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第13話 遺跡調査でセカイの正体を知る。

Chapter-47

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「さて……君達は、編入したミーラ・プリムスを含め、本来であれば冒険者養成学校の生徒ということになる」

 ブリュサンメル上級伯はそう言ったが、それは言われるまでもない。
 だが、その言葉に続きがあるのだろうと思い、俺も、仲間たちも真剣な表情で上級伯を見る。

「だが、既にドラゴン・スレイヤー竜騎勲章持ち、しかも学園の学生向け斡旋クエストとは言え、その最中に遭遇戦をこなした君達だ。もはやこの先のカリキュラムを受ける意味は少ないだろう」

 確かにそうなんだよな。ついでに、それを換金する方法も知ってるわけだし。

「そこで、通常のカリキュラムの代わりに、私が出す依頼を遂行してはもらえないだろうか。それを以て、残りのカリキュラムの達成と認めよう。もちろん、報酬も支払う」
「そういうことであれば、我々としては特に反対する理由はありません」

 俺は、真剣さを崩さないようにしつつも、やや軽めに言った。

「あの……」

 と、ここで声をかけてきたのはミーラだ。

「その場合、私はどうなるんでしょうか?」

 あ、そうか……
 ミーラは竜騎勲章受勲者ではない。

「いや、君の実力も、活躍の程も、リリーからも報告は受けている。難易度の高いクエストに当たる霊障事件の解決に関わっていることもね」

 上級伯は、あっさりと、手振りを加えつつ、そう言った。

「それに、古代遺跡、となると、アンデッドの類の出現は予測される。不死者との戦闘と浄化のエキスパートであるミーラ・プリムス嬢、君にもできれば同行願いたい。もちろん、条件は他のメンバーと同じだ」
「わかり、ました。お引き受けいたします」

 上級伯の真剣な表情に多少気圧されたかのようにしつつも、ミーラはそう応じた。

「それから、君達の保護者、といううわけではないが、ベテランの冒険者を1人、同行させよう」

 え。
 俺は、急に脱力する。

「そのベテラン冒険者って、もしかして……」
「そうだ、リリーだ。リリー・シャーロット・キャロッサ。まぁ、君達も、よく知っているだろうが」

 なんか急に緊張感が薄れた気分。

「そういうわけで……まぁ、新鮮味はないけど、よろしくな」

 上級伯に紹介された姉弟子は、立ち上がって、俺達の方を見渡す。

「いえいえ、リリーさんに文句なんて、あるはずもありません」

 俺を差し置いて、ジャックがそう言った。

 まぁでも、姉弟子と俺と居りゃ大概のことはどうにかなるからな。キャロとエミが前衛で俺と姉弟子が後衛、それに基本としてミーラ前衛にジャック後衛だが、この2人は状況に応じてスイッチする、といったところか。

「まぁ、6人パーティーとしてはバランス的にも丁度いいですし、いいんじゃないですか」

 俺も、軽い気持ちでそう言った。実際、姉弟子なら気兼ねは少ない。

「それから、あくまで今回の古代遺跡探査は、未踏破部分の探査が主体だが、もし危険と判断したなら、そこまでで構わない。くれぐれも、自身の無事を最優先にしてくれ」

 姉弟子が同行すると聞いて、少し気が緩んでいた俺達だったが、上級伯が、やたら険しい表情で言うので、俺は怪訝そうに眉をひそめつつ、気を引き締め直した。

「わかりました。無理はないように、ということで」


 さて。

 地下迷宮探索、なんてクエストにいざなわれることになった俺達は、上級伯の屋敷を後にした後、準備の為に買い出しに出かけた。

 保存食、それに、帝都の幽霊屋敷騒ぎでぶっ壊しちゃったまんまのランタンの調達。他にもジャックが使う矢、応急処置のできる消毒作用のある薬草などを準備して、それらを俺のマントに格納した。
 そして、それらの準備を終え、夕食時には寮の食堂に戻っていた。

