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第9話 気になる異性ができてその気になる。

Chapter-29

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「これが……そうか……」

 セニールダー主席宣教師に紹介してもらった、物件。
 その前に、俺達は来ていた。

「なんか、それらしい感じは全然しないんだけど」

 キャロが言った。

 いや、まぁ、その通り。
 周りは、冬にしてはちょっとうらうらと暖かい、日差しのある日常。
 のーんびりしている。

 で、件の物件の方はと言えば……
 これまた、特になにかおどろおどろしい雰囲気なんかはないように感じる。
 貴族屋敷だからそれなりのデカさではあるが、それ以外の点ではフツーに、周囲の雰囲気に取り込まれている。

 単なる瑕疵物件ってことなのかな。
 まぁ、それなら気にしなきゃそれまでのことなんだけど……
 でも、教会が引き取らざるを得ないような物件が、そんな生っちょろいものかな。

「今、門を開けますね」

 俺達が、しげしげと屋敷の正面から外観を観察していると、ミーラがそう言って、束になった鍵の1本で、門を鎖で閉じていた、南京錠──いや、南京ってのは前世の地名由来だから、今はなんて言えばいいんだ? とにかく、そのシリンダー式の錠前を開けた。

 鎖を外して、ギィィィッ、と門を開く。
 確かに、しばらく開閉がなかった鉄格子の門は、それらしい軋みを上げたけど、特に不気味って感じもしない。

「特に変わったところはないみたいだねぇ……」

 俺は、そんな事を言いながら、ミーラを先頭に、それに続く形で、屋敷の敷地内に入っていく。

 俺の後ろは、キャロ、エミ、そしてジャックの順で、踏石を渡りながら、玄関へと向かっていく。

「なんか、拍子抜けだねぇ……」

 俺が、肩を竦めてそう言った、その次の瞬間だった。

「うわぁっ!?」

 突然、最後尾のジャックが、驚いたような声を上げる。

「!?」
「どうした!?」

 俺が言い、皆驚いて、最後尾を振り返る。
 ジャックは、転びかけて、わたわたとバランスを取り直しているところだった。

「ちょっと、脅かさないでよね」
「違う、ただ躓いただけじゃないんだ」

 キャロが、抗議するような声を上げるが、それに対し、ジャックは、驚ききったような顔で、足元の踏石を見ている。

 その踏石が、拳ひとつ分ほど、地中に凹んでいた。
 ジャックは、それに躓いたのだ。

 ミーラ、俺、と、入ってきた時は、そんなことにはなっていなかったはずだ。

「私まで、なんともなかった。突然、石が、凹んだ、ってこと?」

 エミが言った。

 ミーラやキャロはブレストプレートを着けて武装を持っているし、俺は俺で愛用の盾を背負っている。決して、軽装じゃない。
 その俺達が平気だったのに、ジャックの時に突然、凹んだんだ。

「仕掛けか、それとも……」

 怪訝そうな顔をして、ミーラが言う。

「いずれにせよ」

 俺は、正面を向き直して、屋敷の建物を見上げ直した。

「歓迎はされてない、ってことみたいだな」

 それは間違いない。

「どうしますか?」

 ミーラが、俺に訊ねてくる。

「いや、そのつもりで、皆準備してきているし、その点は、これ以上のことは出来ないだろう。とにかく、中に入って、調べてみるしかないな」

「そうね」
「賛成」

 俺が言うと、キャロとエミは、賛成の声を出してくれた。

「ジャックは、大丈夫か?」
「ああ、ちょっと、驚いただけだ。注意して進んだほうがいい、って事だけは、理解したがな」

 俺の問いかけに、ジャックは凹んだ庭石を見だ見据えたまま、そう言った。

「よし……中に入ってみよう」

 俺達は、屋敷の玄関へと進む。

「ねぇ、エミ? アルヴィンってば」

 キャロがエミに、こっそりと声をかけると、エミはコクン、と頷いた。
 ? 何かあったのか?

「どうかしたのか?」
「あ、いいのいいの、なんでもない、こっちの話」

 俺が問いかけると、キャロは両手をバタバタと振って、誤魔化すようにそう言った。エミも、コクコクと頷く。

「なんか解ったんなら、言ってくれよ。結構な幽霊屋敷っぽいからさ……」

「あ、ううん。そう言うんじゃないの」

 俺が再度問いかけるが、キャロはそれを否定するように言う。

「油断ならないってのは、理解しているから、大丈夫……」

 エミがそう言った。まぁ、それなら、いいんだけどな。

「では、玄関を開けますね……」

 ミーラが、鍵の束から別の鍵を手にとって、玄関の重厚そうな扉に近づく。

「ちょっと待った」

 俺は、それを止めた。

「どうしましたか?」
「いや、ここは、俺が開ける」

 振り返って、訊いてくるミーラに、俺は、そう言った。

「ですが、この調子ですと、中に何があるか、わかりませんよ?」
「だからだよ。俺は、光属性の魔法は、あんまり得意じゃないんだ。使えないってわけじゃないけどな。だから、俺が扉を開けるから、ミーラは、何かあった時の為に、備えておいてくれ」

 少し俺のことを心配するかのように、訊き返してくるミーラに、俺は、そう言った。

「確かに、その方が良さそうですね、そうしましょう」

 ミーラも、その意見に、同意してくれた。

「玄関の鍵は、これです」
「ああ」

 俺は、ミーラがそう言って差し出してきた、1本の鍵と、それが金属の輪で繋がっている鍵の束を、受け取った。

 俺に鍵を渡してから、ミーラは、背中に背負っていたロングメイスと、片手用としてはそこそこ大きい半ナツメ型のシールドを、手に持って、構えた。
 俺も、自分の盾を、背負っている位置から、構えられるように、左手に持った。

 鍵を、玄関の鍵穴に、差し込む。
 そのまま反時計回りに回すと、鍵は、カチャリ、と開いた。

 その時点では、特に、何も起きない。

 俺は、振り返って、仲間達に、頷いてみせる。
 ミーラ以外も、それぞれの武器──ジャックは、弓──を持って、頷き返してきた。

 俺は、盾を前に出した状態で、右手で支えながら、左手で、玄関の扉を開けた。

 ヒュッ

 風切り音。その時俺は、それに反応して……ではなく、予め想定した動きで、盾を構えていた。

 ガキィンッ

 何かが、盾に弾き返された。
 それは、多分この屋敷の調度品だろう、足置き台オットマンだった。

 トラップの類で、こんなもんが飛んでくるとは、考えにくい。
 もしそうなら、矢とか、短剣とか飛ばしてきそうなものだ。

 つまり……

「マジモンの、幽霊屋敷かよ、これは……」

 俺は、改めて、ゴクリ、と、喉を鳴らした。
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