異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。第2部

kaonohito

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第24話 魔力伝播で一騒動起きる。

Chapter-39

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「まぁ、魔法の基本はイメージだな、なにを起こすのか頭ン中でイメージすると、魔力がそれに作用して現象が発生する」

 俺は、まずそう説明した。

「え、でも魔法には呪文ケイオススクリプトがあって、その組み合わせで何か起こさせるんじゃないのか?」

 ジャックが訊いてきた。良い質問だ。

「人間て、基本的に言葉でモノ考えてるんだよ、そうだな……」

 俺は少し考えて、

「よし、みんな、何も考えるな!」
「えっ!?」

 俺が言うと、みんなが軽く驚いたような声を出す。

「一切の思考を停止するんだ」
「え、ええと……」

 キャロが戸惑ったような声を出した後、4人は横に並んで目を瞑り、軽く俯いた姿勢になる。

 …………

「ミーラ以外は、頭の中にこの言葉が浮かんでるはずだ、『何も考えない』ってな」
「え」
「あ」
「い」

 俺が悪戯っぽく笑いながら言うと、キャロ、エミ、ジャックが、図星を突かれたように、目を開けて慌てたような短い声を出した。

「ちょっとまって、ミーラはなんで出来ちゃうの?」
「ミーラは多分この手の鍛錬してるからな。そもそも、この説明自体ミーラには要らんし」

「…………」

 キャロの言葉に、俺が答えている間も、ミーラは、軽く俯いて目を閉じたまま、ニュートラルな表情で、ただ黙然としている。

「おーい、ミーラ、戻ってきていいぞー」

 俺が、そう声をかけると、ようやくミーラは目をあける。そして、俺達の方を向いて、ぺこり、と軽くお辞儀をしてみせた。

「とまぁ、人間、何も考えないってのは難しいわけなんだが、やろうとすると、そういう言葉が浮かんでくるだろ? それを応用するわけよ」
「え、じゃあ呪文には、それ自体には特に意味はないの?」

 俺が説明すると、キャロがそう訊ねてきた。

「魔法の程度による。簡単なものは正直、定型化してイメージを共有するのが一番の目的だ。だから俺や姉弟子なんか詠唱省略してるだろ?」
「言われてみれば」

 エミが口元に手を当てて納得したような声を上げる。

「まぁ上位の魔法になると、精霊や元素レベルでの干渉が必要になるから、俺でも省略できないレベルってのも存在するわけだけど……正直、体液交換で伝播したレベルだとな、そこまで使えないと思う」

