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第12話 姉弟子、決闘する。

Chapter-43

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「何!? ……なん……だと……」

 私の放った爆焔魔法の威力が、そんなに意外だったのか、モーガンは、ワンドで風の刃を放った姿勢のまま、一瞬、固まってしまう。

 ドラゴンに比べたら、ワイバーンなんぞこの程度で充分だ。
 もっとも、こいつをテキトーにそこらでぶっ放したら、ちょっとした城が半壊ぐらいはするがな。

 焼け焦げた残骸になったワイバーンが、墜落してくる。

 さて、と。

「面白いショーだったが、もう終わりか?」

 私は、固まったままのモーガンに近付きながら、そう言った。

「は、ひっ!?」

 我に返ったのと驚愕の声を同時に出して、モーガンは、ズボン姿の下半身を間の抜けたガニ股にしながら、私に視線を向けてくる。

「まさか、ドラゴン殺しの同門の、姉弟子たるこの私を、ワイバーン程度で屠れると思ったわけではあるまいな?」

 私は、自分でも解るほど、酷薄そうな笑みを浮かべて、そう言った。

サンダーボルト轟雷撃!」

 略詠唱で、基本的だがそこそこ強力な落雷魔法を、モーガンのギリギリに着弾させる。

「ひ、ひぃっ!」

 私は、次の攻撃の準備に移行していたのだが、モーガンはその場にぺたん、と、尻をついてへたり込んでしまった。腰が抜けたのか。

「これは決闘だ。生死の責任は問われない、まだやる気なら────」

 腕輪の嵌った右手に、炎を呼び出す。

「次は……命中させるが?」

「ひ、ひぃいぃぃぃっ」

 私が、薄笑いを浮かべて言うと、モーガンは、腰を抜かしたまま、背中を下にして這い回るように、私から距離をとった。

「サッチュス候!」

 私は、炎を呼び出したまま、審判台のサッチュス候に視線を向ける。

「モーガン・マスグレイヴ・ドーン、戦意喪失。リリー・シャーロット・キャロッサを勝者と認める、異議のある者はこのバーナード・センツベリーに申し立てよ」

 一瞬、場内の歓声が止み、一瞬不自然な静寂が訪れる。

「異議なしと認む、勝者、リリー・シャーロット・キャロッサ騎士爵!」

 歓声が上がる。私は、それに答えるように、手を振ってみせた。
 にしても……そんなに女の私が勝利した方が、よかったのか? 歓声がいやにでかい気がする。

 アリーナの出入り口、私側のサイドの方から……アルヴィン? 何をやってるんだ? ん? 服……服が!?

「ひゃっ……」

 今、私は気づいた。

 ヤツの風魔法を喰らいすぎた。
 マントと下着以外、ボロボロで、もはや衣服の役割を果たしていない。
 下着も、チューブトップの乳宛ては、もう、剥がれかけていた。

「ひゃ、ひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 私は、男どもの歓声を浴びながら。
 ほとんど裸の肢体を、慌てて、マントで隠した。

 私だってなぁ、処女おとめではないが、まだ、未婚なんだぞっ!
 いや、結婚は、半ば諦めてたがなぁ、最近は婿候補が、いるんだぞっ!




「すまんジャック……戦いの方に気を取られていて、羞恥に対する意識を失っていた」

 私は、どういう顔をすれば良いのか、微妙な表情になってしまいながら、その婿候補殿に謝りつつ、キャロとミーラが持ってきてくれた代えの服に、袖を通した。

「いえ、リリーさんが無事だっただけでも、良かったですよ……」

 ジャックは、ふぅと胸をなでおろすように、そう言ってきた。

「結構……強い相手でしたよね」
「ああ、アルヴィンが、弟々子でなかったら、負けていたかもしれないな」

 ジャックの言葉に、私はそう言って、アルヴィンの方を見た。
 ジャックもまた、アルヴィンに視線を向ける。

「へ……俺?」

 当のアルヴィンは、間の抜けた顔をして、自分を指差した。

「俺……また、なんかやっちゃいましたか?」
「まぁな」

 疑問符浮かべまくったまんまのアルヴィンが、小首を傾げる。
 ま、お前の才能は、なるほど大したもんだよ。

「にしても、よく、私にピッタリの服があったな」

 私は、キャロとミーラが持ってきた服が、妙にピッタリなのに、感心した。
 エミは規格外としても、キャロとミーラの服なんか持ってこられても、ダボタボだっただろうに。

「ああ、それは、アイリスさんの着替えとして、用意していたものなんです」
「ああ、そう言うこと……」

 ミーラの答えに、私は、脱力した笑みを浮かべるしかなかった。

「シャーロット・キャロッサ卿、もう、大丈夫ですか?」
「ええ、ああ、うん、大丈夫よ」

 今度もまた、申し訳無さそうな表情で入ってきた、アイザックと、アルヴィンの兄のセオの2人組に、私は、努めて軽く、そう言った。

「すみません、兄が戦闘魔導師となっていたのは知っていたのですが、まさか、兄が決闘代理人になるとも、シャーロット・キャロッサ卿を追い詰める程とも、考えていなかったものですから」

 アイザックは、正面から私に頭を下げながら、そう言った。

「いやぁ、相手がどれほどの腕であれ、不利を招いたのならそれは私の精進がまだ足りないということだよ、君が気にすることじゃあない」

 私は、そう言った。まぁ、それは事実だからな。最初、多少侮っていたのも、あるし。

「ただ……こうなると、アイリスの所有権はシャーロット・キャロッサ卿のもの、となるのが自然なのかな……」

 セオがそう言った。

「まぁ……俺としては、それでもかまいませんけどね」

 アルヴィンは、まず、キョトン、としたように、兄達に向かって、言った。

「ただ、そうなると、アイリスの奴隷解放の費用が必要か……」

 そう言って、アルヴィンは、親指を口元に充てるようにして、そう言った。

 アルヴィンが言っているのは、解放奴隷の後見人が、市民局に支払わなければならない信託金のことだ。
 アイリスの年齢の女性なら、20~50ゴルドというところか。
 その解放された奴隷が、3年間、犯罪を犯さなければ、返還されるが、もし、重度の犯罪を犯したり、軽犯罪でも経済的な困窮による窃盗などを繰り返せば、没収となる。

 このため、解放奴隷の後見人は、平民でもなれることはなれるが、一部の豪商を除けば、まず貴族、それも領地持ちでなければ無理だ。

「すみません、姉弟子、それは俺が建て替えます」

 アルヴィンは、そう言うものの、私は、苦笑して返すしかなかった。

「それぐらいの負担をするぐらいの経済力は、私にも、あるよ」
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