異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。第2部

kaonohito

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第21話 立太子の儀でひと悶着起こす事になる。

Chapter-29

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「さて……」

 俺達は、室内で一旦落ち着いてから、現状を整理することにした。

「あなた方に、私達の警護を依頼していたのは、アシル兄上とのことですが」

 シグル王子が、俺に訊いてきた。

「その通りです。殿下御本人が、直々に我々に依頼しに来たのです」

 俺がそう答える。

「それがわからん。なぜ、アシルは外国の勢力であるあなた方に我々の警護の依頼などしたのだ」

 ガスパル王が、少し憤慨混じりの様子でそう言った。

「アシル王子の話では、相手も魔導師を雇っているため、対抗するには私やリリーの力が必要だということでしたが」
「馬鹿な。魔導師はこの国にもいくらでもいる。わざわざあなた方を選んで依頼しなければならない理由はないはずだ」

 俺がアシル王子から受けた内容をそのまま説明すると、ガスパル王は少し憤慨混じりの様子のまま、更にそう言った。

 でも、ガスパル王の言うとおりなんだよな。
 魔導師に対抗するためというのが名目なら、この国にだって魔導師はそれなりにいるはず。

 なのにアシル王子はなぜか、外国の使節団である俺達にガスパル王とシグル王子の警護を依頼してきた。

「その理由まではわかりませんでしたが、とにかくガスパル陛下とシグル殿下のお命を守ってほしい、ということでしたので、ひとまずそれだけはお受けしました。その代わり、その後でシレジアがどうなっても責任は取れない、と」

「それで、アシルは承知したということですな」
「ええ」

 俺が説明すると、ガスパル王が訊き返してきたので、俺は肯定する。

「見聞きした感じ、アシル王子に、王位を簒奪しようという考えはなかったように感じたのですが、私達の見込み違いでしたか?」
「いえ、おそらくあれは、シグルが私の跡目を継ぐことに特に反対はしていないでしょう」

 姉弟子が訊くと、ガスパル王は首を左右に振るようにしてそう言った。

「ちなみにブリアック殿下は王位継承について、なにか野心を持っているようなことはないのですか?」

 俺が訊ねる。

「ブリアックは元々第2王子ですし、王位への野心はほとんど持っていないからこそ、魔導の研究に打ち込んでいたのでしょう。今更このような騒動を自ら起こすとは考えにくい」
「でしょうね」

 ガスパル王の言葉に、俺は軽くため息を付いてそう言った。

「アルヴィンには、騒動を起こしたのは誰だか見当はついている……?」

 エミが訊いてきた。

「いや、どこの誰かまではわからん。だが、以前も言ったけど、多分地方領主の誰か、というよりは、複数の地方領主が謀ってるんじゃないかと思う」
「地方領主、ですか」

 俺がエミに向かって言うと、シグル王子が、なんだか申し訳無さそうな声を出してきた。

「おそらくナルバエス公爵家がその音頭を取っているんだろう」

 ガルパス王が言った。
 って、おいおい。

「その名前は初めて聞きましたが、なぜそのような不穏分子がいると解っていて今まで手をこまねいていたのですか?」

 俺は、軽く驚いてしまいつつ、ガルパス王に問いただすように言った。

「公爵家というからには、その家は、シレジア王家の親縁者という感じでしょうか?」

 ミーラが訊ねるように言った。
 そうか、帝国の慣習に従えばそういうことになるな。

「そうだ。加えて当代のエルネスト・グノー・ナルバエスは軍務卿の立場でもある」
「え、そうなんですか?」

 ガルパス王に説明されて、俺は最初、間の抜けた声を出してしまった。
 俺が考えていたのは、徴兵権を中央に取られた地方の有力領主の叛乱だったからだ。

 だが、軍務卿と言ったら、むちゃくちゃ中央じゃないか。
 しかも────

「軍務卿だったら、ガルパス王の軍事中央集権化で発言力は増したんじゃないですか!? それがなぜ……」

 俺が素っ頓狂な声を出す。
 すると、ガルパス王は、首を左右に振り、

「いや、エルネストは領主兵団の廃止と国防軍化には反対していた。兵役、特に……」

 と、そこまで言いかけて、ちらり、と、俺や姉弟子を見た。

「言っちゃっていいですよ、ファルク王国や、アドラーシールム帝国との国境線の警備、ですよね?」

 俺は、ガルパス王の発言を代弁するように、そう言った。
 ガルパス王は、観念したかのように、

「ああ」

 と頷く。

「帝国との国境線が争いの種に? どうしてですか?」

 今度は、ミーラが驚いたような声を出した。

「いいえミーラ」

 意外にも、キャロがそれを諌めるかのような発言をする。

「隣り合ってる以上、シレジアにとって帝国も脅威ではあるのよ。そうよね、アルヴィン?」
「そうだ。表向きはファルク王国に共同で対抗しているが、帝国の国力から行ったらファルクとシレジアを同時に相手にするなんて余裕だからな。あくまで理論上はだけど」

