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第12話 姉弟子、決闘する。

Chapter-45

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「ついてくるって……え!?」

 ミーラからその話をされて、俺は驚きの声を出した。

「はい、最後の学期は、ブリュサムズシティの冒険者養成学校にお世話になることにしました」

 はっきりと言うミーラだが、俺は呆気にとられてしまう。

「いや、そこでしなくても、どうせ後3ヶ月なんだから、その後合流でも……」
「後3ヶ月も、ですよ……」

 俺が、半ば呆然として言うと、ミーラは、どこか拗ねたような表情になって、言う。

「キャロさんやエミさんとだけ一緒に居るなんて、ずるいです」

 え、ミーラみたいな強気系で肉付きのいい子がこんなプンスコしているのも結構可愛くて好き……じゃなくてだな……

「それに、お祖父様もぜひそうしなさいと言っていましたし」

 主席宣教師かぁー……ああ見えて本祖派のジジィと似たようなところあるからなー……

「それにアルヴィン、3ヶ月って、それなりに大きいわよ」

 キャロが言う。

「私達がパーティーを組み始めて、ドラゴンと戦うまで、2ヶ月とちょっと……」
「う……」

 エミにそう指摘されると、確かにそうなんだよなぁ、と思い、言い返せなくなってしまう。

「それに、シャーロット・キャロッサ卿に紹介状も書いていただきましたし、問題はないかと思います」
「姉弟子~」

 ミーラの言葉を聞いて、俺は姉弟子の方を振り返り、ジトーっとした視線を向ける。

「私も軽く手合わせしてみたが、嬢ちゃんの腕は確かだったしねぇ、知識も問題なさそうだし……特に断る理由はなかったしな」

 姉弟子は、妙に済ましたような顔で言う。

「それに……それとも何か、不都合があるのかい?」
「う……そ、それは……」

 姉弟子が悪戯っぽく笑いながら言うのに、俺は一瞬、言葉に詰まりかけたが、

「あります」
「え、……そうなんですか?」

 俺が言うと、ミーラが、少し申し訳無さそうな表情をして、俺の背後に問いかけてくる。

「キャロとエミに加えて、ミーラまで一緒にいたら、俺の煩悩がオーバーフローするっ」
「なんつー言い訳をしやがるかねこの不肖の弟々子は」

 俺が、腕を組みつつ胸を張って、正直なところを言うと、今度は姉弟子が逆に俺に呆れたような視線を向けて言ってきた。

 一方、俺の嫁候補の女子3人はと言うと……
 キャロ、エミ、ミーラと、3人で顔を合わせて、クスッと笑う。

「まぁーその時はしょうがないでしょ、なんとかしてあげるわよ、3
「ええ、3

 キャロが、しょうがないわねーと言った感じで苦笑しながら言い、ミーラが、その部分を強調するように繰り返した。

 あかん、マジで保つかな、俺の理性。

「もう尻に敷かれてんのか、バックエショフ準男爵?」

 ジャックが、ニヤニヤとしながら、そう言ってきた。
 くっそー、こいつはこいつで、以前なら僻んできたくせに、今は姉弟子が居る余裕がありやがんの。

「それに、あの時、3人まとめて面倒見るって言ったんだから、今更言葉をたがえたら、男が廃るぜ?」

「あーはい、解りました、解りましたよ」

 俺は半ばヤケになって、そう言った。


「すみません、準男爵閣下。我々の運賃まで負担していただいて……」

 さて、場所はと言うと空港である。入出札ゲートの近くで、俺達は、アイザック、セオ兄と合流していた。

「いえ、必要経費だと思ってください」

 律儀に言ってくるアイザックに対し、俺は、そう言った。

 俺の、つまり、アルヴィン・バックエショフ準男爵領にはいるためには、帝都からは、陸路で直接向かうより、ブリュサンメル上級伯領からキャロッサ騎士爵領を経由した方が速い。
 それで、この2人も、一旦ブリュサムズシティまで同行することになった。

