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第8話 新メンバーを加えて準備も開始する。

Chapter-26

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 ミーラに連れられてやってきた、その店は、アドラス聖愛教会からほど近い、皇宮正面の大通りに存在した。
 鍛冶師がやっている店、とのことだったが、その割には、フロア面積はそれなりの店のようだった。

「いらっしゃい、ああ、プリムス・セニールダー様」

 入店した俺達を出迎えたのは、鍛冶師と言うより、明らかに接客係と言った感じの、若い店員だった。
 ミーラとは、顔なじみのようだった。

「こんにちは」

 ミーラが挨拶を返すと、

「今日は、どういったご用件で?」

 と、早速、と言った様子で、店員はそう訊ねてきた。

「実は、今日はこちらの皆さんが、武具を揃える相談をしたいということでして」

 入店する時、先頭に立っていたミーラは、手振りで俺達を示しながら、そう言った。

「なるほど、どのようなものをお探しでしょう?」

 店員は、視線を俺達に向けて、そう訊ねてきた。

 すると、キャロはエミと顔を見合わせて、頷きあってから、キャロが、言う。

「その、できれば、ミスリル魔法銀オリハルコン魔法合金と言った、魔法素材の武器や防具が欲しいんですが」

 なんですと!?
 俺は、声には出さずに、ぎょっと驚いて、2人を振り返った。

 2人は、ドラゴン戦で武器を壊していた。キャロの槍が、銀の装飾板が外れているのは気づいていたが、エミの剣も実際には駄目になっていて、騙し騙し、使っていたらしい。

 もっと早くに言ってくれればいいのに、とは、思っていたのだが。
 それが理由で、帝都で調達しようって考えていたのかな?

「そうですか、それはちょっと、私では判断いたしかねますので、今、店主を呼んでまいります。しばらく、お待ち下さい」

 店員は、そう言って、店の奥へと向かっていった。

 その間、俺は、既製品のショートソードを見る。

「アルヴィン、剣を持つの?」

 意外そうに、キャロが訊いてきた。

「ああ」

 本来なら、儀式のために持ち歩いているものなんだが、今まで俺はそう言う面倒くさい儀式とか参加するつもりがなかったから、わざわざ買わなかった。
 だが、自身が準男爵となった以上、帝都でそう言う儀式に参加することもあるだろうし、儀仗用の剣を調達する必要があった。

「まぁ、青銅製でも構わないんだが、できれば実用性も考えて、鋼の物が欲しいな」

 ちなみに、本来、所謂銑鉄Ironは脆い。青銅の方が、実は耐久性に優れていたりする。より頑丈で、粘りがあるのは、平炉や転炉などで脱炭処理をした、所謂Steeleだ。

 日本のたたら製鉄なんかも、空気を送り込んで、銑鉄の中の余計な炭素を抜く製法である。

「ジャックはどんな装備品を探しているんだ?」

 俺は、丁度良さげな鋼のショートソードを手に取りながら、ジャックに訊ねる。

「そうだな、やっぱり俺も、魔法素材の武器がほしいんだが……」

 ありゃ、ジャックもかよ。

「ただ、矢だと、消耗品だからなぁ、そこに金をかけるってのは、ちょっとなぁ」

 ジャックは、ぼやくようにそう言った。
 確かに、それだと、いくらあっても足りない。たとえ今、ぶっ飛んだ額の現金があるとしても、だ。

「それだったら、弓の方に、魔力付与効果のあるものがいいだろうな。そう言うのは、魔法協会で扱っているよ」
「そうだったのか、なんだ。それなら、この前行った時に、相談すればよかった」

 俺が提案するように言うと、ジャックは、少し後悔するかのように、そう言った。

「まぁ、帝都滞在はしばらくの間になりそうだし、もう一度行く暇ぐらい、あるだろ」
「ま、それもそうか」

 などと、俺とジャックでやり取りしていると、

「待たせたな」

 と、俺達に声がかけられた。

 そこにいたのは、少しふくよかな、少年のような姿をした人物。
 鍛冶師の道具である、柄の長いハンマーを持っている。

「なんだ。ここは、デミ・ドワーフの鍛冶師の店だったのか」

 デミ・ドワーフ。ドワーフの近縁種。
 ドワーフと言うと、背が低くて老け顔で、髭をはやして毛むくじゃらというイメージがあるが、デミ・ドワーフは、エルフとドワーフの折衷、人間の少年のような姿をしている。

 目の前にいる鍛冶師も、少年のように見えるが、実際にはいい歳だろう。

「なんだ、デミ・ドワーフの店は信用できないっていうのか?」

 店主であるその鍛冶師は、少し不機嫌そうになって、言う。
 いや、今のは、俺の言い回しが悪かったか。

「あ、今のはちょっと失言だった。デミ・ドワーフの作る鋼は、優秀だと聞いているし、信頼はおけるよ」
「! お客さん、解ってるねぇ!」

 俺が謝罪しながらそう言うと、逆に、鍛冶師はニコッと上機嫌そうに笑って、言う。

 デミ・ドワーフは、すでに近代製鉄に近い方法で鋼を生産している。大型高炉と転炉の技術を持っているのだ。もっとも、石炭がないから、薪炭高炉ではあるんだが。
 少しずつ普及しているタービン式蒸気機関も、特にタービンにはデミ・ドワーフ鋼やその合金が使われることが多いと聞く。

