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第10話 恋の鞘当てで苦労することになる。

Chapter-36.5 Ver.C

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「…………え?」

 その人物は、意外だった、予想していなかった、と言う感じの、悪意はないが、引きつった表情になる。

 俺は、構わず、両手で、その人物の、右手を握った。

「キャロル・ロゼ・ハリス・エバーワイン……俺、マイケル・アルヴィン・バックエショフと、結婚を、約束して欲しい」

「え、……え……」

 キャロは、目が回ったかのように、視点の定まらない表情を、俺に向けてくる。

「なんで…………」

 キャロは、ぜぇ、はぁ、と、深く、息をしながら、言ってくる。

「なんで……私なの!?」

 やっと、焦点が戻ってきた目で、俺を見つめながら、少し、困惑したように、言ってきた。

 確かに、キャロは、困惑したかもしれない。
 だって、俺は、付き合いの長い、キャロとエミよりも、ミーラに、一時期、心を奪われてしまったのだから。

 きっと、ミーラが正妻になる。

 キャロと、エミが、そう思っていたとしても、無理はなかった。

 背後の、ジャックや姉弟子も、意外そうな、軽く驚いたような、声を上げる。

「だめ……だったか?」
「そんなワケ……ないじゃない。うん、今更、嫌とか、言うわけ無いわよ」

 俺の言葉に対し、キャロは、しかし、どちらかと言うと、自分に言い聞かせるかのように、そう言った。

「でも、理由ぐらい、知りたい……本当にそれだけ、アルヴィンを責めたりするつもりじゃないから!」

 どこか、必死な様子にもなってしまいながら、キャロは、俺に、潤んだ、訴えかけるような目を、向けてくる。

「その……今の俺がある、そのきっかけが、キャロだから、かな」
「え……」

 俺の答えに、キャロは、一瞬、ぽかん、としたように、そう言った。

「だからさ……その、キャロが、俺を、強く望んでくれたから、ドラゴンとの戦いも、その後のミーラとの出会いも、あるんだって、そう考えたら、やっぱり、キャロを正妻にするべきかなって」

 そう。
 3人にも、言えないけど。

 キャロが、俺を、ルイズやユリアから、引き剥がしてくれたおかけで。
 今、俺は領地持ちの準男爵になり、ミーラとも、出会えたわけで。

 少なくとも、『転生したけど辺境貴族の末っ子でした』の主人公ではなくて。
 として、ここにあることが出来ているわけで。

 それを考えたら、キャロのことが、本当に得難い存在なんだと、思ってしまった。

 だから、そのキャロを、正妻にするのが、当然だと思った。

「もちろん、キャロを愛おしく思う。その気持ちに、偽りはないよ」

 そんなことを、誤魔化せるほど、俺は器用な人間じゃない。

「そっか……そうなのね……うん、そうよね……」

 一瞬、キャロは、俯いてしまって、それが落ち込んだようにも見えて、俺は困惑してしまったのだけど。
 キャロは、そう、呟いて。自分に言い聞かせるようにして。

 やがて、顔を上げて、俺に、笑顔を、
 涙が少し、滲んでいるけど、いつもの、輝くような笑顔を、向けてくれた。

「なります」

 キャロが、言う。

「私、キャロル・ロゼ・ハリス・エバーワインは、マイケル・アルヴィン・バックエショフの、伴侶になることを、誓います」

 ハッキリと、言ってくれた。

 パチパチパチパチ……
 最初に、拍手をしだしたのは、ミーラだった。

「おめでとうございます、アルヴィン、キャロ。きっと、神々も、2人を祝福なさるでしょう」
「うん、おめでとう、キャロ、アルヴィン」

 エミも、そう言って、拍手をしだした。

「よっ、おめでとう、お2人さん!」

 ジャックは、そんな、軽く囃し立てるような言葉をかけてきながらも、姉弟子共々、拍手をしてくれた。

「けど、アルヴィン」

 エミが、念を押すように、言う。

「さっきも言ったけど、私とミーラのことも、忘れたら、ダメだから」
「そうですね、今更、お別れだなんて、考えられません」

「ああ、解ってるよ」

 そうだ、こういう時は。
 男なら、こう言うしかないだろう。

「皆まとめて、面倒見るよ、嫌だと言っても、見させてもらう。だから、みんなも────黙って俺に、ついてこい!」

 照れ隠しの意味もあって、前世で見たB級映画のような言い回しで、俺は、格好をつけようとしてしまった。

「いよっ、この、お調子者!」

 むしろ、その格好をバッチリと決めてくれるかのように、ジャックが、そう囃す声をかけてきた。

 そうだ、もう、後悔なんかするもんか。
 何をクヨクヨするものか、ゆくぞこの道、どこまでも、だ!
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