「うーん、残念」

 俺の説明に、エミが、ちょっと落ち込んだようにそう言った。

「魔法剣士、って、ちょっとかっこいいかと思ったのに」
「そうホイホイ上位魔法使われたら、俺達本業の魔導師は干上がっちまうよ」

 エミがそんな厨二じみた思考をしているとは思わなかったな。
 だが、まぁみんなに伝播してる魔力ってのはせいぜいそんな程度だ。

「まぁでも、水属性は一番簡単だから、戦闘の補助には使えるかもな」
「イメージが大事、つまり……」

 そう言うと、エミは左手の指をかざしてみせた。

「アクア・ブリッド」

 エミがそう唱えると、ちょびっと、水滴がその指先からはねた。

「すごい、この程度で水が出せちゃうんだ」

 キャロが、エミの指先を見て、驚いたようにそう言った。
 まぁ、水は大気中に存在してるからな……乾燥してるところだと難しいが。

「うーん……」

 だが、肝心のエミはあまり納得していないようだ。

「指から直接でそれだけできりゃ大したもんだけど、まぁ、そのイメージをさ、エミなら剣を通して出すようにしてみなよ」
「え、うん」

 エミは、右手に持っていた自分の剣に一瞬、視線を向けると、その切っ先を上げてみせた。

「ちょ、おま」
「アクア・ブリッド」

 俺が慌てて避けたその空間を、水の弾丸が駆け抜けていった。

「安逸に人に向けない、危ないんだから!」
「ごめん……」

 エミは申し訳無さそうに、しゅん、としている。

「でも、まぁ、こんな感じだ。特にエミの剣はオリハルコン魔法合金製だからな、魔力の媒介としては充分良い性能出るはずだ」

「ねぇねぇ、雷とか炎とかはどうするの?」
「んー、正直、上位魔法目指さないんだったら直接、起こしたいことイメージして、発動させちまうのが簡単かな」

 キャロの言葉に、俺は少し考えて、そう言う。
 実際に分析すると、風の摩擦で電位差起こすとか、分子の振動とか難しい話になるんだけどな。

「えー、なに、それ、てっきとう!」
「もうちょっとレクチャーらしいレクチャーはないのかよ」

 キャロとジャックが、抗議するような声で言ってきた。

「そうは言うけどなー……そうだな、例えば氷結魔法って何属性か知ってるか?」

 俺は後頭部に手を回しつつ、2人に訊ねた。

「え? 水じゃないの?」
「訊くってことは違うってことか?」

 俺の問いかけに、キャロもジャックも戸惑った声を出す。

「ミーラは解る?」
「確か……火属性なんでしたよね?」
「お、正解」

 魔法の心得がある人間なら解るんだよな、これ。

「ええーっ!? そうなの?」

 キャロが、仰天したような声を上げる。

 火を起こすのは、対象の分子の運動を活性化することで過熱、最後はプラズマ化して炎にするものだ。
 となれば、氷結魔法はその応用で、対象の分子の運動を停止させることで熱を抑制する。
 つまりベクトルの向きが逆なだけで、属性的には同じなんだよ。

「とまぁ、上位魔法を目指したり、俺やブリアック王子みたいに研究沼にハマると際限ないわけなんだけど、基本的な魔法が使えりゃいいってんなら起こしたいことのイメージを具現化する要領のほうが早い」

「じゃあ……サンダー!」

 俺が説明するが早いか、キャロは槍を掲げて唱えてみる。

「だーかーらー人に向けるんじゃないっ」

 俺が寸でのところで躱した地表に、ちょっとした落雷の跡が残る。
 子供が花火振り回してるのと同じだな……

「ごめん……」

 キャロは謝るものの、なんかエミと比べると謝罪の程度が浅いような気がするのは俺の気のせいか?

「はぁ、キャロも自分の槍がミスリル魔法銀製だって忘れてるだろ?」

 俺はやれやれとため息をつきながら、そう言った。

「あれ、それじゃあ俺はちょっと不利ってことか?」
「そうだな、鋼鉄の剣だと魔力の媒介としての力はあんまりないんだよな。皆無でもないけど。青銅のほうが良いくらいだ」

 俺が、自分の魔法発動体である腕輪をつくる時に、試した結果では、どうも電気の伝導率と少し関係があるみたいなんだよな。
 なもんで、俺の腕輪は銅をベースに少量のミスリル、それを金メッキしてある。

「ジャックは確か、ブレッシングボウを持ってただろう」
「あ、うん……まぁ、あれでも良いっちゃ良いんだが」

 なんで不満があるのかだいたい分かるぞ、こいつ、姉弟子の前に立ちたいんだよな。
 姉弟子からしたらそれって足手まといになりかねんのだが。精神的には嬉しいかもしれんけど。

「いっそ、剣も買い替えたら? まだ、ドラゴン退治の時の貯金、使い切ってないんでしょう?」
「そうだなぁ、姉弟子と肩を並べて、ってことなら、先々、鋼の武器じゃ厳しいと思う」

