異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。第2部

kaonohito

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第17話 新参領主、結婚する。

Chapter-14

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「みなさーん、これ、美味しいですよー! 試してみてくださーい!」

 アイリスがすすめるのは、沿岸地帯で採れた魚介類を、炭のバーベキューコンロで焼いたものだ。
 そこには、醤油……もとい、アル・ソルが用意されている。

「ほう、これはなかなか行けますな、アトリー・エバーワイン卿もお試しになると良いですぞ」
「どれどれ……」

 ローチ伯爵が、切り身の焼き魚にアル・ソルを付けながら食べ、声を上げる。
 エバーワイン男爵も、付き合い半分とは行った感じながら、興味深そうにそれを口に運んだ。

「これは……! 確かに旨いですな! これはアルヴィン・バックエショフ準男爵領の名産物になりそうですな」

 エバーワイン男爵は、決してリップサービスとは言えない様子で、そんな事を言っていた。

 俺はそのすぐ近くで、肉を口に運んでいた。
 いや、だって今日、朝っぱらから訪れた有力貴族相手に挨拶で少し疲れてきたし、腹も減ってきたし、スタミナ付けたいなーって思うのも仕方ないだろ。

 いや、ほんとに。
 男爵以上で本人が参加している貴族だけとは言え、2ケタは優にいたもんなぁ。
 準男爵以下や、名代の参加は、セオ兄が対応してくれたんだが。

 中には、

「3人目の序列夫人を取るつもりはありませんか?」

 などと言ってくるのもいて、その都度丁重にお断りするのに苦労した。
 セオ兄やアイザックに、夫人は今回の3人だけだと、念を押してもらったはずなんだがな。

「婿殿……いや、アルヴィン・バックエショフ準男爵殿」

 俺が、教会の入口の階段に腰掛けてローストビーフっぽいもの何ぞ頬張っていると、そう声をかけられた。
 セニールダー主席宣教師……言い直したということは、俺になにか公的な用事があるということか。

「なんでしょう、セニールダー主席宣教師」
「実は、陛下よりこれをお預かりしていましてな」

 そう言って、主席宣教師は少し平たい小箱を取り出す。
 そして、立ち上がった俺に中身を開けてみせた。

「! 竜騎勲章」

 俺は、意外なものを見た、という感じで、少し表情を険しくしてしまった。

「しかし、一体どういうことです? それも、2つ?」
「エバーワイン男爵領での遺跡でのエンシェント・ドラゴンとの遭遇、それに此度のサラマンド・ドラゴン討伐に参加しながら、まだこの受勲をしていない者がいるでしょう」

 はて、そんな人物、いたかな?
 いや、待てよ……

「ミーラの分、ですか……」
「1つは、そういうことになります」

 はっきり言って、エンシェント・ドラゴンのときも、サラマンド・ドラゴンのときも、ミーラがいなかったらあっさり全滅していただろうからなぁ。
 それでいてミーラだけが竜騎勲章、すなわちドラゴン・スレイヤーの称号を持たない、というのは変な話だ。

「それで、もう1つは?」

 俺は訊ねた。誰か、他に功労者いたっけ?

「サラマンド・ドラゴン討伐の折には、デミ・ドワーフの鍛冶師兼戦士が参加しておったと聞きましたが」
「ああ……」

 ペンデリンのことか……と、俺は思いつつ、視線で本人を探す。
 なんか会場の外れの方で肉を貪ってるな。

「デミ・ドワーフに帝国勲章を?」
「帝国に住まう者で、功労者を称えることに何の問題がございましょう」

 そうか……今の皇帝陛下、そしてその陛下とお互いにバックボーンになっている新教派としては、そう言うリクツになるわな。

「受勲はアルヴィン・バックエショフ準男爵が皇帝の名代としてなされよと、陛下からの委任状も頂いております」

 主席宣教師は、そう言って書簡の入った筒を差し出した。

「良いんですか、所詮は準男爵ですよ、俺は……」
「本来であれば、私がその任にあったのでしょうが……何分、実の孫娘ですからな」

 ああそうか。
 確かに、枢機卿として代行するにしても、実の孫娘相手じゃ形としておかしいわな。

「ペンデリン殿に関しても、下手に高位の貴族が名代となるより、アルヴィン・バックエショフ卿がなされた方が、反発も少ないかと」
「まぁ、そう言う事でしたら、わかりました。謹んで拝命いたします、と、陛下にお伝え下さい」

 俺は、両手で丁寧にそれを受け取りながら、そう言った。

「承知しました。……それと、婿殿」
「はい、なんでしょう?」

 俺がそれらを、毀損しないように、マントにしまい込んでいると、主席宣教師は、更に言ってくる。
 まぁ、婿殿、と言ったからには、内容はわかっている。ミーラのことだ。

「正妻がキャロル殿であることは重々承知しておりますが、どうかミーラのこと、よろしく頼みましたぞ」
「あー、まぁ、今ここに至って言っちゃうのも何なんですけどね?」

 どこか、押し付けてしまった、というような言い回しをする主席宣教師に、俺は苦笑しながら言う。

「3人はみんな紙一重だったっていうか……ミーラって割と、というか、かなり、俺の好みなんですよ」
「なんと!」

 いやだからさ、そこで物好きを見るような目で見るの、やめてほしいんだけど。
 いくらミーラの実の家族だからってさぁ……

「キャロやエミだって、竜騎勲章持ちですし。そう言う、強い女性、俺、割とツボなんですよね……」
「ははぁ、なるほど、そうでありましたか。これは、こちらの心配が、杞憂でありましたかな?」

