異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。

kaonohito

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第9話 気になる異性ができてその気になる。

Chapter-33

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 私、キャロは、アルヴィン──バックエショフ準男爵家の帝都屋敷の、浴室で、お湯に浸かりながら、エミとミーラと、いろいろ雑談していた。


 あの騒ぎの幽霊騒動があった翌日。
 アドラス聖愛教会から、私達を代表する形で、アルヴィンに、あの幽霊屋敷の浄化の代金が、支払われた。

 それで、その金額から、一部を引いた額で、アルヴィンが、教会から、あの屋敷を買い取った形だ。
 別に、曰く付きの屋敷でなくとも、支払われた額で、別の物件を買っても良かったんだけど。
 瑕疵物件ではあるけれど、立地自体は、それなりにいいところにあって、官庁街も近いからと、アルヴィンは、あの屋敷を貰い受けることにしたらしい。

 で、それならなんでこんな回りくどい方法にしたのかなんだけど、簡単に言うと、アルヴィンにその一部の金額、簡単に言うと、派手に壊した部分の、修繕費を渡すため。

「いいんですか、ぶっ壊したのは、俺達自身ですよ?」

 アルヴィンは、少し困ったように、そんな事を言っていた。
 実際、扉なんか壊したのは私達、なのよね。

 けれど、

「いえいえ、我々が浄化しようとしても、同じようなことに、なっていたでしょうから。どうか、お収めください」

 と、セニールダー主席宣教師は、穏やかに笑いながらそう言った。

「それに、これからは、ミーラの家ということにも、なるのですからな」

 あ、そうか……言われてみれば、そうよね。
 私達だけアルヴィンと一緒に住んで、ミーラだけ教会から通いとか、明らかに不公平だし。
 私達も、いちいちミーラと別れて寝泊まりするのが、なんというか……不自然と言うか、億劫に感じてきたところだったしね。

「ところで、これ、私達っていうか、アルヴィンが主導で、浄化しちゃった感じですけど、教会としては、問題なかったんですか?」

 私は、そのあたりが気になって、ちょっと、聞いてみた。
 すると、

「いえいえ。アルヴィン殿も、お仲間の方も、我が教会で本洗礼を受けて、帰依された身ですからな。それに、ミーラも参加していたわけですし。何の問題も、ありませんよ」

 とのこと。


 で、その日、早速新しい調度品を用意しに出かけた。

 格納の魔法って、便利ねー。
 どんなに大きいベッドやソファも、ほいほいとアルヴィンのマントに収まっていく。

 あ、ちなみにミーラも使える。ミーラは、ホーリーシンボルのペンダントを、格納魔法のキーアイテムにしていた。銅製で、銀のメッキがしてある、大きなメダルだ。

 そんなわけで、その日のうちに、調度品から、キッチンの調理道具まで、揃えて、運び込むことが出来た。

 なんか、アルヴィンが、鉄製の天火オーブンを買ってた。コンロに乗せて使うやつだ。
 屋敷のキッチンには、作り付けられた、本格的な石窯のオーブンもあったのだけど、アルヴィン曰く、こちらの方が使いやすいから、らしい。まぁ、言いたいことは、解る。

 そして、そのさらに翌日、私達は、今までお世話になってた、ローチ伯爵家の帝都屋敷を、引き払って、修繕も終わった、こっちの屋敷に、引っ越してきた。

 ウィリアムさんは、エミが出ていくのは、少し寂しかったみたいだけど。
 まぁでも、帝都にいる間は、いつでも、会えるからって、エミはそう言ってた。

 引っ越し作業が終わった──と言っても、旅行カバンを、運んできた程度なんだけど。あ、そこで、ミーラも教会から、こっちの屋敷に移ってきた。
 その後、部屋の割当とか決めて、それぞれ、準備してたら、もういい時間になってた。


 それで、私達は夕食前にと、お風呂に入ってるわけなんだけど。


 それにしても。

「うーん、アルヴィン、明らかにミーラと出会ってから、やる気を出したわよね」

 私は、少しはしたなくも、身体の力を抜くように、浴槽の中で手足を伸ばしながら、そう言った。

 この屋敷のお風呂、結構豪華に出来ている上、広い。
 3人で入って、こんな姿勢になっても、少しも窮屈さを感じさせないほど。

 それに、浴室内だけじゃないけど、ドライ・マナの照明があって、昼間のように明るくできる。
 ただ、起動できるのは、アルヴィンとミーラだけ、っていう制約はあるけど。

「うん、今までの、やる気のないアルヴィンじゃ、なくなったって感じ」

 エミも、同意の声を出してきた。

 あの、面倒くさがりで、将来はのんびり過ごしたい、とか言ってたアルヴィンが、今回の件では、いつにも増して、リーダーとして、グイグイと前に出ていった感じ。

 元々、前世で36歳まで生きてた、その記憶があるからって言うことで、事あるたびに、アルヴィンをリーダー役にしてた私達が、それを言うのはおかしいのかもしれないけど……

「そうなんですか?」

 そんな風に、訊き返してきたのは、当のミーラ。

「そう、なんかね、ミーラと会うまでのアルヴィンは、どこかやる気のない感じで、将来も、田舎でのんびり過ごしたいとか、そんな事を言ってたのよ」

「とても、そんな方には、見えないのですが……」
「だから言ったじゃない、ミーラと会ってから、態度が変わった、って」
「そう……なんですか?」

 私が説明しても、ミーラは困惑して、信じられないと言ったように言う。
 それはそうよね、ミーラと出会ったのがきっかけで、前向きなアルヴィンに変わったんだから。

 そりゃアルヴィンも、立派な男なわけで……
 いいとこ見せたいと、やる気を出す。それっくらい、ミーラが、好印象だったんだろう。

 実際、女の私から見ても、ミーラって、顔も可愛ければ、スタイルもいいし。
 私も、胸と顔はかなり自信あるんだけど、全体的なプロポーションだと、ミーラの方が、肉付きが、悪くもなく良すぎもせずって感じ。

