上 下
62 / 64
第29話 世は全て事もなし。

Chapter-59

しおりを挟む
「行くぞ、ミーラ!」
「はい!」

 俺の言葉に反応しつつ、俺とミーラで抱き合う形になる。
 別にふざけてるわけじゃねーぞ。

「ソーリング・ウィング!」

 俺はミーラを抱えて飛び上がり、放物線を描くようにして、そこへ向かっていく。

「ひぃぃっ、やめろっ、こっちに来るなっ……!!」
「アンタが呼び出したんでしょーがっ!」

 そこでは、恐慌状態で腰まで抜かしているベイリーのところまで、キャロが迫っていたところだった。
 そこまでの兵士は、逃げ出したか、ドラゴンに蹴散らされたか、まぁフツーは1個中隊程度じゃどうしよーもねぇもんな。

「ミーラ、連発させちまってるけど大丈夫か?」
「はい、まだ保ちます!」

 俺が声をかけると、ミーラは多少息を荒くしながらも、力強くそう言った。

「グローリー・グレート・ウォール!!」

 ドラゴンが、ベイリーに迫るキャロに、そこへ翔んできた俺とミーラに向かって、ブレスを吐こうとしたところで、ミーラが一瞬早く防壁を張る。
 ドラゴンのブレスが、散らされていく。

「ひぃぃぃっ」

 ミーラの防壁に守られながらも、ベイリーは頭を抱えてうずくまっていた。
 ああ、我が兄ながらみっともない情けない。

「防壁解きます、今!」
「ギガ・バレット!!」

 ミーラの合図とともに、俺はドラゴンの腹部めがけて、爆炎弾を放つ。
 それは、ドラゴンの柔らかい腹部を灼いた。

 が、流石に、ドラゴンは一瞬怯んだものの、動きは鈍っていない。
 姉弟子との協力攻撃じゃねぇと、やっぱこのあたりが限界か。

「こいつ……こいつ! こっちだ、アルヴィンをやれ!」

 ベイリーが、俺達の後ろ、誘竜石に寄りかかるようにしてへたり込みながら、ソウリュウジョウとか言うのを、ドラゴンに向ける。
 カチ、カチと、なんか随分久しぶりに聞く音を聞いた。前世での押しボタンスイッチのメカニカルな音だ。

 だが、ドラゴンは、ベイリーの言葉には従わなかった。
 腕を振り上げて飛びかかってくるドラゴンに対して、俺達が左右に避けると、ドラゴンはベイリーに向かって一直線に飛びかかっていった。

 なんだ? あのアイテムの効力でも切れたのか?

「ひぃぃぃーっ!」

 ガィン!!

「ぐぅ、ぅ」

 ベイリーを叩き潰そうとするかのドラゴンの一撃を、ミーラが、低い唸り声を上げながら、盾で受け止めていた。
 流石に、ミーラの性格からして、見捨てることはできなかったか。

「キャロ!」
「うん!」

 俺が呼びかけると、キャロは合点承知、と言った感じで飛び出す。

「アイシクルエッジ・シャープネス!!」

 俺がキャロの槍に氷の斬撃魔法を纏わせると、キャロはその槍の穂先で、ドラゴンの腹部を深く縦に斬り裂いた。

「ギャォオォォォン」

 ドラゴンは、断末魔の悲鳴を上げながら、仰向けになるように倒れ込んでいった。

「サンダー・ボルト!」

 トドメとばかりに、その頭部に雷撃魔法を撃ち込む。

「ぐぁっ!」

 俺が一瞬気を抜いた瞬間、俺の背後でくぐもった声がした。
 振り返ると、男が1人、倒れている。
 ブレストプレートは着けているが、武器らしい武器はもっていない。──いや、その手に、戦闘魔導師がよく使うショートワンドが握られていた。

 俺を攻撃しようとしていたところを、姉弟子が狙撃したらしい。

 先程、ベイリーと言い争っていた魔導師とは別の人間だ。
 他にも魔導師がいたのか。
 そうか、さっき姉弟子がベイリーを狙撃しようとした時、シールドを張ったのはこいつだな。

「さて、兄上、ここからどうなさるおつもりですかな?」

 俺は、ベイリーの方を向くと、意識して意地悪い笑みを作り、竦み上がってへたり込んだままのベイリーに、そう話しかける。

「ひ…………!」

 ベイリーは悲鳴のような高い声を短く出すのがやっとだった。
 しかも股間からなんつーか、滴っていた。

「お前たちも、その気になればいつでも吹き飛ばせると思っておくんだな」

 姉弟子が、パキッ、と指を鳴らし、右手に炎を呼び出しながら、ベイリーの部下たちの兵士を睨みつけつつ、そう言った。
 兵士達も、戦意喪失と言った感じで、完全に竦み上がってしまっている。ベイリーほどの痴態を晒しているものは、いないようだったが。

