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第12話 姉弟子、決闘する。

Chapter-42

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 サッチュス候の合図に対し、私は身構える。

 師匠に言わせると、私の資質はアルヴィンには劣っているらしいが、それはあくまで比較論のレベルでしかない。
 踏んできた場数まで入れるなら、まだ、アルヴィンにだって、負けはしない程度の自信はある。問答無用で逃げ出したくなるのは、師匠とエンシェント・ドラゴンくらいのものだ。

 美男子ではあるが武官肌の次男坊に比べると、長男坊のモーガンはいかにもと言った優男だ。武人でないなら、異性受けしそうな容姿ではある。
 もっとも、アルヴィンに言わせると、ろくな性格ではないらしいが。

 装いは軽快で動きやすそうな、シャツの上にベスト、タイトなズボン、と言った感じだが、飾りっ気のない私のパンツルックに比べると、貴族らしくゴテゴテはしている。手には短い、錫杖頭に大きな水晶球のついたワンドを持っている。おそらく発動体だろう。

 私の方は、発動体は、師匠に直接師事していた時に作った、特製の腕輪バングルだ。確かアルヴィンも似たような物を作って持っていたはず。

 さて、どうするか。
 私が自分から仕掛けるべきか、少し逡巡した瞬間。

ウィンドカッター風刃

 ワンドを構え、風の刃を放ってくる。

 とは言え、私もそんなに気を抜いていたわけじゃない。ヤツの魔法発動と同時に、ステップで躱す。
 バシッ、と、揺れたマントに当たり、弾けるようになびいた。
 このマントは強化のルーンを編み込んであるから、ちょっとやそっとの攻撃で裂けたりはしない。

「ウィンドカッター!」

 更に2発、3発と、ウィンドカッターを放ってくる。風系の攻撃魔法としては基本的な技だが、これだけ素早く連射できるならそれなりのものではある。

 だが────

「大口を叩いた割には、大した事はないようだな!」

 2発目、3発目を素早く躱し、4発目、5発目をシールドの魔法で弾いたところで、私は、挑発の目的でそう言った。

「流石にこの程度では、魔女の弟子には失礼でしたか」

 モーガンは、一旦私から間合いを取りつつ、ニヤリと笑いながらそう言った。

「それでは、これではいかがでしょうか?」

 正面で、両手でワンドを握り、魔法を発動させる。……何だ?

 黒い影が出現したかと思うと、私に向かって疾風のように襲いかかってきた。
 シールドの魔法は間に合わない、私は右方向に側転してそれを躱した。

「こいつは……!?」

 私を掠めていった黒い影に視線を向けると、それは翼を持つトカゲのような、こぶりなドラゴンのような姿をしていた。翼竜ワイバーンか。
 ドラゴンほどに強力ではないが、それでも魔獣の中ではなかなか厄介な部類に入る代物だ。

「どうかな、我が召喚魔法は」

 召喚魔法?
 私の知る限り、そんな高度な技、師匠ぐらいしか使えないぞ!

 召喚魔法は、召喚した存在を、更に、その場で制御し続けなければならない。
 強力な魔獣を呼び出せば、それを使役するのに、持続的に魔力を大量消費する。
 効率が悪いからメジャーではない。アルヴィンも興味を示していなかったはずだ。

「やれっ」

 モーガンが腕を振るうと、それを合図にして、ワイバーンが私めがけて再び、急降下から疾風のような勢いで飛びかかってくる。
 今度はタイミングが分かったので、シールドの魔法で受け止める。
 ガキン、と金属がぶつかるような音がした。

「おっと、こちらも忘れてもらっては困りますね!」

「!?」

 ワイバーンに指示を出しながら、合間にモーガンは私めがけて風の刃を放ってきた。

「っ!」

 跳躍して避けたつもりだったが、少し掠めた。シャツの脇腹が上下に裂け、その下で血が滲む。

 まさか、そんな。
 召喚魔法を使いながら、別の魔法を発動させるだと!?
 それは、師匠すら超えてるじゃないか!

 私は、跳躍して風の刃から逃れながら、ワイバーンの急降下に備えてシールドの魔法を準備する。

 くそっ、こんなの、どうやれば勝ち目があるっていうんだ!?
 ドラゴン1匹なんか、もう、超越してるじゃないか!

 シールドで受け止めるが、あまりの勢いに、私はそのまま、吹き飛ばされ、アリーナの床に転がる。

 こんなの……どうやって……

 私が転がった先に、容赦なく、風の刃が撃ち込まれてくる。

 こんなの……アルヴィンだって……勝ち、ようが……

 アルヴィン……召喚魔法……そういやあいつ……言ってた……けど…………

『召喚魔法なんて、直接使う必要もないじゃないですか』

 あのバカ……何が必要ないだ、メチャクチャ、有用じゃないか……

『だって、──────』

 …………アルヴィン……?

 そうだ…………そう言うことか!
 思い出したぞ、アルヴィンが、なぜ召喚魔法に興味を持たなかったのかを。

「何が召喚魔法だ、笑わせてくれる!」

 召喚魔法を使ってるにしちゃ、ヤツ自身の消費が少ない、別の魔法が発動できるわけだ。

 そう、こいつが使っているのは、召喚魔法じゃない。

 使役魔法というものがある。魔獣や動物、まぁやろうと思えば人間もだが、それを思い通りに動かす魔法だ。
 これもかなり高度な技ではあるが、召喚魔法と違い、一度かけてしまえば連続的には魔力は消費しない。

 使役魔法をかけたワイバーンを、ワンドの中にでも格納魔法で隠していたんだ。

 だとすれば。
 ワイバーンも厄介な魔獣ではあるが、ドラゴンに比べたら大した相手じゃない。

 私はアリーナを回るように駆けて、モーガンが放ってくるウィンドカッターから逃れ続ける。時折掠めて、私の衣装が少しずつはだけていく。

 なるほどアルヴィンの言った通りの人物だ、それで私に辱めを加えるのか、それとも嬲るつもりでいるのか。
 先程から、あれだけのチャンスを得ておきながら、急所に命中させてこなかったはずだ。
 だが、それが時間稼ぎだと言うことぐらい、戦闘魔導師を名乗るなら、気づいてほしかったな。

「炎の精霊よ、集え!」

 略詠唱だけではちょっときつい。
 駆けながらも、精神力を腕輪に集中させる。腕輪に、炎の精霊の力を集める。

 モーガンは、本気で狙ってきていない。それが目的だからだ。
 ゲスなヤツだが、今はそれが有り難い。
 思考をそれに集中させる。身体は、ただ駆けさせる。

 一瞬、風の刃が私の身体を舐めるのを、わずかに甘受する。
 そして。

「素粒子を震わせ、その力を示せ、ギガ・バレット激焰球

 爆音が鳴り響き、ワイバーンが、自ら弾けるように、炎に包まれた。
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