 険しい表情で言う、キャロのを受けて、俺はそう答えた。
 今の帝国が、総力戦体制をとれるのかどうかが、若干疑問なんだがな。

「それで、その国境線兵務がこの騒動と、どうつながるんですか?」

 俺は、核心のところをガルパス王に問いかけた。

「身内の恥を晒すようで情けない話だが」

 ガルパス王は、そう前置きしてから、言う。
「本来、すべての領主の間で、その領地の石高こくだか、兵団の兵力にあわせて持ち回りで決めるのだが、それを、一部の上級領主の間で、不正に融通していたのだよ」
「つまり、領主の中には不利益を被るものが居るような不正が蔓延していたと」

 俺が問いただすように言うと、ガルパス王は、こくりと頷いた。

「そして、その不正に協力していたのが、ナルバエス家ということだ」
「それで、そのことを知ったガルパス陛下は、軍事改革を強行なされたということですね」

 やはり俺が問いかけるように言うと、ガルパス王は頷いた。

「私が王位を継ぐ前から、その実態には気づいていたのだが、それを辞めさせるために、ようやく近年になって、領主兵団を廃止し国防軍を開設した」
「だが、ナルバエス公爵はそのことに納得していなかったと、まぁ自分も賄賂で私腹を肥やしていたでしょうからねぇ」

 俺は、本当にめんどくさいことに巻き込んでくれた、というように、呆れた声でそう言った。

「でも、それだとすると、ナルバエス公爵家との間で不正を働いていたのは、シレジア貴族だけじゃないんじゃないか?」
「え?」

 ジャックが、突然そんな事を言ったので、俺は間抜けた声を出してしまった。

「どういうことだ?」

 まさか、俺がこの言葉を口にすることになるとは思わなかった。

「さっき言ってたじゃないか、帝国との国境線の兵務も不正の対象だった、って。だとしたら、帝国側の兵務体制がどうなっているのかとか、知ることができたり、調整できたりすれば、有利なんじゃないのか?」
「あ!」

 ジャックの言葉に、俺は、そこまで考えは回っていなかった、と、声を上げてしまっていた。

「帝国の領主とも不正を働いていた可能性があるってことか!」
「そうだよ。俺が気がつくぐらいだから、アルヴィンなら気づくと思ってんだけど、そんな素振りがなかったから、言ったんだけどさ」

 おいおい、それじゃあお互い外患誘致だぞ。
 とはいえ、お互い地方の領主制を敷いている以上、中央に隠れてなにか取引している領主がいてもおかしくないんだが。

「ひょっとして、これも、ガルパス王の憂慮のひとつだったというわけですか?」

 俺は、ガルパス王に問いただしてみた。
 すると、ガルパス王は、少し苦しそうにしつつ、こくり、と頷いた。

 そらそうだ。中央の預かり知らないところで、仮想敵国の地方領主同士が馴れ合ってんだから。

「どうやら、帝国の方でも埃を叩いて出さなければならない相手がいるようですね」

 俺はそう言って、鼻でため息をついた。
 あーあ、本当にどえらくめんどくさいことになったぜ。

「ひとまず、とりあえずは目前のこの騒ぎをどう収集させるかが問題なんだが……」

 俺が、そう言いかけると、

 ドンドン!

 と、扉が強烈にノックされた。
 扉の向こうから、張り上げる声が聞こえてくる。

「陛下! クロヴィス・コンセプシオンです! 外の騒動は沈静化しつつあります、どうかここをお開けください!」

 クロヴィス大佐か。
 エミが、ショートソード……ではなく、皆に渡しておいたそれぞれの武装、つまりエミのオリハルコンの剣の、柄に手をかける。

「いや、クロヴィス大佐は心配しなくて大丈夫だ」

 俺はそう言うものの、

「本当にクロヴィスなのか!?」

 と、シグル王子が、扉の外へ向かって訊ねた。
 聞こえてくる声は、たしかにクロヴィス大佐だと思うのだが……

「はい、そうであります、シグル殿下!」
「クロヴィス、お前とは幼少の砌、よく避暑地のトーヴェに一緒に行っていたな」

 え、そうなの?
 じゃあひょっとして、クロヴィス大佐も爵位持ちかなんか?

「それは覚えておりますが」
「それでは私が14になる歳の夏、お前は海で私の遊泳に付き合っていてブヨに刺されたな」

 おいちょっと待て。

「そんなことも、ありましたが」
「その時刺された場所は、どこだ?」

 わずかに沈黙して、

「尻です」

 と、扉の向こう側から、恥を忍ぶような口調の答えが帰ってきた。

「間違いありません、クロヴィスです」

 いや、それはいいけどさ、この本人確認方法、なんとかならんの?
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