 キャロの言葉に、俺も同意した。

「そうだなぁ」

 ジャックが、考えるようにしてそう言った時、俺はふと、あることを思い出した。

「あ、そうだ。この前のサラマンド・ドラゴンの遺骸も引き取ってもらって、7000シルムスくらいになってんだけど、どうする?」

「なっ、7000シルムスって」
「無理無理無理、そんなの管理できないわよ」

 ジャックとキャロが、相次いで驚愕の声を出す。キャロの言い分に、エミもこくこくと頷いている。

「だよなぁ、また、前みたく500シルムスずつくらいみんなでわけて、後はプールってかたちでいいか?」
「そ、それでいいと思う」

 俺の言葉に、エミが答えると、今度はジャックとキャロがコクコクと頷いた。

「まぁペンデリンにも渡さなきゃならないし、後、ミーラにも少し多めに渡したほうが良いかな」
「え、私に、ですか?」

 俺が鼻を掻きながらそう言うと、ミーラが少し戸惑ったようにそう言った。

「ここの教会の設備建て直すのに、結構かかっただろ、その分ってことで」
「そうですね……奉仕の精神でできることにも限界がありますし」

 俺が言うと、どうしても現金は必要、という点が少し悔しい様子で、ミーラは俯きがちな様子でそう言った。

「おおい、みんな、何やってんだ?」

 俺達がそんな話をしていると、そこへ、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「姉弟子こそ何してました?」
「いやぁ、キャメリアのところで試飲をちょっと」

 俺がジト目で見ながら言うと、姉弟子は妙にヘラヘラ笑いながら言いやがった。
 酒入ってんのか。
 ほんとこのへべれけ合法ロ、いや言うまい言うまい……

「で、執務室にアルヴィンがいないと思ったら、一体ここでみんなはなにをやってたんだ?」

 姉弟子が、再度問いかけてくる。

「実は……」

 俺は、事の経緯を姉弟子に話した。

「ま、そ、そうか、そう言うこともありうるわなぁ、うん」

 ん? なに姉弟子真っ赤になってるんだ? 酒のせいじゃないっぽいけど……

「で、ちょっと腑に落ちないのが、俺から伝播してる魔力の属性がみんな違うんですよね、ミーラは元々魔法が使えたからわからないでもないけど……」
「そりゃ、そもそもお前さんが規格外の魔導師だからじゃないのか?」

 俺が腕を組んで考え込むようにしながら言うと、姉弟子はあっさりとそう言った。

「いや姉弟子、もうちょっと真面目に考えてくださいよ」

 俺は脱力しながら言うが、姉弟子は、至って真面目な表情をしている。

「真面目に言ってるぞ、少なくとも私の知ってる魔導師の中では、単純に魔力資質だけなら、私の上には師匠とお前しかいないからな。お前こそ自分がそう言うレベルだって自覚した方が良いぞ」

 え、なに?
 俺、普段師匠のこと歩く災害だとか意思を持った天変地異とか言ってるけど、周囲から俺ってそう見られてたってわけ?
 そもそもが姉弟子でも大概なのに?

「まぁ、水属性が伝わったってのは、単純にイメージの問題だろうな。お前、周囲に損害出るの気にして普段、水属性の攻撃魔法使ってるんだろ?」
「まぁ、そうなんですけど……じゃあ、キャロの雷、つまり風属性は?」

 俺はなんとなく納得がいかないようにしつつも、姉弟子の説明に、そう訊き返した。

「うーん、以前、使ったことがあるとか?」

 姉弟子も流石に腕組みをして考えながら、そう言った。

「あー、使ったこと、あります。キャロに対して」
「確か、サラマンド・ドラゴンの時だったわよね」

 キャロも言う。
 言われてしまえば簡単な答え合わせだったなぁ。

「まぁでも、魔力伝播で扱えるようになるレベルって、本当に基礎的なレベルどまりだから、ミーラの嬢ちゃんはともかく、他の3人はせいぜい牽制用と属性攻撃程度に考えていた方が良いだろうな」

 姉弟子は、頬を掻きながらそう言った。

「なんか、こういう時ずるいよね、ミーラって」
「ええ、そうですか?」

 あまり悪気もなさそうな戯け混じりの苦笑でキャロが言い、ミーラが困惑の声を上げる。
 でも、そりゃしょうがねぇだろう。ベースが違うんだから……
 ミーラだって苦労もなしにあんな、俺や姉弟子が驚かされるような防壁魔法使えるようになったわけじゃないんだろうしな。

「ま、でも俺からひとつ言っとく。ジャックとキャロとエミに」

 これ、ホント言っとかないとならないからな。

「きちんと制御できるようになるまで、安逸に人に向けんな!」
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