「俺は、この店の筆頭鍛冶師で、エズラ・バーメスターって言うんだ、よろしくな」
「あ、ああ、よろしく」

 エズラが名乗ったので、俺は思わず、返事をしてしまっていた。

「それで、魔法素材製の武具を探しているって聞いたけど、何を探しているんだい?」

「あ、それは、こっちの2人で……」
「あ、よろしくお願いします」

 俺が、キャロとエミを、振り返るように手振りで指し示すと、キャロが、そう言って前に出た。

「私は槍、こっちのエミは片刃の剣がいいんだけど……」
「うーん……今、使っている武具は見せてもらっていいかい?」

 キャロが言うと、エズラはそう訊ねるように言ってきた。

「ええ、構わないけど……」

 キャロがいい、2人は、槍と剣を、それぞれエズラに見せる。

「何だこりゃ、槍の方は穂先がボロボロだし、それに……剣の方は、軸が曲がっちゃってるじゃないか」

 2人の武器を手にとって、観察したエズラは、驚いたようにそう言った。

「見た感じ、ドワーフ鋼製みたいだけど、よっぽどのことがなきゃ、こんなことにはならないぞ」

 エズラが言う。

「まぁ、ドラゴンとでもやりあった、というんなら、わからなくもないがな」
「あ…………」

 エズラの言葉に、キャロが短く声を出し、ミーラも含めた俺達5人が、顔を見合わせる。

「実は……そのドラゴンとやりあった時にそんな感じになっちゃって……」
「え、マジだったのか」

 キャロが、少しきまり悪そうに言うと、エズラは、驚いたような声を出した。

「紹介が遅れました。こちらは、今回準男爵に叙せられました、マイケル・アルヴィン・バックエショフと、その仲間の方たちです」

 ミーラが、手振りで俺達を指しつつ、そう言った。

「バックエショフ! そうか、あんたらが噂のドラゴン・スレイヤーだったのか!」

 エズラが、驚きつつも、口元で笑顔になって、そう言った。

「ええ、まぁ、そう言うことになる……かな」

 俺は、照れくさくなってしまって、笑って誤魔化すようにしながら、そう言った。

「なるほどな、この先もそれ以上の無茶な使い方をするんだったら、鋼の武具じゃ不安だよな。よし、ちょっと待っててくれ」

 そう言って、観察していた、今までキャロルとエミが使っていた武器を傍らに立て掛け、一度奥へと向かっていった。

「実は、教会でも、最初はドワーフの技匠の店を頼ろうと思ったのですが」

 その間、沈黙を避けるように、ミーラがそう言った。

「本祖派に抑えられた?」
「ええ、そうです」

 俺が訊ねると、ミーラはそう、即答した。

「ったく、あの本祖派のジジィ、しょうがねぇなぁ、こんなところまで、宗派対立持ち込みやがって」

 俺は、とうとう声に出して、そう、ぼやいてしまった。

「でも、その御蔭で、エズラさんのお店に行き当たることが出来たので、結果的には良かったんですけどね」

 ミーラは、そう言って、くすっと笑った。

「そりゃ、ちげぇねぇ」

 俺も意地悪く笑う。

 と、そんな会話をしていると。
 エズラが、穂先が不思議に輝く槍と、鞘に収められた片刃の剣を持って、戻ってきた。

「まずはこの槍、穂先と、軸の首の部分がミスリル製だ。これなんかどうかな?」

 エズラがそう言って、差し出してきた槍を、キャロが受け取ると、俺達を巻き込まない程度に距離を取って、その場で振り回し、構えの形をとってみせる。

「うん、今までのより軽いし、その割にしっかりしてるみたい。丁度いい感じだわ」

 キャロは、そう言って、垂直に持ち直した槍の、その穂先を見て、そう言った。

 次に、片刃の剣を受け取ったエミが、それを軽く鞘から抜いてみせる。

「これは……オリハルコン製?」
「御名答」

 エミの問いかけに、エズラは即答した。

 エミは、やはり、俺達から充分に距離を取ると、

「…………、ハッ!」

 と、正面からの打ち下ろしを、してみせた。

「うん、けっこう、馴染むみたい。これ、丁度いい」

 エミも、不思議に輝く刀身を見ながら、そう言った。

「良かった、まぁ、値段はちょっと張るけど」
「ああ、それなら、心配いらないわ」

 エズラの言葉に、キャロがそう答えた。まぁ、そうなんだよな。

「それと、私達、鎧や防具の類も探しているんだけど」
「そうなのか、うーん」

 キャロの言葉に、しかしエズラは、今度は、難しそうに、腕を組んで考え込んでしまった。

「防具ね……」
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