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第6話 貴族としての身の振り方を考えてみる。

Chapter-19

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「ようこそ! 我がローチ家へ、マイケル・アルヴィン卿!」

 そう言って、俺を自ら出迎えてくれたのは、ウィリアム・ジョンソン・ローチ。ローチ伯爵家の長男で、いずれローチ伯爵を引き継ぐ人物だ。
 そして、俺のパーティー仲間、エミの腹違いの兄でもある。

 ここは、ローチ伯爵家の帝都屋敷だった。


 ちょいと時間は巻き戻る。

 謁見と授爵を終えた俺は、皇宮を出た後、ローチ伯爵家の人間に会いたいと、エミに提案した。

 ちなみに、姉弟子は、魔導師が作る魔法教会の本部と、自身の帝都屋敷──姉弟子自身曰く“貴族街の貧乏長屋”──に顔を出すため、別行動をとっている。

「とりあえず、ローチ伯爵家とコネクションを持ちたいんだけど、エミはそれ、大丈夫か?」

 エミは、庶子という身の上が理由で、家を出て、わざわざ自身の家の領都であるローチェスシティのそれではなく、ブリュサムズシティの冒険者養成学校に通っている。
 だから、俺自身はローチ家とコネクションを持ちたいと思っていても、エミにとって実家は鬼門なんじゃないか、という心配があった。

「大丈夫、兄上夫妻が帝都屋敷に住んでるから、今のアルヴィンなら会ってくれる筈」

 エミはそう答えたが、俺が気にしているのは、エミ自身の精神的負担にならないかということだ。

「エミ、あなたはそれで、大丈夫なの?」

 それを代弁するかのように、キャロが心配気な表情で、エミに訊ねる。

「俺もそれが心配なんだ。無理にとは言わないし、他に考えもないわけじゃないし……」

 俺は、自分の言葉でも、エミに念を押した。

「別に、特に問題はない」

 だが、エミは、いつもどおりのクールでニュートラルな表情で、そう言った。

「大丈夫なのか? てっきりエミは家に居づらくなって出てきたんだと思ってたけど……」

 ジャックまでもが気にしたように声に出す。

「そうじゃなかったと言えば嘘になるけど、別に兄上や姉上と仲が悪かったわけじゃない。父上と喧嘩してるわけでもない。自分で家を出る判断をしただけ」

 まぁ、人の感情なんてデジタルに割り切れるものじゃないからな。
 肉親とは仲が悪くなくても、それ以外の部分で取り巻く環境がエミにとって心地よい環境ではなかった、と言うことは有り得る話だ。

「今のアルヴィンなら歓迎されると思う」

 エミが少しだけ笑顔になってそう言うので、その選択肢を選ぶことにした。


 で。
 俺達は今、ローチ伯爵家の帝都屋敷の応接室で、嫡男ウィリアムに出迎えられているというわけだ。

「まぁ、ブリュサンメル上級伯領での竜禍を未然に防いだ話は、もう帝都まで伝わっているし」

 ウィリアムが言う。あ、これやっぱ尾ひれ背びれついてんな……

「それに、エミの手紙で君の話が書いてあったこともあるよ。世話になっているそうだね」
「そんな、むしろ世話になっているのは俺の方で……」

 講義日の弁当とかな。
 俺は、決まり悪くなって、誤魔化すように苦笑してしまった。

「ただ、エミさんと一緒に、押しかけて、大丈夫かなとは思ったんですけど」

 俺が言うと、ウィリアムは渋い顔になって、眉間を抑えながらため息をついた。
 あれ、やっぱり触れちゃいけないところだったか?

 すると、ウィリアムが重々しく口を開いた。

「私や妹、あ、エミから見た姉に当たるわけだが……その真ん中の妹とは、年の離れた妹を可愛がっているつもりだったんだがね」

 ローチ伯爵の正妻との実子は、ウィリアムと、その妹である長女の2人。どちらも20半ばで、エミとはひと回り近く離れている。

「陪臣や奉公人の中には、庶子のエミの事を快く思わない者も多くてね、そこから庇いきれなかったことは、残念だよ」

 ウィリアムは、苦々しくそう言った。
 なるほどな、そういうことか。

 むしろ伯爵家に取り入りたい陪臣や平民の有力者にとっては、エミは邪魔くさい存在だったろう。

「別に兄上や姉上のせいじゃない。どの道いずれは独り立ちする必要があったんだし……」

 エミはエミで、ウィリアムを気遣うように、言う。

「まぁ、確かにそれはそうかも知れないけどね」

 エミの言葉に、ウィリアムは少し自嘲気味に苦笑した。

 ちなみに、応接室で、俺とキャロルが同じ側のソファに腰掛け、エミは、ウィリアムの隣に腰を下ろしていた。

 なるほど仲は悪くない、というよりいいんだな。

「それで、わざわざ我が家を訊ねてきてくれたということは、なにか用があるのかね?」

 ウィリアムは、軽くため息を付いてから、話題を切り替えて、俺に本題を促してきた。

「はい、実は、俺をローチ伯爵家の寄騎にしてもらえないかと思いまして」

「えっ?」
「おっ?」

 俺の言葉に、意外そうに声を上げたのは、キャロとジャックだった。

「それは願ってもない話だが……君の実家、いや実家の、バックエショフ子爵家は、ブリュサンメル上級伯の寄騎じゃなかったかな? それに、今回の授爵も、ブリュサンメル上級伯の後ろ盾があったんじゃないのかい?」

 ウィリアムは、悪戯っぽそうな笑みを浮かべつつ、俺にそう、訊ねてくる。

「ええ、ただ、まぁ、ちょっと、俺にも考えるところがありまして……」

 ひとつは、実家でお家騒動でも起きた時に、巻き込まれたくないってこと。

 正直あんな見捨てられたような辺境領地に俺の方からちょっかいかけようなんてコンマ1mmたりとも考えちゃいないわけだが、内紛なんぞ起こされた時に、同じブリュサンメル上級伯の寄騎だと、出兵を求められたりしかねないわけだ。

 そんな何の苦労のし甲斐もないしがらみはノーサンキューなので、ブリュサンメル上級伯とは距離を確保しておきたいのだ。

 そして、もうひとつ。
 むしろ、こっちがより重要な理由だったりするんだが……

「もしかして、エミを妻に、と考えているのかな?」

「!」

 ウィリアムが、膝の上で組んだ手の上に顎を乗せるようにしつつ、微笑しながら、ズバリそう言ってくれた。

 まいったなぁ、きっちり、読まれちゃったか。まぁ、その通りなんである。

「ええ、まぁ、今のところ、候補の1人、というところですが」

 妙に色めき立っているエミ、それにキャロもだが、その2人をよそに、俺はきまり悪そうに、苦笑しながら、そう言った。
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