「ま、待て、私はただ言われてやっただけなんだ……!」

 この期に及んでそんな言い訳か。
 ほんと小物だな、コイツ。

「じゃあ、誰の差し金で?」
「それは……」

 俺が問いただすと、ベイリーは一瞬、口籠る。
 すると。

 チンッ

「ひっ、言う、言うから命だけは助けてくれ!!」

 いつの間にか俺の横に来ていたエミが、鞘に収めていた剣の鍔を鳴らした。
 その態度にベイリーはビクついて、慌てた口調で言ってくる。

「ちょ、直接私にこの話を持ってきたのは、ミルワード、マイルズ・ガスリー・ミルワードだ!」
「誰ですかそれは」

 聞き覚えのない名前に、俺は、緊張感のない表情になりながら、ベイリーに問い返す。

「ミルズ伯爵の陪臣で、軍務卿の実務補佐をしていた人間だ」
「! ミルズ元軍務卿の……」

 俺は、今度は聞き覚えのある名前に行きつき、フームと鼻を鳴らすような声を出す。
 顎を抱えるようにして、少し考えた。

「しかし、ミルズ伯爵は自ら軍務卿の座を降りたはず。その陪臣に持ち込まれた話を信用して、こんな騒ぎをおっぱじめたんですか? 南方の爵位持ちが?」

「そ、それに関しては、く、詳しくは聞かされていないが」

 ベイリーはよほど怯えてしまっているのだろう、もうこちらは構えていないというのに、どもった声で言う。

「帝国中央の古参貴族の多数に顔が利く、後ろ盾があると言っていた!」
「そんなもんを信用したんですか」
「ただ言われただけなら信用はしない。だがこれだけの物を用意してくれたんだ」

 俺が呆れて問い返す声に、ベイリーは誘竜石やソウリュウジョウを見せるようにしながら、そう言った。

「あ、どのみちこれ、あると厄介だな。エミ、やっちゃってくれるか?」
「了解」

 俺が言うと、エミはずいっと1歩前に出て、剣の柄に手をかける。

「ひ────」
退いてて」

 怯えるベイリーに、エミが、静かに、しかしはっきり言うと、ベイリーは抜けた腰を引きずるようにして誘竜石の正面から退いた。

 エミは剣を抜き、構えると、

アクアエッジ・シャープネス水刃付与・鋭利

 自分でそう唱えると、ウォーターカッターを刃に纏った剣で、誘竜石を、ズバッ、と真っ二つに斬ってしまった。

「またつまらぬものを斬ってしまった」

 …………ん? 俺、そんな事教えたっけ?

「ねぇアルヴィン、こんなドラゴン関係の古代遺物を2つも持ってこれるような相手って」
「うん……────」

 キャロに言われるまでもない、それに、帝国中央の古参貴族に顔が利くと来たもんだ。
 誰のことかは、だいたい想像に難くないが……


 ──※─※─※──


「やはりベイリー・オズボーン・バックエショフは失敗したか」

 2人の、剣を携えた兵士を伴った魔導師の報告に、アドラス中央聖教会神官長、ハワード・エリソン・シーガートは、帝国西方の別荘の中で、それは想定通りだと言わんばかりにそう言った。

「まぁいい、火種はいくらでもある。別の神輿を稼ぐまでよ」
「いいえ、次はありませぬ」

 シーガート元神官長はしたり顔でそう言ったが、報告に来たはずの魔導師は、低い声でそう言った。

「え?」

 室内にいた、孫娘のカトリーナが、その気配に気づいて視線を向けると、兵士が剣で、祖父の胸を貫いているのが目に入った。

「あ……え……!? あ……」
「バカ……な……なぜ……」

 カトリーナは立ち上がり、そのまま、頭を抱えるようにして立ち尽くす。
 シーガート元神官長は、最期にそう声に出し、そのまま吐血して、くたりと絶命した。

「あなた達は……なんてことを……!! これでは……」

「皇帝陛下の御意志は固く、最有力領主3家、それに武家のローチ伯もついておられる。なにより、ドラゴンを操る道具は失われ、そもそもドラゴンを以てしてもアルヴィン・バックエショフの一行には対抗できない」

 魔導師が説明する間、シーガート元神官長を刺殺した方とは別のもう1人の兵士が、カトリーナに迫る。

「ここまで来ては、南方正義連帯の領主も皇帝陛下に下るしか無いが、このままでは領主一同が処罰を下されるのは必至。となれば、首謀者たるエリソン・シーガート侯爵の首級を以て赦しを請わざるを得まいよ」

 困惑したように言うカトリーナに対し、魔導師はそう言った。

「くっ……」

 カトリーナは、部屋の隅に追い詰められつつあったが、魔導師の説明を聞かされると、逆に自ら、隠し持っていた短剣を取り出し、自らの喉元に運ぼうとした。
 だが、カトリーナが自決を図ろうとしたその瞬間、迫っていた兵士は、カトリーナの手からその短剣をはたき落とした。

「潔いのは良いことだが、お嬢様、あなたには生きていてこその価値があるのですよ。そう、貴女ほどならね……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...