異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。第2部

kaonohito

文字の大きさ
上 下
26 / 64
第21話 立太子の儀でひと悶着起こす事になる。

Chapter-26

しおりを挟む
「それは?」

 姉弟子が取り出したのは、ひと組のイヤリングだった。
 俺は少し大きめのジェエルが嵌ったそれを指差して、訊ねる。

「これをつけていると、ある程度の範囲でだが、魔法を使おうとする人間がいたら感応する事ができるんだ」

 イヤリングを手にしたまま、姉弟子は、そう言った。

「そんな便利な物があるんなら、なんで普段からつけてないんです?」

 俺は、それを指差しながら、そう言った。

「実は発動するかなり直前のタイミングでないと感知できなくてな。実際に戦闘で使うとなると、発動体の様子を観察していた方が速いくらいなんだ」
「ああ、なるほど、正面切って戦う時にはあんまり役に立たないと」

 きまり悪そうに苦笑しながら言う姉弟子に対し、俺も少し苦笑気味の表情で答えた。

「でも、それだけでなんとかなるかしら?」
「何が?」

 キャロの言葉に、俺は訊き返す。

「私達は武器を持って入るわけには行かないわ、せいぜい、エミがショートソードを隠し持っていける程度よね、襲撃者が魔導師1人だったら良いけど、複数人の襲撃者が現れたとしたら、対処しきれないことも考えられるんじゃないかしら?」

 確かに、キャロの言うことには一理ある。

 複数でも、俺や姉弟子を狙って正面切ってかかってきてくれるなら、師匠クラスの無体なのでもない限り、だったらなんとかなる。
 だが、今回は俺達自身ではない、ガスパル国王とシグル王子を守らなければならない、そう言う戦いになるのだ。

 そう言う意味では、一理はあるのだが……

「キャロさんや、なにか忘れていないかい?」
「忘れてるって、何をよ」

 そう言い返してくるキャロに、俺と、更には姉弟子までもが、マントをひらひらとさせた。

「あー! その手があったのね!」

 キャロは、あっさりそれに思い至ったらしく。ぽん、と手を叩いた。

 そう、この中にみんなの武具も隠していけば、持ち込み禁止とかそんなのもへったくれもなくなる。

「まぁ、今回は仕方なくって意味で、やるけど、流石に時と場合は選ぶけどね」

 俺は、苦笑しながら、そう言った。

「あとはシグル王子かガスパル王に、これを持っていてもらえると助かるのだが……」

 姉弟子はそう言って、手のひらにそれを取り出した。
 俺やミーラが使っていたものと同じ、魔法の遠隔発動体のクリスタルだ。

「これがあれば、魔導師に限らず、射撃で狙われたときに、シールドの魔法が使えるんだが……」
「姉弟子、それなら、良いものがありますよ」

 俺は、そう言って、こんな事もあろうかと、というわけではないが、何かの役には立つだろうと思って、用意しておいたそれを、マントの中から取り出した。

「なるほどな。それは良い」

 姉弟子も、ぱっと顔を明るくした。


 翌日。
 シャロン王城の使用人達がやってきて、朝食をいただくことになった。

「ふぁ……ぁ、なんだか気になって眠れなかったわ……」
「私もです」
「私も……」

 キャロが眠たげな目を擦りながら言うと、ミーラとエミも、それに同じく、といった感じで、やはり眠そうな様子でそう言った。

「何だよみんな、別に俺達が襲われるってわけでもないのに、緊張したってしょうがないじゃないか」

 ジャックが、ニコニコ笑いながらそう言った。
 うん、こいつはマイペースで快眠したな?