 俺が少しきまり悪そうに苦笑しながら言うと、主席宣教師も苦笑しながらそう言った。

「むしろ、正妻に迎えずに申し訳ないくらいで」
「そのようなお気遣いは無用。婿殿の名声は今や帝都中に響いておりますからな」

 それ、背びれ尾ひれくっついてないだろうなぁ。
 くっついてそうだなぁ。

「失礼、アルヴィン卿」

 俺と主席宣教師が話していると、そこに、別の人物が声を挟んできた。
 俺が振り返ると、そこには、見知っちゃいるがいまさら見るとは思っていなかった顔。

「ブリュサンメル上級伯爵! わ、わざわざいらしてたんですか!?」

 俺は素頓狂な声を出してしまった。
 俺や姉弟子の寄騎の問題もあるし、てっきり寄越しても名代だと思っていたのに。

「私とは縁も深い人物だからね、来るのは当然のことさ。それに」
「それに?」

 あれ、なんか嫌な予感がするぞ。

「モーリス・セニールダー卿、あの話はもうなされましたか」
「いえ、私の方から言うべきか逡巡しておりました」

 おろん?
 なんだ、ブリュサンメル上級伯とセニールダー主席宣教師って、あんまり接点が見えないような気がするんだけど。

「実は、陛下から君の陞爵しょうしゃくの話が出ていてね」
「えっ」

 俺は一瞬驚いてしまったが、考えたら、出るよなぁ。
 ドラゴン1匹倒して準男爵が、エンシェント・ドラゴンとでっくわして生き延びてくるわ、サラマンド・ドラゴンも倒しているわ、出ない方がおかしい。

「それもこの際一気に子爵に……という話でね」
「でも、それだと誰か、適当な推薦人がいないと難しいんじゃないですか?」

 男爵を飛ばして一気に子爵に……まぁ、やらかしたことの大きさからすれば、あってもおかしくはないと思うが。
 だが、陛下の一存だけでは決められまい。

 推薦人を建てるにしても、孫娘が妻になっている主席宣教師、つまり帝国枢機卿セニールダー伯爵や、自身の寄騎にしているローチ伯爵はまずいはずだ。

「ああ、それで、私が推薦人になってもいいだろうという話になったのだよ」
「ああ、そういう……」

 て、おい。

「上級伯が? またどうしてです?」

 俺は、驚きのあまり奇妙なポーズを取ってしまいながら、言う。

「君の功績は、それに充分に足りるものだと、私も判断したからだよ」
「ま、まぁそれだけのことをやらかした認識は、ありますが……」

 心当たり、有りすぎるほどあるもんなぁ。

「それに、もちろん私にも思惑がないわけでもない。君の代は無理にしても、君の子供の代、私の孫の代と……という考えは、当然ある」
「はぁ……」

 まぁ、俺としてもいずれそう言う日が来るとして、確かにブリュサンメル上級伯の家柄なら安心して送り出せるわな。
 今はちぃとも実感できないが。

「しかし、そうしますと、領地の方はどうなるんですか? 飛び地や転地は勘弁ですよ?」

 せっかく、色々揃ってきていて、色々揃っている領地なんだ。
 手放したくないし飛び地になって苦労するのも勘弁して欲しい。

「その点は心配ありますまい。幸い、ここから北方、ローチ伯領の東側は、直轄領ですからな。それを下賜するという形であれば、大した問題にはなりませぬでしょう」

 そう言ったのは、主席宣教師だった。

「どうかね、陞爵に興味はないと言い切るかね」

 上級伯が迫ってくる。
 うーん……確かに俺個人はそんな興味なんざないんだけど……

 特にキャロやエミは、そう言う下心があるのは事実なわけで。
 それをある程度割り切ってまで、俺についてきてくれた以上、チャンスがあるなら、叶えてあげたいとも思うしなぁ。

「先程、ローチ伯領の東側、と言いましたが、海岸線もいただけるんですかね」

 俺はふと思いついて、そんな事を訊ねていた。

「前提としては考えておりませんでしたが……」
「卿が希望するというのであれば、そう言う内容で推薦状を書くこともできるな」

 主席宣教師の言葉を受けて、上級伯が手振りを加えながら説明する。

「なら……受けてもいいですかねぇ」

 はっはっは、もう察しのいい人間なら気がついたろう。
 俺はアル・ソルの大量生産ができる塩田と農地が欲しいのだ。

「解った、そう言う話で進めていいね?」
「ええ、もうこうなりゃどんとこいです」
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