 この2人は、先に俺の領地に入ってもらい、現地で領民と代官との間で揉め事が起きていたり、それ以外にもなにか不都合があったりすれば、報せてもらう事になっていた。
 特に、アイザックには、緊急性があると判断したら、ある程度は事後承諾で物事を進めても構わない、と権限を与えた。
 セオ兄には、その訓令を与えなかったのは、あまり考えたくないことだが、本来の領主たる俺の実兄であるという威光を使って、悪さされる可能性が、否定しきれなかったからだ。

「そんなに信用ないのか? 俺?」
「弟に仕官させてもらう兄に、そこまで信用あると思います?」

 呆れたように言ってきたセオ兄に、俺はニッコニコ笑顔で即座に言い返した。
 流石に、さらに言い返す言葉はなかったらしい。

「ただ、セオ兄にも、それなりに重責は背負ってもらいます」

 セオ兄には、去年の作物の収穫状況を、事細かに記録してもらうことにした。水利が悪い、ってのがどうしても引っかかっていたからな。場合によっては、領地入りして、すぐにその対策に取り掛かる必要があるかもしれない。

 ともあれ。この2人には、俺がブリュサムズシティの冒険者養成学校にいる残りの3ヶ月間の間、アルヴィン・バックエショフ準男爵領の情報を収集してもらうという、重要な任務を任せることにしたのだった。

「それじゃあ、1人にしてすまないが、屋敷の方は、頼んだよ」
「はい! お任せください!」

 入出札ゲートの目前で、俺は、帝都に残していくことになるアイリスに、そう言った。

 姉弟子の決闘から1週間ほど、おどおどとした様子も、随分なくなってきて、最近は落ち着いて屋敷にいてくれるようになった。

「これをお前にやろう」

 アイザックは、アイリスに、麦の穂の意匠の、銀細工のペンダントを差し出した。

「え……アイザック様、よ、よろしいのですか?」
「ああ、今まで兄らしいことをしてこれなかった、せめてもの償いだ」

 戸惑いながらも受け取りつつ、アイザックに視線を向けるアイリスに対して、アイザックは穏やかな表情を向ける。

「償いだなんて……そんな」

 アイリスは、更に困ったようになってしまった。

「もし、寂しい時があったら、それを見て、私のことを思い出して欲しい」
「! あ、は、はい、解りました! ありがとうございます」

 うーむ。
 ストイックな兄妹関係になるのか、それとも男女の仲に発展するのか、今はどっちとも言い切れない感じだが、いずれにせよ、そのうちあれだな、帝都屋敷は別に人雇って、アイリスはアイザックのそばにいられるようにするか。

「もし、寂しさに耐えきれないときや、なにか困ったことがあったら、いつでもアドラス聖愛教会に」
「ローチ伯爵家の帝都屋敷でも良い、兄上には、話しておいた」

 ミーラとエミが、アイリスに言う。

「あ、は、はい、お気遣い、ありがとうございます!」

 アイリスが、自分なんかにはもったいない、と言った様子で、言ってくる。

 その後で、ミーラとエミが、真剣な表情をして、俺に耳打ちしてくる。

「ドーン伯爵家の者がアイリスさんに嫌がらせしないかどうか、見張りを頼んでおきました」
「兄上にもそのあたり、頼んでおいた」

 声を潜めて、言う。
 くっそ……俺が帝都を離れれば、その可能性があったのか。失念していたぜ。

「悪い、2人とも。恩に着る」
「いえいえ、夫人候補として、当然の行為ですよ」
「私達も、アイリスが嫌な思いをするのは、もうたくさん」

 俺が少し申し訳なく思って言うが、ミーラは苦笑し、エミも口元で笑って、そう言った。

「じゃあ、アイリス。ひとまず3ヶ月の間、屋敷のこと、頼んだぞ。風呂も食事も、好きにしていいからな」
「そんな、もったいないです……ですが、はい、留守はきっちりと守ってみせます!」

 そう言ったアイリスに、皆で手を振って。
 俺達は、入出札ゲートから場内に入る。

 さて、ひとまずはブリュサムズシティに、帰還と参りますか!
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