 ちなみに、エミはと言えば、うーん、一応、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでるんだけど、身長が1.7シトリルあるせいか、全体になだらかに見えてしまう。
 ちなみに、シトリルってのは長さの単位。アルヴィン曰く、1.012mで1シトリルなんだとか。

「でも、あれ程の力を持ちながら、そんな事を言うのは、なにか、理由があったんですか?」

 ミーラに問いかけられて、私とエミは、一旦顔を見合わせて、少し考える。

「うん……ミーラには、話しちゃってもいいわよね、この話」
「内緒にしていても、仕方ない」

 エミの同意の言葉を得てから、私は、経緯を話すことにした。

「実はね、アルヴィンって、前世の記憶があるらしいのよ」
「そうなんですか。確かに、徳の高い人間は、転生することも、あると聞きますけど……」

 私の言葉に、ミーラは言う。

「しかもね、その、前世では、この、今の私達がいる世界とは、全く別の世界の住人だったんだって」
「それは…………」

 ミーラは、少し難しそうな表情をして、しばらく俯いた後、

「ちょっと、想像できないですね」

 と、言った。

「まぁ、普通はそうよね」

 私が、苦笑しながら言うと、エミも、コクン、と、ミーラに向かって、頷いてみせた。

「でも、本人が言ってる以上、否定もしきれなくてね」
「それは……確かにそうかも知れませんが」

 私の言葉に、ミーラは困ったような苦笑をしながら、そう言ってきた。

「ただ、問題なのは、その前世での最期……」

 エミが言った。

「なにか、よくないことでも?」

 ミーラが、少し不安そうな顔をして、訊いてくる。

「うん、前世ではね、アルヴィンは、ケイオススクリプト魔法の呪文を編集するような、仕事についていたらしいのよ」
「それって、結構なエリートじゃないですか」

 ミーラが、驚いたように言う。

「うーん、実際は、厳密には違うみたいで、エリートってわけでもなかったらしいんだけど」

 そのあたりは、私達にも、よくわからないのよね。

「ただ、その仕事の状況が、問題」

 エミが言う。

「ノルマとスケジュールの管理が、劣悪だったらしくて、ろくに休息も取れないような状態で……それが原因で、斃れた。それが、アルヴィンの前世での最期だった」
「まぁ……」

 聞かされて、ミーラも、表情を曇らせる。
 まぁ、それはそうよね。

「馬鹿な話よね、奴隷だって、使い潰しちゃったら、持ち主の損にしかならないのに。特殊な職能を持った人間を、使い潰しちゃうなんて」

 私は、少し憤り混じりに、そう言った。

「そうですね、あんまりです……」

 そう、ミーラは言ってから、

「それで、現世ではのんびり過ごしたいと?」

 と、訊き返すように言ってきた。
 私とエミが、同時にうなずく。

「直前までそんな感じだったのに、ホント、ミーラに会ってから、人が変わったみたいに、張り切るようになっちゃって。きっと、ミーラがそれだけ、アルヴィンにとって、好みだったんでしょうね」
「そんな。私なんて。こんな跳ねっ返りに嫁の貰い手なんかあるのか、なんて言われてましたのに」

 私の言葉に、困惑するように言うミーラ。
 すると、エミが、言う。

「アルヴィンは、多分、元気で強い女の子、大好き。ミーラの前では、かっこよくしたいと思ってる」

 うん、多分そうなんだろうなぁ、とは、私も思ってる。

「でも、それなら、キャロやエミも、当てはまるんじゃないですか?」

 ミーラの言葉に、私とエミは、再び、顔を見合わせる。

「フフッ、ちゃんと、解ってるわよ、私やエミのことも、特別な目で見てるってことぐらい」

 私は、ちょっと、強気な笑い声を出してしまいながら、挑発気味に、言ってしまった。
 でもまぁ、事実だし。特に、ドラゴンとの戦いの後から、私やエミを見る目が変わった、ってのは、自覚してる。もちろん、エミも。

「私も、自分から、試合放棄する気は、ないから……」

 エミも、そう言った。
 そう言って、更に続ける。

「でも、誰を正妻にしたとしても、3人で、傍にはいれたらな、とも思う」
「そうね、私もそう思うわ」

 エミの言葉に、私も、穏やかに口調になって、そう言った。

 前世で、それだけ苦労したんだもん。現世では、それぐらいの思いは、したって、構わないわよね……

「私は、お2人ほど、まだ、付き合いは深くありませんが……そうですね、そんな辛い記憶があるのなら、傍で、癒やしてあげられたらな、とは思います。私がそうなれるなら、ですけど」

 ミーラも、そう言った。

「決まりね」

 私は、言う。

「とにかく、アルヴィンは、現世では、私達が幸せにする……まぁ、そこまで断言ではなくても、納得のいく生き方を、させてあげる!」
「おー!」

 私の言葉に、エミは、気合を入れるように声で、同意してくれた。ミーラも、その満面の笑顔が、やっぱり、異議はないって、言ってくれていた。
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