、朱鷺光を後ろから捕まえようとする。
ガッ
オムリンが、瞬時にその懐の、朱鷺光との僅かな間に飛び込み、男の腕をひねり上げた。
そのまま、男が手に持っていたものを取り上げると、男を、ひょい、と投げ飛ばす。
「クソッ!」
男の仲間か、別の男が、オムリンに向かって、サイレンサー付きの銃で発砲する。
ボスッ、ボスッ
だが、しかし、オムリンは、既にその位置にいない。
発砲した男の懐に、素早く飛び込むと、その腹部に突き刺さるような膝蹴りを入れる。
「ぐはっ……かっ……」
男が、腹を抱えるようにして崩れかけた瞬間、その後頭部に、オムリンは強烈なエルボー・スタンプを見舞っていた。
「う、動くなっ!」
さっきオムリンに一度投げられた男が、サバイバルナイフを取り出し、朱鷺光の首元に尽きつける。
と、次の瞬間、オムリンは手に持っていた、男から取り上げた拳銃を、その手元に、正確に投げつけていた。
「がぁっ!」
男がナイフを取り落した瞬間に、朱鷺光はそこから避ける。
入れ替わるように、オムリンの強烈な膝蹴りが、その男に叩き込まれた。
その時オムリンは、右脛のホルスターからスタンスティックを抜いており、男の脇腹に押し当てて、トリガーを押し込んだ。
「フギッ」
男はくぐもった声を上げて、その場に倒れた。
「ま、こんなもんかねぇ」
そう言ったのは、朱鷺光だった。
どうやら、相手は2人組だったのか、それとも更に被害を出すのを恐れて逃走したのか、それ以上の、朱鷺光への敵意のある行為は、なかった。
「ま、たまにはこんな、ちょっと騒がしい事になっちゃったりするのかなぁ」
朱鷺光が、苦笑して言う。
すると、
「大丈夫だ」
と、オムリンが言った。
「お前のことは──私が守る」
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