 出発前から気を張っていても仕方ない、と、俺達はその日の夜は、食堂でいつものように語らいながら食事をとっていたのだが……

「ん……と」

 俺達がはしゃぎすぎていたか、俺達以外の学生は既にまばらに残っているだけとなっていた。

「俺達も解散して、出発に備えて休むとするかァ」

 俺はダイニングチェアに腰を掛けたまま、背筋を伸ばす。

「でもあれだわ、私達も、アルヴィンの屋敷で毎日お風呂に慣れていたから、ちょっと……気になるのよね」

 キャロが、苦笑しながらそう言った。

 学生寮には浴場はあったが、交代制。今日は、男子の入浴日だった。

「俺達は、一応入っておくか?」
「うーん、そうだなぁ、しばらく間が空きそうだしな」

 俺とジャックが、そんなやり取りをしていると……

「あの……マイケル?」

 以前にもあったな、このパターン……
 俺は、自分の顔が仏頂面になってしまうのを自覚しながら、俺のファーストネームを呼んだ相手の方を向いた。

「ユリア……」

 そこに立っていたのは、『転生したら辺境貴族の末っ子でした』の初期ヒロインの片割れ、槍使いの戦士ユリアの姿だった。

「あの……おめでとう、その……準男爵の授爵」
「ああ、ありがとう」

 特にここで喧嘩腰になることもないだろうと思い、なんとか俺は言葉の剣を落として、そう言った。

「それから……婚約、も……」
「……そうだな、ありがとう、で、いいのかな?」

 俺は、表情が引き攣ってしまうのをなんとかこらえながら、ユリアにそう言った。

「それで、あのね」

 …………やっぱり、そう来るか。

「よかったら、私やルイズも、マイケルの序列夫人に……ううん、妻ではない、妾でもいいから、加えてくれたらな、って思うんだけど……」

 やっぱりかよ……
 そんな気はしてたんだ。

「悪いが、それはしない」
「え、でも、序列夫人は取る、って……エミや、その、他の女の子と……」

 俺は、やれやれといった感じでため息をつく。

「俺が、どうしても3人の中から、1人に絞れなくて、そうしたら、3人とも受け入れてくれただけの話なんだ。俺の優柔不断が招いてしまったことで、3人には申し訳ないと思ってる」
「申し訳ないだなんて、そんな……!」

 ミーラだけが、俺の言葉に対して、そう発言した。キャロとエミは、黙ってユリアの方を見ている。

「それに……以前にもルイズに、あ、これを伝えてくれたのはエミなんだけどな? 俺は別にガツガツ成り上がろうと思っちゃいない。今回準男爵の爵位と領地はもらったが、学校を卒業したら、特に陞爵しょうしゃくを目指そうとも思ってないし、領地を広げたいとも思っていない。あ、今ある領地は、それなりに発展させるつもりではあるけどな」

 俺は、その言葉の途中から、返って、穏やかな苦笑になっていくのを感じた。

「だからさ、苦労しない程度の田舎貴族で終わるつもりの俺なんかに拘る必要なんかないんだ。そもそも、ユリアは自分が長男長子じゃないことに、不満を持ってるんだろ? だったらさ、自分で自分の道を切り開いたらいいじゃないか」

「すべての人事を尽くし、己の道を己で拓く意思の下にこそ、神々は祝福を授けるでしょう」

 俺の言葉に続いて、ミーラが、胸に手を当てて祈るようにしながら、そう言った。
 キャロとジャックが、意外そうな表情で、ミーラに視線を向ける。

「私もそのつもりでした。ただ、アルヴィンが自身の領地運営の為に、新教派の宣教師でもある私の力を貸してほしいと、そう言われたので、私自身も、アルヴィンの領地の民のためも思って、同道を受け入れたのです」

 ミーラは、そのキツめの顔立ちとは裏腹に、穏やかに笑って、そう言った。

「うん……うん……」

 ユリアは、俺やミーラから視線を外してしまいながら、左手で右肘のあたりを握るようにして、頷きながら聞いていた。

「あ、なんだったらガッツリ自分で成り上がった人紹介するよ? 女性でね。一介の騎士爵ではあるけど、魔導師としての腕は誰もが認めるところ、そんな人だ」

 そうなんだよな、ユリアが地位を得ることを目指してるんなら、俺なんかと一緒に居るより、姉弟子の方が、ずっと為になることを教えてくれるはずだ。

「ううん、大丈夫」

 ユリアは、そう言って、視線を上げ、俺の方を見た。

「ありがとうね、マイケル。それにそっちの……」
「ミーラです、ミーラ・プリムス・セニールダー。ミーラで結構です」

 まだ一緒に活動したこともない、同級生予定者のユリアに、ミーラはそう名乗った。

「ミーラさん。私、ちょっと元気が湧いてきたよ。うん、自分でやれるだけのことはやってみる」

 ユリアは、目に涙を滲ませながらも、ニコッと笑顔になって、そう言った。

 俺に、『転生したら辺境貴族の末っ子でした』を表紙買いさせた、ユリアの笑顔。そうだよ、それでいいんだ。

「ありがとう、マイケル、ごめんね」
「そんな大したことは、してないさ」

 ユリアは、俺とそう言葉をかわすと、踵を返し、ゆっくりとだが、しっかりした足取りで、食堂から出ていった。

「なんのかんのと言って、ユリアやルイズには甘いのよね、アルヴィン」
「え……?」

 キャロが苦笑しながら言った言葉に、俺は、思わず聞き返してしまっていた。

「私達と違って、あの2人にはしっかり自分の道を進んで欲しい、そう思っているのが伝わるわ……」
「いや……それは……」

 うーん……確かに言われるとおりなんだけど……
 これも、浮気になるのかなぁ。

「あの2人は、私達と順番が違ってしまった、それだけ」

 俺が悩んでいると、エミがそう言った。

「アルヴィンが、自分の人生の輪に組み込んでもいい、それだけの信頼を勝ち取る前に、強引にアルヴィンの人の輪に入り込もうとして、失敗した」
「そうね……実際、アルヴィンも私達の事、最初は他の女性生徒除けになる程度に思っていたでしょ?」

 エミに続いて、キャロまでもが言う。

「それは……」
「いまさら隠さなくてもいいわ」

 キャロは、苦笑しながら言う。

「だって、そのおかげで、私達は、アルヴィンと勝利を分かち合うことができたんだもの。違う?」

「…………そうだな」

 ドラゴンの戦い。俺がこの2人を選んでいなかったら、──……あの場で、この2人、それにジャックが、俺を信じてくれなかったら。

「ありがとう、2人とも」
「お礼はいいわ。ただ、ひとつだけ言っとく」

 俺が言うと、キャロは不敵に笑う。

「私とエミは、もうとことんアルヴィンと一緒に進むって決めた。たとえそれが、田舎の準男爵止まりだったとしてもね」
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