上 下
37 / 64
第23話 領地での夏を過ごす。

Chapter-36.5 Ver.Cc

しおりを挟む
「じゃあ、お願いするわね」

 結局、やっぱりキャロと俺の組み合わせになることになった。

 まぁ、こういうときは結局これが一番揉めなくていいよな。

 キャロは俺の目の前で、毛羽立ちの少ない麦わらの筵に、うつ伏せに寝そべっている。
 まぁ、流石にまだ、ビニールシートなんぞという気の利いたものはない。

 姉弟子の作ってきたものは日焼けを抑えるというよりは過度な日焼けを止める、いわばサンオイルみたいな感じなもの。
 ただ前世でイメージしていたサンオイルと違って、クリーム状の軟膏になっている。

 それを多めに手のひらに取り、両手になじませるようにしながら、キャロの、水着の露出部分が多い背中へと手をのばす。

「うーん……」

 俺は、その背中のあたりを見て、妙な声を出してしまった。

「どうしたのよ?」
「え、あ……」

 それを凝視してしまっていたのを、キャロの声で、我に返る。

「いや、肌綺麗だなと思ってさ」
「なに、褒めても特に何も出ないわよ」

 キャロは、うつ伏せになったまま、クスクスと苦笑しながら言う。

「まぁそりゃあ、そんなが俺の嫁さんだと思えば、それ自体が褒美みたいなものだけどな」
「何、それ……」

 俺が妙に得意になって言うのに、キャロは可笑しそうに笑った。

「いや……ただ、防具の跡があるな、と思ってな」
「うーん、まぁ、それは仕方ないわよ」

 このところ冒険者稼業はやっていない。
 ただ、キャロには兵団の槍術指南を頼んでしまっている関係で、武具をつけていることが多い。

 まぁ最大の理由は他にアテがないからってだけなんだが……アーヴィングはもっと兵団として基礎的なことの教練で忙しいし。
 とは言え、俺やエミのように、養成学校で武術免除を受けていたほどではないとは言え、常に片手で数えられる順位にはいたわけだけれども。

「そう言えば、キャロはなんで槍を使い始めたんだ?」
「えっ?」

 俺は、単純に気になって、キャロの首周りに軟膏を塗りつつ、そう訊ねた。

「そうね、私のところエバーワイン家にも、エミのところのアーヴィングみたいに、壮年の兵士長がいたのよ」
「その人から槍を?」
「基礎的なところはね」

 俺が問い返すと、キャロはそう答えた。

「まぁでも、後は冒険者養成学校に入ってからかな。だからちょっとばかり荒削りで、兵団向きじゃないとは思うんだけどね」
「いや、まぁ、実戦で使えりゃ、それでいいと思ってるけどね、俺は」

 別に儀仗兵作ってるわけじゃなし、その必要があるならまた別に用意する。

「背中なんかは防具の跡が残る程度だけど、手なんかこうだしね」

 うん、まぁ、別にキャロとスキンシップするのはこれが初めてってわけじゃないので、それは知ってる。
 手には剣ダコならぬ槍ダコができてて、それを削ってる痕がある。

「キャロの槍には何度も助けられてるし、文句なんか言ったらバチが当たるよ」

 実際、2度のドラゴン戦でキャロの槍には2度とも助けられている。

 さて、背中から一回首元へと移動し、それから腰へ、と下りてきたわけなんだが……

「なんか、意外にこうしてまじまじとキャロの脚触るのって初めてな感じ」
「言われてみればそうかも知れないわね」

 いや、まぁ、キャロの色んな所はすでに見せてもらってる俺なんだが、脚の後ろ側って意外に意識したこと無いなぁと、今さらになって感じてしまった。

 太すぎず、引き締まっているが、赤筋ばかり発達して硬いというわけでもない脚。
 カモシカみたいな脚、ってこういうのを言うんだろうか。

「うーん……」
「ん? どうしたの?」

 俺が唸るような声を出すと、キャロが訊き返してくる。

「膝裏やふくらはぎにも留め具の跡があるなと思って」
「まぁ、それも、仕方ないわよ」

 キャロは武装時、革のブーツの上からレッグガードをつけている。
 その留め具の跡が残っているのだ。

「それに、アルヴィンって箱入りのお嬢様より、私達みたいな方が好きだって、自分で言ってたじゃない」
「まぁね。いや、キャロ自身がどう思ってるのかと思っちゃってさ」

 女の子だし、気にするところもあるんじゃないかなとは思ってしまう。

「それは、だいぶ前に言ったわよね」
「え?」

 キャロに言われて、どの事かわからず、俺は間の抜けた様子で訊き返してしまう。

「自分を安売りするつもりはない、って」
「…………自己研鑽は怠らない、か……」
「そうよ」

 確かに、逆に変に気を使ったりしたら、自身を高めようとするキャロに対して失礼かもしれないなぁ。
 などと、俺が考えながら足首の方まで塗り進めていくと……

「ああっ!」

 と、キャロが突然声を出した。

「えっ、どうした?」
「考えたら、別に脚は座れば自分で塗れたんじゃない」

 俺が驚いたように声を出すと、キャロはそう言って、筵の上で所謂“女の子座り”になった。

「あ……そう言えば、そうだったな」
「アルヴィンも、素で気づいてなかったの?」

 キャロが、若干、自分と俺とに呆れたような苦笑になって、そう言った。

「まったく気づいとらんかった」

 俺は正直に言う。

「もう……まぁ、アルヴィンだから良いか」

 いや、それで終わらせちゃうのもどうなのよ、とは思うんだが……

「じゃあ、交代、今度はアルヴィンが横になって」
「了解、頼むよ」

 俺は、キャロにそう言って、うつ伏せに寝そべった。

「脚の方もやる?」

 キャロは、どこか悪戯っぽく言ってきた。

「お願い、って言ったらどうする?」
「もちろん構わないわよ」

 俺の方も悪戯っぽく言い返すと、キャロの方は素で、快諾したようにそう言ってきた。

「じゃあ、頼もうかな」
「りょーかい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...