「ジャックはいつものこととして……アルヴィンは……」
「うん、ぐっすりだった」

 うーん、俺、前世で若い頃は、皆と同じでクヨクヨして眠れなくなるタイプだったんだが、前世の最後の頃になると状況がどうあれ寝られる時に寝ないと冗談抜きで死ねる状況だったからな。

 まぁ、実際死んだわけなんだけど。

「なんかアルヴィンとジャックが最初にコンビを組んだっていうのがよく分かるような気がするわぁ……」
「どういう意味かな」
「どういう意味だよ」

 キャロの言葉に対し、俺とジャックはほぼ同時に声を上げていた。

「みんな、よく眠れたか?」

 姉弟子が、自分が使っていた寝室から出てきながら、そう言った。

 昨日のパーティードレスとは一転、男装とまでは言えないが、フォーマルで通るパンツルックだ。
 ただ、耳には、昨日取り出していた、例の魔法感知のイヤリングがついている。

「なんだか……リリーさんもしっかり眠れているみたいですね……」
「流石……アルヴィンの姉弟子」
「それはどういう意味よ」

 ミーラとエミが言うのに、姉弟子は脱力したような様子でそう言った。

「まぁ、確かに師匠の下にいた時に、寝られる時に寝ろとは仕込まれたけどな」

 姉弟子は、食卓につきながら、どこか不敵に笑いつつ、そう言った。

「けどな、アルヴィンは違うぞー。元々こいつはどこでも図太く寝られるんだ。手足が伸ばせないようなところでも、平気で寝るしな。師匠が驚いてたぐらいだ」
「姉弟子、人を何だと思ってるんですか」

「よし、じゃあ、朝食がてら、打ち合わせと行きますか」

 俺がそう言い、皆が食卓についた。
 と言っても、とりあえず、できることは限られているんだけどな。


 立太子の儀は、正午から始まった。

 シレジアもアドラーシールム帝国同様、「五柱神聖教」を国教としている国である。
 それそのものではないが、繋がりは、帝国の本祖派に近い。

 教会の時計が正午を告げる鐘を鳴らす。
 露天の大祭壇で、儀式が始まった。

「これより、シレジア王国シエルラ朝第4代国王、ガスパル・シムノン・シエルラの名において、王子シグル・カンテ・シエルラの立太子の儀を執り行う」

 国王が、大祭壇の上の玉座に座る中、大祭壇の正面に侍従長が立ち、巻物の書物を取り出して、それを読み上げるようにしてそう告げた。

 祭壇の中央へ向かって、階段が伸びている。
 その途中途中に、儀仗兵が立ち、向かって右側にシレジアの伝統的国旗、左に王家の紋章の入った旗を、それぞれ構えている。

 シグル王子は、それまで、片膝をつく姿勢で、大祭壇の一番下の中央に控えていたが、その宣言がされると、ゆっくり、階段を登っていく。
 そのゆっくり上がっていくのが、今はいやにもどかしく思えた。

 何事もなく、終わってくれれば、それで終わりなんだが。

 俺は別に、シグル王子ではダメだと思ってはいない。

 というか、そもそもこんなことに巻き込まれるのがめんどくさい。
 別に俺達が帰った後で、お家騒動が起きるんなら起きるで勝手にしろという感じ。

 ようやっと、シグル王子が、祭壇の最上段に上がり、国王と正対する。
 国王が、立ち上がり、シグル王子は、そちらへと向かっていく。

 2人が、お互いに手を伸ばせば、触れ合える、その距離にまで至った時。

クリエイト・シールド防壁形成

「クリエイト・シールド」

「何っ!?」

 姉弟子が、いや、俺も、驚いたように、声を出していた。

 確かに、姉弟子は今、シールドの魔法を使った。
 遠隔発動体のクリスタルを、スリングショット──パチンコと言ったほうがわかりやすいだろうか──を使って、ジャックに頼んで、式の前に祭壇の玉座の近くに飛ばしておいたものだ。

 だが、ほぼ同時に、誰かが、別にシールドの魔法を使った。

 ヒュンッ

 火炎の球が、撃ち込まれた。フレイム・バレットだ。これは間違いない。
 その火炎の球は、だが、もちろん二重の魔法のシールドに阻まれて、霧散した。

 シュッ

 群衆が、一体何が起きているのかと、どよめき出す。
 それが、本格的な混乱になる前に、その中央を、エミが駆けていく。

「一体、何が起きているっていうの!?」

 キャロが、混乱した声を出した。
 俺も混乱しかけている。

 姉弟子すら、一瞬、呆然としてしまっていた。

 一体、何がどうなっているんだ。
 みんなの武具を、出すべきなのか!?

 ただ1人、エミだけが、一心不乱に、ガスパル王とシグル王子の下に駆けていっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...